75話:姫路とカルサイトとあの日の続き
──き……気まずい……。
アルカナがいたという事は、もちろん隊長もいる訳で。
オパールは、ああ言ってたけどこっちを見る隊長の目が恐い。
気まずいままだけど、ただ目を逸らさずじっと隊長を見た。
隊長も何も言わず鋭い視線だけが向けられている。
しばらく不穏な沈黙が続き、アルカナが私とカルサイトを交互に不安そうに見た。
その場の空気に呑まれたのか、ランショウも海賊二人も誰も何もしゃべらない。
「…………ハァ」
沈黙を破ったのは隊長の大きな溜め息だった。
「……邪魔だって、言ったよな。なんで付いて来たんだ」
「別に……隊長に付いて来た訳じゃないし。私はセレナイト様に褒めて欲しくて大精霊の洞窟に来ただけだしっ!」
嘘は言ってない。もしも、大精霊の暴走を抑えて尚且つ精霊の魔物化の原因がわかれば、セレナイト様にお褒めの言葉が頂けるに違いない。そして、セレナイト様との好感度だって急上昇するハズだ。
──ただ、そのついでに魔物に襲われそうな村を助けたって良い訳で……本当は隊長の事が心配だった、とか死んでも言わない。ぜーーーーったい言わないっ!!
「なんじゃヒメルちゃん? 魔物から村を助けに来たんじゃなかったかのぉ?」
「なァッ!!?」
背後から突然、隠していた事をズバリと言われてしまった。コランダムに飛ばされたランショウが知らぬ間に復活して余計なことを言いやがった。思わずランショウを思いっきり睨むも、ランショウはいつも通りにニコニコしていた。
──……こいつにやっぱり話すんじゃなかった!
怒りを込めてランショウの鳩尾に手刀を喰らわした。
「……余計な事を。ってか、アンタは誰だ?」
「儂か? 儂はランショウ! 風の国で人の為になるような、ならないようなガラクタを作ってる天才発明家じゃ! ちなみに壊れてしまったがあそこにある船も儂の発明じゃっ!」
自信満々に答えたランショウに、隊長はシラケた目を向けた。
どうでもいいが、ランショウの自己紹介が毎回びみょーに違うのはなんで?
「で、その天才発明家様がこんな辺境に何しに来たんだ? あと、そこの奴らはなんだ」
「儂はただヒメルちゃんを届けただけじゃ。こーんな何も無い所に用なんて無いわい。あ、あと彼処の奴らは海賊じゃ! 何じゃったかのー? ……ランダム船長?」
「タンビュラ船長ですッ!!!」
尽かさずセリサイトの訂正が入った。ランショウはワザと言っているのかケタケタと笑った。
「そう! そのタンビュラ船長の居場所を教えるのを条件にヒメルちゃんがここまでの護衛として連れてきた連中じゃ。黒くてデカいのがコラ。バンダナがダイ。ひょろっとしたのがセリじゃ!」
大雑把で的確な紹介をした。
「あぁ……あのおっさんの仲間って事か」
「で、お前さんはヒメルちゃんの隊長さんでー……カリカリフラワーくんじゃったかの?」
「ブフッ!!」
油断をしていて思わず吹き出してしまった。
やはり、ランショウはやはりワザと言っている。そう確信した。
隊長は笑った私をひと睨みすると名前を訂正もせず、馬へと跨った。
「オイ、海賊共。お前らの船長なら火の国の首都にいるはずだぞ」
「あぁーーーーッ!! なッなんで教えちゃうんですか!?」
思わず馬に乗った隊長に駆け寄った。
「コイツらを使って魔物と戦うつもりだったのかしれねぇが……余計な事すんな!」
馬から見下ろすその目はあの時私を置いていった目と同じだった。
「村のことはお前には関係ねぇだろッ!」
「関係なくないよ!! 隊長の大切なものを私も守りたいって思うのは関係ないことなんかじゃないよ!! 私だって心配してるんだぞォオ!!」
気圧されたのか隊長は何も言い返さず、かわりに眉間の皺が深くなった。
──……言った。言ってしまった。
あの時、あの置いてきぼりにされたあの夜に、言えなかった事を言ってやったのだ。
──いや、…………まだ言って無いことがある。
「私、隊長に守られなきゃいけない程弱くないですからッ!! 戦えますからっ! 逆に守ってあげますからッ!!」
コレはきっとあの日のやり直しなんだと、何故かそう思った。心臓がバクバクと早鐘を打ち、手が、足が僅かに震えていた。
「……ハァ…………勝手にしろ」
それだけ言うと馬を走らせて森へと一人進んでいった。
「また、置いてきぼり……」
「あたしも置いてきぼり?」
また置いていかれたが、あの日と違う事があるとすれば、肩にアルカナがちょこんと座っている事だろう。
「のぉのぉ、その子はなんじゃ? まさかその子は精霊なのか?」
ランショウは、アルカナに興味津々のようでアルカナがいる反対の肩越しからアルカナを見た。私が答えるより早く元気よくアルカナが答えた。
「そうだよー♪ あたしは人工精霊のアルカナだよー」
「本当に精霊とはの! 儂はランショウじゃ、よろしくのぉ」
私を挟んで2人が挨拶をしていた。
「オイ女」
その声に振り向けば、コランダムが復活していた。とは言ってもダイアスに持たれかかっているが。
隊長がタンビュラ船長の居場所を教えてしまったせいで海賊たちを御せなくなった。
「あーあ……。船長の言った事は本当ですよー……タンビュラ船長はサンティック号でセレナイト様達と火の国のアルヴァに向かってますよー」
──せっかく海賊達をうまく使って魔物退治を手伝わせようと思っていたのに。
肩をがっくりと落とした。
「それじゃねぇ。魔物から村を守るって……なんの話だ」
「あ、そっちの話?」
ランショウが先程言った事を聞いていたんだろう。
どうせ手伝って貰えないなら教えなくてもいいのでは、と思ったが妙に隠してまた絡まれるのは勘弁したかったので、海賊達にランショウに話した事と同じことを話した。
申し訳ございません。更新が遅くなりました。
ヒメルにいい事言わせたいと思ったけど無理でした!
アルカナととりあえず合流です!
24.5.8修正




