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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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73話:カルサイトと森と煙

カルサイトの視点のお話です。

 幽霊船を出てから二週間が経った。


 寝る間も、食べる暇も惜しみ、ただひたすらに育った村を目指して馬を走らせる。

 森を抜け、山を越え、平原を駆け抜け、川を越え、丘を超えているところだった……。

 本当はもう着いているハズだった。だが、村に向かうのに一番近い橋が魔物の襲撃で落とされてしまったていたのだ。船を出してもらおうにも、川に出た魔物を恐れて誰も船を出さなかったので仕方なく他の橋へと遠回りすることになったのだ。

 予定通りに橋を越えていれば、その先は割と平坦な道だったが、この道は勾配が激しい。

「メノウ、ザクロ。もう少しだけ気張ってくれよ……」

 ここまで自分を運んできた愛馬二頭に話しかけながら、その(たてがみ)を撫でる。

 殆ど休みなく走り続けているので疲れているのだろう。俺を背に乗せて走ってきたメノウは桶に入れた水をひたすら飲んでいた。

「ねーねー、隊長の村ってもう着いた?」

 もう一頭の馬から女の声がする。勿論馬が喋っている訳ではない。馬に括り付けた荷物から人形位の小さな顔がじっとこちらを見つめていた。

「予定より遠回りしてるからまだ着かねぇよ。この先の坂を越えれば森が見えてくる」

「むぅ。つまんないよー……あ〜ヒメルどうしてるかな?」

 そう言って口先を尖らせる女の子、いや精霊か……コイツが口にしたちんちくりんを思い出した。


 他の世界から来たという変わった女。

 この世界が辿る未来も俺の過去の事も知っていて、自分が好きなエルフが死なないようにと人を脅して使うような碌でもない女。

 自分の大切なもののためにかける熱意と行動力には正直脱帽する。

 エルフの神子様に会うために、海賊と戦ったと思えば、次は幽霊船で幽霊と友達になって救おうとするわ、エルフの国に着いたら考えなしにエルフの神子様に会いに行くわ。ただ、考えずに本能の赴くまま行動しやがるので、大変なのは近くにいる人間だ。


 俺が今、急いで村に戻っているのもアイツの言った事を信じたからだ。

 俺の過去についての話にしろ、精霊の神子のエルフの話にしろ、今のところアイツが言ったことに大きな間違いはない。


 今回の話も嘘を言ってるって訳でもないと思った。

──嘘なら、わざわざあのエルフの神子様と離れるような事は言わないだろう。

 嘘じゃない、そう信じたからこそ船に置いてきたんだ。


『お前は邪魔だ』


──まさか泣くとは思わなかった……。


 泣かせた事への罪悪感がどこか心の片隅をじわりじわりと痛めている。

 だが、今回のこの旅はアイツの為のものではなく“俺のワガママ”だ。

 強い魔物が出るとわかっているのに、俺のワガママに巻き込む訳にはいかないと思った。それに、万が一村の連中とちんちくりん、どちらも危険な目にあったら俺は迷わず村の人間を守るだろう。

 あのちんちくりんが弱いとは思わない。

 あのタンビュラを打ち負かし、ゴースト相手にも果敢に立ち向かった。


──弱いのは……俺だ。


 自分の所為で誰かが傷つくのが耐えられない。

 だからこそ、酷だとは思ったがアイツの武器でもある精霊を連れてきて戦えないように……追いかけて来れないようにした。

 流石にやりすぎかとは思ったが、これくらいやらないとアイツは付いてくるだろう。

 アイツは魔物と戦うつもりでいたようだが、村には年寄りばかりだ。彼らを守りながら戦うよりも無事に村から逃せばいい。


「……何か土産でも買っていけばいいか……」

 ちんちくりんは単純そうだから土産でも渡せば機嫌も治るだろう。

「おみやげ? ヒメルに?」

 気がつけば荷物から出ていた精霊が荷を担いでいる馬のザクロの背をトコトコと歩いていた。

 人通りが少ないとはいえ、誰かに見つかる前に荷物に戻ってもらいたい。

「ああ、あの嬢ちゃんは何なら喜ぶだろうな」

「んー……うーん……ヒメルが喜ぶもの? あっ! セレナイト様が喜ぶもの!!」

 悩んだ挙句に出た答えがそれだった。間違っちゃぁいないとは思うが、「それ一体なんだよ」って話だ。だが精霊は「ちゃんと言えた」とばかりに満足げな精霊にそんな言葉を返すのは憚られて「あーそうだな」と適当に相槌を返した。


 気がつけばメノウは水を飲み終えており、準備はできたと言わんばかりに鳴いた。

 精霊に荷物の中に戻るように言うと、メノウに乗り先を急ぐ。

 坂を登るとどんどん緑が濃くなり森の入り口に差し掛かる。

 ここにある木々もそこそこ大きいが、俺が暮らしていた森の木はこの何倍もの大きさがある。あのエルフの森に生えていた樹齢何百年もありそうな木々よりデカイものだってある。土の大精霊が眠る場所が近い為らしいが、俺はその馬鹿デカイ木を見ると、帰ってきたという気持ちになる。

「ん……何だあれ? 煙!!?」

 巨大な木を見上げると煙が立ち上っているのが見えた。

「まさか、村が!」


──いや、待てあれは村のある方向じゃない。

 自分にそう言い聞かせる。

 木が邪魔でよくは見えないが煙は村とは反対の方角、整備した森の入り口の方から上がっているようだ。村ではないようだが、何か胸騒ぎがする。

 俺は村へ向かわずに、煙が上がっている方に馬を走らせた。

カルサイトとアルカナが久々に登場して嬉しい。

今回の話で初めて馬の名前を出しました。

メノウとザクロ。

メノウは白色ベースのところどころに黒が入った芦毛で、ザクロは額のところに台形の白い模様がある茶色の毛の栗毛ちゃんです。……馬の毛色の名称間違ってたらごめんなさい。


21.2.25 誤字修正

24.5.6一部修正

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