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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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69話:コランダム、ダイアス、セリサイト

 あまりの騒ぎに下に集まっていた村人たちが今度はザワザワとしだした。

 山賊改め、海賊は人の事を人殺し呼ばわりするわ、怒鳴るわで収拾が付かず宿屋を……いいや村から一人脱兎のごとく飛び出した。

 足は確かに治っているようで痛くなかった。

 ひたすらに駆ける。駆けた。駆け抜けた。

 そうして息が切れるまで走り、さっきまでいた村は遥か後ろに小さく見えるだけになった。

「あっ……荷物忘れた」

 ……戻る? いや、諦めよう。

 首を横にめいっぱい振り、諦めた。旅に必要なものは全部あの中に確かに入っている。着替えも食料も地図もぜーーーーんぶあそこに入っている。

 装備もアイテムもなしにフィールドに出たとか自殺行為でしかない。


 わかってる!

 でも、ぜーーーーーーったい!!

 あそこには!!!!

 戻らないっ!!!!!!


「はぁ……仕方ない、歩こう……」

 とぼとぼと歩き出した。

  地図はないが、山賊たちと出会ったと思われる山が村の後ろに見える。記憶している地図(マップ)を頼りになんとなくの方角に向かって進んだ。


◇◆◇◆◇◆


 …………!


「うん?」


 しばらく歩いていると、後ろから何かが聞こえてくる。


 ──嫌な予感しかしない。


 思わず顔を顰めた。

「い、いや。気のせい気のせい! さっさと歩こう!!」

 後ろは振り向かない。少し歩く速さを上げて歩いた。


 ガ……ッ……ガタ、……ガタガタ……


 聞き覚えのある馬車の車輪の音に顔が、反射的に引き攣った。

「なんかガタガタと車輪っぽい音が……き、気のせい! 気のせい!!」

 絶対に振り向かない。自分にそう言い聞かせて腕を大きく振り強歩で歩いた。


「おーーーーい、待ってくれんかのぉ〜〜……荷物〜〜忘れとるぞぉ〜〜〜〜!!」


 その声に思わず頭から血の気が引く。

 聞き覚えのある、老人のような喋り方の男の声が後ろから聞こえてきた。

「あっー! ああっーー! 多分人違いッ!! 私じゃない!!」

 振り向いたら負けだ! 両耳を押さえながら全力で走り出した。


 ガタガタという馬車の音とともに別の男の声が聞こえる。段々と音が大きくなる。

 耳を塞いでいた両手を外すと、腕がちぎれんばたりに振りながら猛ダッシュした。


「やっぱり気づいてるんじゃねーーか! あの女ッ!!」

 低い男の罵声が後ろから聞こえてきた。あの浅黒い男だろう。

「俺たちの船を返しやがれぇーー!!」

 別の声がした。言ってることからしてバンダナの男かな。

「う、う……せんちょ〜〜うぅ、ぅ」

 泣きすぎてガラガラに枯れたこの声は気の弱そうな男だろう。

 その声が後ろではなく横から聞こえてきたので、つい横に顔を向けてしまった。向けてしまったのだ。


「やっほーヒメルちゃん!」

 ランショウがにっこりと笑って手を振っていた。

 そのあまりにも清々しい笑顔を見て、私は諦めて徐々に減速した。それに合わせて船を減速し、止まった。


「じゃあ自己紹介から行くぞ、儂の名前はランショウ! 発明家じゃ!」

 自分に親指を向けてランショウが名乗った。そして、その親指を今度は私に向ける。名乗れということらしい。追いつかれた私は船に乗せられると、ランショウを間に挟んで海賊(?)と向かい合うように座らされた。

「ヒメル……」

 いやいやながらに名乗る。

「そう! ヒメルちゃんじゃ!! で、そこの山賊は!? そこの黒い奴から順番に名乗れ!」

「俺たちは山賊じゃねぇ!! 海賊だったんだ!!」

 そう言って怒鳴ったのは浅黒い男だった。しかし次の瞬間、どこから出したのか判らない大きなハリセンで頭をどつかれた。パシーンっといい音が響く。

「山賊でも海賊でもどっちでもええがのぉ、名乗れと言ったんじゃからしっかり名乗らんか!」

 浅黒い男は軽く舌打ちをすると低い声で「コランダム」と名乗った。続けてバンダナの男が「ダイアス・ポア」最後に腰の低い男がビクビクとしながら「セリサイト・キヌ」と名乗っていった。

 それを満足気に見ると、今度は私とコランダムの腕をぐいっとひっぱり無理やり手のひらを合わせられてグッと握らられた。

「はい、握手じゃ。お互いをよく知れたところでこれからは仲良くするんじゃぞ!」

「はぁ? 何言って……」

「そんな訳あるかッ!! ふざけんなッ!!!!」

 私が思ったことを先に叫んだのはコランダムだった。

 無理やり繋がれた手を思い切り払い除けて、浅黒く太い腕は代わりにランショウの胸ぐらを掴んだ。

「この女共はなぁ、俺たちのアジトにしていた街を燃やしただけじゃなく、船を奪って、俺たちの船長を殺したんだ……そんなヤツと仲良くだと? 笑わせるなよ!」

 コランダムの目が血走っている。

 殺気剥き出しのその様子に怯むこともなく、ランショウが眉を少し下げて私に顔を向けた。

「と言っとるが……本当にそうなのかのぉ、ヒメルちゃん?」

「とんだ言いがかりだよ!! 確かに、船は貰ったし、タンビュラ船長も倒した。けど殺してなんてない! あと街を燃やしたのは本当に関係ないし!」

 街で爆発を起こして海賊を惹きつける作戦は、隊長が考えた事だし。

 実際に爆破して盛大に燃やしたのは双子とウッドマンさんたち陽動班だったから関係ないと言い切った。どうしてそうなったか、元を正せば私だろうが、実行犯じゃないので無罪を主張した。


 そう答えるとさっきまでビクビクしていたセリサイトが這うようにして足にしがみついてきた。

「う、うわぁッ!! 触んないでよ! 気持ち悪いッ!」

 突然のことで避けられず、あまりの気持ち悪さに全身に鳥肌が一気に立った。

「船長はっ!? 僕のタンビュラ船長は生きているんですか!!!!」

 縋るようにキラキラとした眼差しを向けられてた。

 ──ってか今、『僕のタンビュラ船長』って言いました!? どういう関係……いやッ! そういう関係なんですか!?


 しがみつかれた足をブンブンと振ると、セリサイトはあっけなく剥がれた。

「生きてるよ。今は別に行動してるけど」

 私のセレナイト様と一緒にね!

 心の中でそう付け加えた。


「生きてる! 生きていらっしゃる……よかった、ほ、本当に」

 また泣き出したセリサイトに代わり、ランショウに掴みかかっていたコランダムが今度は私の首元に手をかける。あと少しでも力を入れたら、首が絞まるだろう。

 コランダムの厳つい顔がすぐ目の前にある。

「船長が生きているなら、今すぐ俺たちをそこへ案内しやがれ。嫌だと言ったら……」

 首にかけられた手に力が入り首が絞まる。息を吸うどころか吐き出すことさえできない。体の中の空気が逃げ場を探して耳の奥を圧迫する。

「それ以上やるなら儂が容赦せんぞ」

 冷たい声でランショウがそう言うと手が首から離された。

「ゴホッゴホッ!! ハァ、ハァー……」

 逃げ場のなかった空気を一気に吐き出し、新鮮な空気を取り込んだ。

「大丈夫か、ヒメルちゃん?」

 ランショウが心配そうに背中をさする。

「わかったろ、これ以上痛い目に遭いたくなけりゃ今すぐ船長と船の場所に案内しやがれ」

「力で女をねじ伏せようとは最低じゃな。ヒメルちゃんに話があるっていうから連れてきてやったが」

「ランショウ、邪魔……」

 話を斬るように目の前に立つランショウを自分より後ろに引っ張った。

「タンビュラのところに、案内しろ、だって……?」

 コランダムの目の前に立つ。タンビュラほどではないが体格さはまるで大人と子供だ。

 だけど怯まずコランダムの胸ぐらをグッと掴んでやった。

 見下ろすコランダムに向かってこう言ってやった。


「イ・ヤ・だ・ね!!」


 普通の女の子なら泣いたり、怯えたりするだろう。だけど生憎と私笑ってみせた。


 

21.2.11誤字修正

24.5.3修正

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