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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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54話:姫琉は無計画


「“アクアランス”」


 セレナイト様の詠唱が聞こえ、とっさに手に抱えたアルカナを覆うようにしゃがみ込んだ。


 “アクアランス”その名前の通り、水の槍が敵に向かって襲いかかる水の精霊術。

 走って避けるのも難しく、ゲームでは光の精霊術の“光の壁(リフレクター)”や聖魔術の“守護結界"でのみ防御ができる。

 命中率が高いが、攻撃力は低い。


 ただし、ゲームの中での話だ。


 自分の目に映る水の槍は、ひとつだって当たったら致命傷になりそうだ。

 ゲームの世界なのにステータスを確認できないから、自分がどのくらいHPを持ってるかなんてわからない。しかし、ラスボスの攻撃を受けて生きてる程は持ってないだろう。

「あ、あれ? 痛く……ない?」

 どれだけ持とうと痛みが襲ってくることはなかった。恐る恐るしゃがみ込んだ顔を上げると。

「ヒッ!!」

 水の槍がすれすれの所で止まっていた。

 次の瞬間には、水の槍は水へと姿を戻した。

 もちろん戻った水が私に降り注いだことは言うまでもない。

 ──既に先程のウォータースライダーでビショビショだから気にすることじゃないけど。


「……何故、その精霊をかばった?」

 目の前にいたセレナイト様が問いかける。

 眉ひとつ動かさず、冷たい視線で私を見て、冷たい声で問う。


「だって、アルカナは友達だから……」

 その言葉にセレナイト様の眉がピクリと動く。

「友達、だと? 精霊と人間が……?」

「そ、そうです」

 私の答えを聞き、セレナイト様の皮肉な笑顔を浮かべた。

「フ……精霊と人間が友達? 実にくだらない。戯言だな」

 その言葉に反論したのは手の中にいたアルカナだった。

「もぉ〜ッ! 怒ったんだから!」

 いつも笑顔のアルカナが眉を吊り上げて怒りをあらわにし、私の手を押し退けてセレナイト様の目の前に飛び出して行った。


「精霊と人間が友達になったっていいじゃない! どうしてそんな意地悪言うの!?」

「意地悪などではない。事実を言ったまでだ」

 ピシャリとアルカナの反論を切り捨てた。


「人間に造られた君には理解できないかもしれないが、精霊と人間が手を取り合った時代など遥か昔の事だ。だから、邪な人間からあなた方精霊を護るために……私がいる」

 そう彼女は精霊の為に存在する神子だ。

 精霊を護る為だけに生きている神子の彼女にとっては信じられないのだろう。

 ──私もアルカナがこうして見えて話せるから友達になれた訳だが。

 普通の精霊とならこんな風になれたか、わからない。


 アルカナがセレナイト様を再びポカポカと殴り始めたが、セレナイト様はなんでもないかのように手で受け止めた。

 アルカナの事を“精霊”と呼んでいたので、危害を加えられることはないだろう。

 だが、このままでは話が進まない。私は、ここにセレナイト様を救うために来たのだから。


「あ、あの!」


 勇気を持って言葉を絞り出す。

 明らかに二人の邪魔をした形になったが、今この瞬間を逃したら絶対話しを切り出せない。

「私たちは、精霊の神子であらせられるセレナイト・テオ様にお願いがあって参りました!」

 その場で全力で土下座をした。頭が水で濡れた床に触れて少しひんやりする。

「願い、だと……?」

「はい、セレナイト様もご存知かと思いますが近年、精霊の魔物化が増えております。しかし、これは始まりに過ぎません」

「……」

 返事はないが、反論もない。

 頭を上げずにそのまま話を続けた。


「あと一ヶ月ほどで、各地で精霊が大量に魔物化し世界を襲うことになります。そうしたら、精霊にも人間にも大きな被害が出るのです。私は、どうしてもそれを回避したくて、失礼を承知で精霊の神子であらせられるセレナイト様にご助力いただけないかとお願いに参りました」


 ゲームの始まりである“鎮守祭”まで気がつけばそれだけの時間しかない。

 “精霊暴走”が起きれば、主人公とヒロインが冒険に出てしまう。


 その前にセレナイト様と冒険に出て、主人公の代わりに私とセレナイト様が共に精霊を鎮めて回れば主人公と戦わずにすむ。つまりは、セレナイト様が死ぬことには決してならない! という実に素晴らしい考えだ。


「……何故、たかが人間如きがその様な事を断言できる」

「なぜって……ゲームで」

 ゲームで観たから──そんなことを言っても理解できないだろうし、隊長の時のように正直に話してもきっと信じてはくれない。

 かといってここで適当な事を言ってもすぐにバレる気がする。

 笑顔のまま、硬直した。

 何も浮かばず、いいアイディアは出ないのに冷や汗だけがダラダラと流れていく。


 ──い、一体どうすればいいんだ!!


 会えばきっとどうにかなると思っていた。

 軽く事情を話せば『なるほど、精霊の危険なら行かないわけには行かない』と言って一緒に来てくれると思っていた。

 …………浅はかだった。

 そこに疑問を投げ掛けられるなんて考えてもみなかった。


 ──もうちょっと、ちゃんと考えてくればよかったぁあ!!


 これほど自分の無計画さを呪うことはないだろう。私はただ、セレナイト様が幸せになって欲しいだけなのに。


「答えられぬのか、だったら……」

 再び水が槍へと姿を変える。


 あ……今度こそ死んだわ。

 推しに殺されるなら、それはありじゃないかな? なんて考えていたら。

 “カツン、コツン“

 誰かの足の音が聖域に響いた。

 振り返ると通路を歩いてくるのは、隊長ことカルサイトの姿がそこにはあった。

 胡散臭い顔で笑いながら、通路の端まで来ると膝を付き頭を下げた。

「精霊の神子様。うちの部下が言葉足らずで誠に申し訳ございません」

「た、隊長……?」

「なんだ貴様は……」

 水の槍が私から隊長へと向けられる。

 しかし、顔を上げた隊長は水の槍を前にしても、眉を少しだけ下げ困った様に笑った。

「わたくしは、カルサイトと申します。精霊石を売って商いをしている商人でございます」


 その彼の姿は、私が普段知っている隊長でも、ゲームで知っているスモモちゃんでもなく、初めてみる、商人・カルサイトとしての彼の姿であった。


この話なかなかまとまらなくって、書くのに時間がかかってしまいました。

具体的に言えば、姫琉が何を言っても大体セレナイト様の怒りを買っちゃう。


「あ、だめだ。これまた姫琉死ぬわ」

ってなり色々書き直した結果こうなりました。

次回、カルサイトがどうにかしてくれるって信じてます!


21.7.24 加筆修正

24.4.29加筆修正

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