52話:姫琉とウォータースライダー
青く光る神秘的な明かりに近づくに連れて、覆い被さるように生えていた木々が数を減らしていく。
「うわ……どうなってるんですぜ、コレ?」
そう言ったのは先頭を歩いていたキン兄だった。
青く光るそれを私たちは見上げる。
神秘的な光を放つそれは、巨大なドーム状の光の壁だった。
ここからでは大きさを正確には測れないが、見た感じとゲームの記憶を思い返せば、おそらく小さな村一個分くらいの大きさがあるだろう。
──これは聖域を護るための結界。
迂闊にも、その結界に触ったウッドマンさんが結界に弾かれて「うわっ!」と言う悲鳴と共に触った指先を赤く腫らしている。
「こ、こここんなのどうやって入るのであるか!?」
辺りをキョロキョロと見渡した。
「ゲーム通りならどこかに……」
モニター越しではあったが、私はこの場所に来たことがある。記憶を呼び起こしながらあるものを探した。
「あ、あった!」
それを見つけると、みんなから離れてその場所に一目散に向かった。
「どこ行くの、ヒメル?」
私がその場から離れたことに気づいたアルカナが後を追いかけてきた。続けて、他のみんなもゾロゾロと付いて来る。
目の前には、身長の倍はある苔むした石碑があった。そこには、赤、青、緑、橙の四つの精霊石ががそれぞれはめられている。
ゲームでは、ここに地水火風それぞれの精霊が魔力を送ることで入り口が開くのだが……。
チラッとアルカナを見る。
うちのパーティーにいる精霊は水まんじゅう、つまり水の精霊しかいない。
それ以外の地・火・風の魔力は全部アルカナに頼ってしまう事になる。
上手く出来るかわからないが、それ以外に方法がない。失敗した時のことは、失敗した時に考えよう。
それぞれの精霊石に魔力を流して欲しいと、アルカナそしてギン兄と水まんじゅうにお願いをすると二人とも「まかせて!」と快く返事を返してくれた。
青の精霊石に、水まんじゅうが魔力を流すと青色の石がピカッと光輝く。
それに続けて、アルカナが他の三つの石にまとめて魔力を流すと三つの石も同じ様に光輝いた。
光が石から離れ、ぐるぐると旋回しながらドームの壁にぶつかるとそこにポッカリと人がひとり位通れる入り口が現れた。
「これは、これはやばいってッ! めっちゃRPGっぽいじゃん!!」
実際に見る演出のかっこよさに悶えていると、後ろをドンと押された。
振り返ると、隊長がじとっとした目を向けて「さっさと行け」と急かしてくる。
──せっかく余韻に浸ってたのに……。
「ちぇ〜」と文句も言うも確かに急がなくては。
朝になればエルフに気づかれるリスクも上がるし、何より朝になったら入り江で待ってる骸骨が朝日で浄化されてしまう恐れが。
──それはヤバいっ!
先程とは隊列を変えて、先頭に私とアルカナ。
それ以外は先程と同じように入口を一列に入っていく。
入口を通ると、その先は少し急な石造りの階段が延々と続いていた。階段は薄暗く、少しカーブを描いているので出口はここからでは確認できなかった。
この先の聖域を"ウルズの泉"と言うだけあって、階段を水が降っている。
階段を降りる度に、ピチャピチャと水音が反響する。
──この先に、セレナイト様が……。
「急がなくては」という気持ちと。
「推しに会える」という気持ちが階段を降りるスピードをドンドン速くする。
「そんなに急ぐとあ」
危ないとキン兄が言いかけた時だ。
“ズルッ”と濡れた地面に足を取られた。
「へっ?」
体が一瞬中に浮いたように感じた。
次の瞬間には想像通り、階段をウォータースライダーの様に滑り落ちていく。
「うひゃあああああああああッ!!」
「ヒ、ヒメル!? 今助けるよ!!」
滑り落ちて行く私を助けてくれようと、アルカナが精霊術を使ってくれた。
ところで、精霊術って契約者が想像したものがカタチになる。
私はアルカナと契約はしていないが、アルカナはいつも私の想像をカタチにしてくれる。
ヘルハウンド戦の“沼“、タンビュラ戦の“洗濯機の様な水”、ダイア戦の“石の壁”。
がこの時、私は何を考えてたって?
そりゃもちろん! “ウォータースライダー”だった。
次の瞬間には、階段を埋め尽くす水が流れてきた。私だけではなく、みんなが巻き込まれて現れた水の上を流されていく。
「……やっちゃった♪」
流されていく中で軽く反省した。
「テメェー! 後で覚えてろよっ!!」
なーんて隊長がやられキャラみたいな台詞を叫んでいるが気にしない。
水の音とウッドマンさんの悲鳴やらが反響して、忍び込んでいるって事を忘れているくらいに辺りが騒がしくなる。
コレ、慣れてくると意外にも楽しいかも!
安全性に問題がありそうだが、スリルは満点だね! などとポジティブに考えてみる。
薄暗かった階段が幅を広げてその先に光が見えた。
「出口だ!!」
広がった空間に水の勢いで投げ出されて、思いっきり胸から落ちた。
ジンジンと痛いがそれどころではなく、体をガバッと起こした。
目の前に入ってきた光景は神秘的であった。
先程のドームと同じ広さのその場所は、天井は遥か高く、青白く光る壁には至る所から水が湧き出していてまるで滝のようだった。
落ちた水の先は泉になっていて、さまざまな色、大きさの精霊石が沈んでいた。
そして、その中央に島がある。
円を描くような島の中央にひとりの少女が立っていた。
この少女は冷ややかな声で「人間ども、ここは精霊の聖域であるぞ……何をしに来た」そう言ってきた。
聖域に響くその澄んだ声は紛れもない、推しの声だった。
やっと、やっと推しが出せました!!




