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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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50話:姫琉と借金

 幽霊船の甲板の上から双眼鏡を覗き込む。そこには霧の向こう薄らと陸を確認することができた。


「あれがエルフの国、アールヴヘイムか……」


 幽霊船で航海をして早三週間。

 ゲームでは一瞬の道のりに、まさかこれ程時間がかかるなんて。

 それでも、幽霊船は魔力で動いているので風や波に左右されず最速での到着らしい。


「あそこにヒメルが助けたい子がいるの?」


 アルカナはすっかり元気を取り戻し、私の肩にちょこんと座っている。ダイアにやられた傷はウッドマンさんが治癒魔術で治してくれた。ウッドマンさん曰く、専門外らしいが一応使えるとの事。


 そんなウッドマンさんは、魔力の使い過ぎによる過労とか諸々で今は骸骨たちに手厚い看病を受けている。


 最初の二、三日は骸骨に怯えていた私もすっかり彼らに慣れた。会話ができない分、リアクションがいちいち大袈裟だが気の良い連中だ。

 特にあの時の骸骨コックとは、お夕飯のリクエストをするくらい仲良しだったりする。


 それはさておき。念願のエルフの国を目前にして、私は重大な問題に直面している。


 あれは、幽霊船でエルフの国に行くと聞いた後。

 海賊船にアルカナの様子を見に戻った時だった。



 ◆◇◆◇◆◇


 海賊船には、船員が休むための小さな部屋が一室用意されていた。中には寝るためのハンモックがいくつも無造作に張られて、部屋の中央には小さな正方形のテーブルに椅子の代わりに木箱がいくつか置かれているだけの場所だ。

 隊長にアルカナはそこで休んでいると聞き向かった。

 簡素な扉を開けるとテーブルに小さなカゴがあり、そこでアルカナが眠っていた。

 その傍らには木箱を椅子にしてキン兄がテーブルに向かって何かを書いているようだ。


「ヒメル嬢、無事だったようでよかったですぜ。おや、隊長たちは?」

「男どもは幽霊船で宴会してるよ。アルカナは……眠ってるの?」

 カゴの中を覗くとアルカナが両足を抱き抱えるように丸くなっている。


「さっきウッドマンさんが治癒魔術をかけてやしたから、すぐ良くなると思いますぜ」

「そう……よかった」


「かわりに魔力不足でウッドマンさんがそこのハンモックでぐったりしてますぜ」

 ちょっと視線を奥に向けるとハンモックから深緑の髪がだらりと見えた。

 ピクリとも動かないが、流石にキン兄でも殺してはないはずだから、きっと眠っているんだろう。

 二人を起こさないように木箱をキン兄の向かいに動かして、そこに腰をかける。

 机の上に置いてあるランプの火がキン兄の手元を微かに照らしていた。


「キン兄、それ何書いてるの?」

 好奇心でそう聞くとちょうど書き終えたらしく、紙をくるくると巻いた。


 そして、笑顔でその巻かれた紙を私に差し出してきたのだ。

「え……これは?」

「これはヒメル嬢宛の手紙ですぜ」


 魔王のような黒い笑顔が向けられる。

 全力で嫌な予感しかしない。

 受け取ったら後に引き返せないような……バットエンドしか見えないような……。

 しかし、拒否権がない事はその笑顔が語っていた。


 仕方なく紙を受け取った。

「私、こっちの世界の文字ミズハ語くらいしか読めないんですが……」

「大丈夫ですぜ。ヒメル嬢も読めるようにミズハ語で書いてますから」

 

 ニコニコ笑うキン兄を見つつ、恐る恐る紙を開いた。

 最初に目に入ってきた整った読みやすい文字で

[請求書]と書かれていた。

 内容がわかりやすいように箇条書きにされていて、横に金額が記載されていた。


 ・火薬代:20,000テル

 ・火の精霊石使用料(一回):4,000テル

 ・風の精霊石代:600,000テル


 ついでにニャポリで借りたお金も書かれていた。


 ──合わせて、628,690テル。


「いやいやいや! っていうか殆ど身に覚えがないんですが!」

 思わず寝ている二人のことをすっかり忘れて、大きな声が出てしまう。

「火薬代とニャポリで借りたお金はわかるけど、あと二つは知らないよ!?」

 声が大きすぎたのか、奥のウッドマンさんが少し体を動かし、うーん……とうなされていた。

 しかし、起きてくる様子はない。

 その様子を見てキン兄が口元に指をあてて、静かにするように促してくる。仕方ないと言いながら少し声を潜めてひとつひとつ内訳を説明していく。


 火の精霊石はヨーデルカリブ港で港を爆破する時に、風の精霊石は幽霊船に追いつく為に大量に使ったとのこと。


「それに、風の精霊石は隊長とヒメルで半々に割ってますんで、これでも全然安いですぜ?」




 ◇◆◇◆◇◆


 ──思い出しただけでもげんなりする。


 主人公のショップで買える一番高い武器だって50,000テルだったかな。

 それの倍の借金なんて、返す目処なんて立たない。


 モンスターを倒しても、落とすお金なんてこの借金の前には微々たるものだ。

 ちなみに今までちまちま作った指輪は、まだ売っていないから売り上げ0。

 しかも売ったとしても、材料費を引かれると一個あたり手取りが250テルくらいらしい。


「これはセレナイト様を救ったら二人で逃避行に出るしかないかな!!」


「そんなことさせるか!」

 “パコン“と音を立て後ろから殴られた。

「痛ッ!」

 後ろを振り返れば眉間に深いシワを寄せた隊長と困った顔をしたギン兄が立っていた。

 隊長が手持っている丸めた紙をハリセンのようにバシバシ鳴らしてくる。


「ったく、ちょっとは返す努力を見せろよな」

「努力を見せたらまけてくれますか?」

 声のトーンを少し上げて満面の笑みで隊長を見上げる。間髪いれずに紙で額に一撃を入れた。

「っ~地味に痛いんだけど」

「誰がまけるか! 殆んど自業自得だろ。それとこれは追加だ!」


 そういうと、隊長は殴ってきた紙を手渡してきた。


 ──嫌な予感しかしないけど。


 紙を開くとそこには再び[請求書]と書かれていた。


 ・退魔の弾丸一発:8,000テル



「……まだ増えるの? 今回のを足して…………636,690テル……」

 あまりの金額に気が遠くなる。だが、よくよく考えれば前の金額でさえ返せる見込みがないので、増えた所で結果は変わらない。深く考えないことにした。


「ゲームだって気がつけばお金貯まってたし! きっとどうにかなるって!! ……たぶん!」

「だ、大丈夫っすね! コツコツ働けばいつかは返せっるっすね!」


 見兼ねたギン兄が、励ましの言葉をかけてくる。


「……そういえば火の国にはカジノがあったような?」

 メインストーリーを優先してやってたので遊んだことはないが、火の国にはカジノという名のミニゲームができる場所がある。

 スロット、バカラ、ポーカーなど一攫千金を狙えるところだ。



「「それだけは、絶対にやめとけ!!」」「っすね」



 二人が声を揃えて言った。

とりあえずエルフの国は見えたけど上陸できませんでした。

次回は上陸です。


《補足》

姫琉の借金を硬貨にすると

金貨5枚、大銀貨9枚、小銀貨3枚、大銅貨9枚です。


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