表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/172

4話:姫琉と転生

 東西にそれぞれある大きな大陸。

 欠けた月の様な形をした大陸。

 南に位置する大小の島々。

 そして、地図の遥か北西に位置する小さな島。

 それはゲームの画面越しに何度も何度も観たものだ。


 ──間違いない。これは『エレメンタルオブファンタジー』のワールドマップだ!


 それを見た瞬間、頭の中で一つの“可能性”がよぎったが、それを決定付けるものはない。


──私が知らないだけでアニメショップで売ってるポスターとかかもしれないし。

 一瞬考えるも空中旋回しているアルカナを見るとやっぱり期待してしまう。

 夢じゃないかと念のため自分の頬を思いっきりつねってみた。

「めっさ……いはい」

「えっえぇ!? どうして自分をつねってるの!?」

 驚いたアルカナがつねった頬を小さな手で撫でてくれる。つねった頬は痛かったが、私は夢から目は覚めなかった。森で切った手足の傷もじくじくと痛む。やっぱり夢じゃないみたいだ。

 ここが夢ではないのであれば、やっぱり……。

 いやいやいやいや。でも、そんな事ってある!?


 転生してしまったのだ!

 エレメンタルオブファンタジーの世界に!!


「そんな、そんなラノベみたいな事ある? そりゃ、どうせ死んだのならゲームの世界に転生したいな的の事言ったよ? でも、そんな事ってあってもいいの? ……ラノベなら週に一回ぐらいは、転生された誰かの漫画や小説が発売してますよ! アニメだってワンクールごとに一作品くらい放送されちゃうくらいよくあることかもしれないけど………。現実的にそんな事ってあるの!?」


 あまりの衝撃に考えてることが口から次々溢れてくる。

「で、でも、私……私のままじゃん? 転生したらスライムだったり、悪役令嬢だったり、どっかの王族の子供だったり、チート能力身につけたりするもんじゃないの!?  いや、でも自分が気づいてないだけでチート能力あったりするの!? 最強外道魔法の使い手とかだったり!?」

 鼓動はどんどん早くなり、もはや自分が何をやっているかさえわからなくなってきた。俗にいう、パニック状態だろう。


「あぁー!! どうなってんの誰か教えてぇええッ!」

「……ヒメル? ヒメル本当に大丈夫?」

 心配そうにアルカナが声をかけてきた。

 アルカナを見て、私はひとつ閃いた。

「あのね、アルカナに聞きたいことがあるんだけど……」

「んーなになに?」

「あのね……この国のね、名前が知りたいんだけど…知ってる?」


 エレメンタルオブファンタジーの世界には、地水火風をモチーフにした国が四つと光の国、そしてエルフの国の全部で六つの国からなっている。

 地図中央の欠けた月の様な形の大陸。光の精霊の加護がある土地【光の国エリュシオン】。

 東側の大陸にある国は二つ。北側から三分の二までが土の精霊が多く集まる【土の国サンセムナイト】。

 大きな山脈を挟んだ南側が風の精霊が多く集まる【風の国イケシカ】。

 西側の大陸には、火の精霊が多く集まる砂漠の大地【火の国アルヴァ】。

 南に位置する大小合わせて七百五十六の島々からなる、水の精霊が多く集まる【水の国ミズハ】。

 最後に人間が立ち入る事の出来ない。精霊が産まれるといわれる国【エルフの国アールヴヘイム】。


──アルカナがこの中のどれかの国名が出たら、私はゲームの世界に転生したことにしよう!


 大パニックの末に、アルカナに全部託す事にした。

 知らない国名だったら、ここは風変わりなあの世。

 何とも無責任だとは思うが、他に名案が浮かばないんだからしょうがない。

 そんな重大な事を託されているとは梅雨知らず、アルカナは元気に答えた。


「知ってるよ! ここは土の国サンセムナイトだよぉ♪」

 その言葉を聞いた途端歓喜をあげた。


「よっしゃあああ! やっぱり私はエレメンタルオブファンタジーの世界に転生したんだぁぁあ!!」

 嬉しさのあまり思わず踊り出す。といってもなんちゃって阿波踊りだが。


「よくわからないけど、ヒメルが嬉しそうで良かった♪」

 アルカナも真似して一緒に踊り出す。

 とりあえず、ここはゲームの世界(で決定)!

 すると一つ疑問が生じた。

「……人工精霊って何?」

 先程アルカナは、自分のことを人工精霊だと言っていた。

 エレメンタルオブファンタジーの中では、そんな精霊は存在しなかった。

 いるのは地・水・火・風の精霊とそれらを束ねるとされている光の精霊。後は、精霊に近いとされるエルフ位だ。

 そんな素朴な疑問を投げかけると、待ってました! と言わんばかりに説明をしてくれた。

「あのね! あのね! アルカナは、“お母さん”が作った地水火風の精霊の属性を全部持ったスーパー精霊なんだよ♪ すっごいんだよ♪」

 腰に手をあて自慢げに答える。

 確かに、火の精霊は火しか使えないし。風の精霊は風しか使えない。


「でも他の精霊みたいに“不可視の存在“じゃなくって、姿が色々な人に見えちゃうんだけど…。でもでも、みんなの目に映るおかげでこうしてヒメルとも会えたし!」


 ゲームの中では、一部の精霊以外普通の人の目に精霊は見えない。

 ヒロインやセレナイト様など“精霊に愛された子”にしか見えない設定だった。


 アルカナは姿は消せないけど、全部使える精霊として作られたってことかな?そもそも精霊って作れるの? 疑問は限りなく出てくるのだが。

「あたしすごい? すごいでしょ!?」と目を輝かせこちらを見つめてくるアルカナを見ていたらそんな些細な事は気にしなくていいかなと思ってしまう。

 犬みたいで可愛いなぁとか、考えながら思わずアルカナの頭をそっと撫でていた。するとアルカナはご満悦な顔をした。


 この子、可愛すぎませんか?

 アルカナの無邪気な可愛さに、既にメロメロだった。


 さて疑問は尽きないが、そろそろ次の事を考えないといけない気がする。

 ここがエレメンタルオブファンタジーの世界だとしたら、私がやりたい事は“ただ一つ”!

 このゲームのラスボスであり、私の最推しである『セレナイト様を助けたい!』だ。


 私が転生した事に理由があるとしたら、きっとセレナイト様を幸せにしてあげることだと思うんだよね!

 自分の中で、絶対的使命感が生まれていた。


 ゲームでは殺されてしまったセレナイト様。

 そして、彼女の本当の願いを私は知っている。

 今なら彼女の『生きたかった』という願いを叶えてあげられるチャンスを私は手に入れたのだ!


 ……ただ、この世界がゲームが終わった後の世界とかだったらどうしようもないけど


 「現状を知るためにも急いでこの森から出なくちゃ……」


 呟いたその言葉が聞こえたらしく、アルカナが慌てて飛び上がる!

「ヒメルもう行っちゃうの!? もっとここにいようよ……一人は寂しいよう……」

 今にも泣き出しそうなその表情にとても困った。困った末に、私は正直に全部話す事にした。

 死んでこの世界に転生した事。

 ここが自分のよく知っている物語にそっくりな事。

 もしそうなら、ラスボスを助けたい事。

 これは自分に言い聞かせるためでもあった。

 そして、こんな突拍子もない話をアルカナは真剣に聞いてくれた。

 全部話し終わると、さっきまでの泣きそうな表情とは一変して笑顔でアルカナはこう言った。


「あたしも一緒に冒険に出る! その子を助けるの手伝うよ♪」

「……いいの? それに私の言った事、信じてくれるの?」

「もちろん♪どんな事でも“ありえない事はない”ってお母さんがよく言ってた。だからヒメルの話、あたしは信じるよ」


 そんなアルカナの言葉を聞いたら、自然と涙が溢れる。

 誰かに信じてもらえることが、こんなにも心強いなんて。大好きなゲームの世界に来れたからと言って、不安でいっぱいだった。

 でも不安でいっぱいだった心はその言葉で、スッと……安心感で満たされた。私は涙を拭い目一杯の笑顔で答えた。


「アルカナ!  私と一緒に冒険に出ようッ!」

「これからよろしくねヒメル♪」


 アルカナを仲間に長い冒険の幕開けである。


2020.10.14にワールドマップを挿入しました。

20.11.02加筆修正

20.11.10加筆修正

20.12.4加筆

21.12.19修正

22.5.22修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ