41話:姫琉と幽霊船戦
「アルカナ! よかった……元気になったんだね」
ダンビュラとの戦いで、魔力を使いすぎ休んでいたアルカナがいつもの元気な姿で目の前にいた。
「あのね、あのね! ヒメルが攫われちゃったって聞いたから、みんなで助けに来たんだよ!」
深い霧の中から、髑髏を掲げた黒い船がそう遠くない距離に見えた。船からは、大きな音とともに大砲が幽霊船目掛けて放たれる。
さっきの船の揺れと音はコレだったんだ!!
しかし、砲弾は幽霊船に当たる前に、ダイアの影によって海に落とされていく。落ちた砲弾が波を起こし船体が揺れ、膝を立てて座っているだけでやっとだった。
でも、今のうちにダイアを倒す方法を考えないと!
ちなみに、逃げるという選択はない。逃げたらダイアはオパールをどうするかわからない。友達を見捨てるなんて、そんな目覚めの悪い事は絶対にしない。
「ヒメル、アルカナも一緒に戦うよ!! どうすればいい?」
可愛い精霊はなんとも勇ましいことを言ってくれる。
幽霊、いや……ゲーム的に言えばゴーストには、通常の物理攻撃が効かない。アルカナが手伝ってくれれば、効果は薄いが精霊術でダメージを与えることはできるかもしれないが。
「でも……」
思わず言い淀む。また、アルカナに無理をさせたら、今度こそアルカナが精霊石になってしまうかもしれない。そんな想像をするとアルカナに精霊術を頼むことを躊躇してしまう。
「大丈夫だよ、ヒメル。あたしはヒメルとコレからもずっと一緒にいたいから、ヒメルのために出来ることをやりたいんだよ」
「アルカナ……」
「それに無理そうだったらちゃんと言うから!」
アルカナの優しさに思わず、ときめいてしまうがそれどころではない。両の手で頬を叩き気合を入れる。
考えなちゃ! アルカナに無理をさせすぎないでこの場を切り抜ける方法を!!
まずは状況を確認しなくてはと、辺りを見回す。
私のすぐ横にはへたりこんだままのオパール、後ろには船酔いでグロッキーになりかかっている隊長が、そして、私たちの向かいに幽霊メイド・ダイアが海賊船の砲撃に対して応戦中で、こちらに背を向けている。
ゴーストの弱点は光属性の攻撃だ。光の精霊術、聖魔術、もしくは光か聖属性の効果がついた武器なら物理攻撃も有効だ。
さっき無くした退魔の弾丸とかね! 結局見つからないけどけどねッ!!
普通の精霊術でもダメージ自体は入るけど、地道にHPを削らないと倒せない持久戦だ。HPゲージも見えないのにそんな地道な作戦は、ペース配分を間違うとアルカナが魔力不足になってしまう恐れがある。
そこで不思議なことに気づいた。
物理攻撃が効かないなら、なぜ今もダイアは砲弾を落としているのか?
船を守るためとも考えられるが、違う気がする。彼女はもっと自分の欲求に忠実に、私たちに攻撃を仕掛けようとしてきてた。
ってことは……!?
足元に落ちていたマストの破片を思いっきりダイアに向かって投げた。砲弾に気を取られていた彼女の背中に破片は見事に命中した!
「……ッ!」
「当たった……」
体をすり抜けることなく、投げた破片は見事に命中した。
「わぁ、ヒメル上手ぅ♪」
アルカナの緊張感のない拍手が起こる。
振り返ったダイアが反撃に影で攻撃を仕掛けてくる。
「やっば!! アルカナ、防御壁で攻撃を防いで!!」
甲板から私とオパールが隠れられるくらいの大きな石の壁が現れて、まるでかまくらのように包み込み、影の攻撃を防ぐ。
「あっぶなかった〜……」
だが、思った通りだった。推測でしかないが、影が出ている間だけは通常の物理攻撃が効くようだ。
「だったら、勝てるかもしれない」
アルカナを呼び、作戦を伝える。
そして、自分の横で俯くオパールにそっと伝える。
「私、行くね。ここにいれば多分、安全だから……」
そう告げると彼女は私の手をぎゅっと掴み、見つめてくる表情から不安が伝わってくる。
「いかないで……」震える小さな言葉は確かに私の耳に届いたが、首を横に振った。
「大丈夫……すぐに戻るよ、大事な友達を泣かせたあいつを懲らしめてくるから!!」
拳を振り上げ殴るポーズをとると、オパールは一瞬目を大きく見開いて、眉を少し下げ困った顔でくすりと笑った。その微笑みに全力の笑顔で返す。
石のかまくらから飛び出すと、すぐに影が襲いかかってくる。動きは早いが、避けられないほどではない。しかも、砲撃が飛んで来れば影は、砲弾を落としに移動する。同時に二箇所に攻撃は出せないようだ。その隙に、一気にダイアとの距離をつめると脇腹目掛けて強烈な蹴りを叩き込む。
「くはぁっ!」
悲鳴と共によろけるダイア、やはり物理攻撃が効いているようだった。
そのまま隙を与えず、足を踏み込み振り上げた拳を顔面に叩き込む。
しかし、殴ったその手を掴まれてしまう。
「…ッ!!」
振り払えないほどの力であっという間に両手を取られしまう。
「おま……えさえ、大人しく殺されて、いれば……」
恨めしそうな声が聞こえ身がすくむ。
“ズドォォオオン”耳が痛くなるほどの轟音が響き、船がまた大きく揺れる。
ダイアが私に向かってきたために、砲弾が幽霊船に命中したのだ。揺れ時の反動で掴まれた手が放り出される。
「ヒメル! いつでもいけるよ!!」
アルカナからの合図で、踵を返し船首の方へ駆け出しアルカナに合図を出す。
「今だよッ!」
“ギッ、ギィィイイイ……”
鈍い音と共に船のメインマストがダイア目掛けて倒れていく。影で何度も斬るも、斬った分だけ破片は早くダイアの上に降り注ぎ、あっという間に瓦礫の山で、ダイアの姿は見えなくなった。
ただ、メインマストを倒すだけのつもりだったんだけどなぁ……。
アルカナの精霊術で長期戦をするより、一発大きな物理攻撃で沈めようと、アルカナに『メインマストを切ってぶつけて』ってざっくりな作戦をお願いしてたのだ。
で、アルカナが準備してる間だけ、時間稼ぎで肉弾戦してたけど腕を掴まれた時には、正直焦った。どうにかなってよかったが、つくづく自分が役立たずだと思い知らされてしまう。
「船に戻ったら、またウッドマンさんに魔力の使い方教えてもらおーっと……」
「ヒメルーー!! 大丈夫っすか!?」
聞き覚えのある声が聞こえ振り向けば、ギン兄とタンビュラが船に乗り込んできた。




