3話:姫琉と人工精霊アルカナ
お屋敷の扉には、金で出来た獅子のドアノッカーが付いていた。
“カン、カン“と叩くも返事はない。
「留守なのかな?」
何気なくドアに手をかければ施錠はされておらず、扉はすんなりと開いた。少し開いたドアの隙間から恐る恐る中を覗いてみると、人の気配はなく真っ暗だった。
「誰も、住んでないのかな? あのぉ〜……お邪魔します〜」
屋敷の中に足を踏み入れた途端、壁に並んでいた灯台に一斉に火が灯った。
「うぎゃっ!」
なんとも間抜けな悲鳴が出てしまった。
「もぅ~やめてよ! こっちは心身ともに限界なんですよ! 勝手に火がつくとか動く骸骨とかッ! ゲーム色々やるけど、ホラーゲームだけはダメだからッ! ゲームだけじゃなくて、お化け屋敷とかホラー映画とか絶っ対無理だからッ!! 心臓止まっちゃっても知らないからねッ!!」
誰に言うでもなくひとりで文句を言い始めてしまう。
明かりが灯った部屋を見渡してみた。
エントランスには、中央に二階へ上がる大きな階段があり、左右にそれぞれ扉がある。
天井には、ちょっと豪華なシャンデリアが吊るされていた。しかし、手入れをされていない様で蜘蛛の巣と埃まみれだ。よくよく見れば床にも相当な砂埃が溜まって、長らく手入れがされていない様だ。
「…………ホントに誰もいませんか〜……?」
すると、突然“バタンッ!“ と何かが落ちた様な大きな音が二階から聞こえて心臓が大きく跳ねた。
「ひぃッ、ま、また骸骨……!?」
キョロキョロと辺りを見回し身構え、階段を見つめるも何かが出てくる気配はない。
また、痛いほどの静寂になる。
一瞬ココから出ようかと考えるが扉の外は徐々に暗くなっていく。恐らく夜が近いのだろう。正直、霧が深すぎて時間なんてわからなかったが。
もし、ココで一晩明かすなら先程の音を放置はできない。
安心して寝られる安全は確保しておきたいしね。
壁に飾ってあった、アンティークっぽい剣を片手に中央階段を息を殺しながらゆっくり……ゆっくりと登っていく。
階段の先は左右に分かれていた。
その中でひとつだけ扉が開きっぱなしの部屋があった。
「あそこかな……?」
ゆっくり息を吐き、自分を落ち着かせる。
大丈夫。たとえ動く骸骨が出ても私ならやれる! ゲームでだってスケルトンなんていっぱい倒したし!! うん! やれる気がしてきた!! 私はよくわからない自信をつけ、開いていた部屋に飛び込んだ!
「よっしゃぁ! 来るなら来いっ!!」
勇しく入るもそこには、誰もいなかった。
何もなかった事にほっと胸を撫で下ろす。
この部屋はどうやら書庫の様だ。
壁一面に天井までの本棚と窓辺に小さなデスクと椅子がある。
ふと視線を足元にやると、一冊の本が机の近くに落ちていた。
「もしかして、この本が落ちた音だったのかな?」
床に落ちていた本をなんとなく手に取った。
その本は皮表紙のしっかりした作りのものだった。
表紙に書いてある文字は、日本語でも、ましてや英語でもなく私は見た事がないものだった。別に英語と日本語以外知らないほど無知と言う訳じゃないからね、念のため。
読めもしないくせに、何気なくその本をパラリ、とめくる。すると、本から突然光の球が現れ飛び出してきたのだ。
「うわぁッ!!!」
突然の事に、手に持っていた本を投げ出して思いっきり尻もちをついてしまった。
「いたたた……」
「じゃっじゃじゃ〜ん♪」
「…………はい……?」
一瞬の出来事で理解が追いつかない。
本から光の球が飛び出したと思ったら、その光の球が喋り出したのだ。
骸骨の次は、火の玉ですかっ!! もぉ~むり〜……。
死を覚悟し泣きそうになったが、どうも様子がおかしい。光の玉は、襲い掛かるでもなく、書庫の中をグルグルと飛び回っている。
恐る恐る……飛び回る物体をよく見てみると。
「もしかして……あれって……」
「わーい、わーい♪ ひっさびさのお外だぁ! 嬉しいなぁ、 嬉しいなぁ♪」
それは絵本などで目にする妖精の姿があったのだ。
大きさは十㎝〜十五㎝程度。背中には光る四枚の美しい白い羽、ふわふわの淡いピンク色の髪は高い位置で二つに結ばれている。
一言で言えば、大変愛らしい生き物だった。
妖精(仮)は、床にしゃがみ込んでいた私の存在に気付くと話しかけてきた。
「おーいおーい! 生きてますぅ? あなたが本を開いてくれたの?」
「えっ!? あ……はいそうです。えっと、あなたは妖精……ですか?」
なんてありきたりな事聞いてんだ私! でも他に何て聞いたらいいか思い浮かばんッ!
すると妖精(仮)は小さな頭を横に傾げた。
「ようせい? ようせいってなぁに?」
妖精という言葉を知らないようで、ふしぎそうな表情を向けて私を見つめてくる。
あぁ~可愛すぎる! とはいえ、妖精って何? って聞かれると説明が難しい……。思わず「あなたみたいな羽が生えた可愛らしい生き物です」と返すと。
「あたしは妖精じゃなくて人工精霊。名前はアルカナだよ〜。フレンドリーにアルカナって呼んでほしいな。あなたは……人間さん?」
首を傾げて聞いてくる、その仕草プライスレス。アルカナの可愛さに心の中で悶えた。
「私は……白石姫琉って言うの。その……人間だよ。よければヒメルって呼んでね、アルカナ」
人生において自分を「人間だよ」という日がくるとは思ってもみなかったわ。
「わかった♪ あっそうだ、本を開いてくれてありがとうヒメル! おかげでお外に出られたよ♪」
そう言うとアルカナは、また部屋を嬉しそうに飛び回る。
ところで、なんで本から精霊出てきたんだろう?
疑問に思いつつも深くは考えない事にした。骸骨が歩いてるんだから、そんな事もあるんだろう。
そうだった……。投げた本を戻しておこう。アルカナが出てきた事に驚いて投げ飛ばしてしまった本を拾い、落ちてきたであろう机に戻す。
さすがに投げ捨てたままじゃ罪悪感があるので。
「投げてごめんなさい……ん? んんッ!?」
机の前に貼られている物に違和感を覚えた。
さっきは薄暗くて気づかなかったけど、アルカナが光源になった様で初めてそれに気付く。
古い地図の様だ。でもこれは、私が住んでいた世界のモノではない。
でも、私はその地図を知っている。
だって昨日まで、画面越しに観ていたんだから。
「そんな……事って……」
この地図は私がプレイしていたゲーム。
『エレメンタルオブファンタジー』のワールドマップだ!!
20.11.2加筆修正
22.5.21加筆修正