35話:姫琉とお友達
幽霊相手に友達になる事をうっかり承諾してしまった。
……でも! だって! 可愛かったから!!
誰かが言った、『可愛いは正義』だと……。
それに、返事は聞いてないけど隊長を助けてくれたのが彼女なら、きっと悪い幽霊ではないと思ったのだ。こうやって会話もできるし、お願いしたら船に帰してもらえないかな? なんて淡い期待をしている。その為にも、友好的な関係は気付いといた方がいいと思う。……と自分の行動を正当化してみた。
よほど嬉しかったのかオパールは白いドレスをなびかせて、クルクルと踊っているようだ。
真っ白な肌が頬の部分だけ、うっすらと赤くなっている。溢れんばかりの喜びように、若干の恐さを感じる。
「そ、そういえば友達が欲しいならきっと隊長も友達になってくれると思うよ!?」
ここぞとばかりに他の人も巻き込もうと考えた。
するとオパールはピタリと踊るのをやめてしまった。さっきまで赤かった頬を膨らませて上目遣いでこちらを可愛く睨む。その表情はまるで、不貞腐れる子供のようだった。
「わたくし、同い年くらいのお友達が欲しいんですの、あの方は……言い方は悪いですがおじさんではないですか」
「いやいやいや、隊長って二十代後半くらい(の設定)だったはずだよ? そんなに変わらないよ!? おじさんと呼ばれるには、まだちょっと早いかなぁ? ……多分!! それにたぶん頼りになるよ!!」
押し売りするように隊長を推してみるが、オパールの心には届かないようで。
「わたくしより、ひとまわり違う時点で十分おじさんですわ? それに、男性のお友達なんて欲しくないですわ。頼りになる男性ならお兄ちゃ……いえ、お兄様がおりますので!」
ぷいっとそっぽを向いてしまった。
──あちゃ〜……やってしまった。
正直にいえば人付き合いは上手ではない。
言わなくていい事を考えもせずに言ってしまい、相手を怒らせるなんて日常茶飯事だ。
普段なら相手を怒らせてもあんまり気にしないのだが、オパールは幽霊。幽霊を怒らせるとか、死亡フラグしか見えない展開に慌ててフォローをする。
「そ、そうだよね〜! やっぱり友達は同性の方が気楽でいいよね!」
その言葉を聞き機嫌を直したのか、弾むような声で話しかけてくる。
「そうなんですの! 一緒にお出かけしたり、着せ替えしたり、こ……恋のお話とかもして、そういう事に憧れているんですわ」
照れながら語るオパールの理想に瑠璃ちゃんの事を思い出す。
考えなしに思った事を口に出し、人を傷付け煙たがられて、なんて日常茶飯事だった私に瑠璃ちゃんは『大切な友達』だと言ってくれた。学校でも常に一緒だったし、学校外でもよく遊んだ。ショッピングモールでお買い物をしたり、お祭りにいったり、お泊まり会だってした。
きっとオパールには、生前そう言った友達がいなかったんだろう。だから、友達と言うものに強い願望があるに違いない。
自分の中で何かを納得しかけたその時、幽霊メイドが彼女に何か耳打ちをしている。
「?」
それを聞いたオパールが「それもそうですわね」なんて返事をしている。すこし距離があるので、何を言ってるのかわからないが目の前でヒソヒソ話されるのはいい気はしない。
「不躾な質問で申し訳ないのだけれど、ヒメルは今おいくつ?」
突然の質問に疑問を感じるが素直に答える。
「今年で十七歳になりました」
四月が誕生日なので、学年が上がるとすぐに年齢も上がる。
ちなみに高校二年生。
「まぁ、わたくしより三つも上なのですね? てっきり年下かと思ってましたわ」
…………言いたいことはわかる。
胸もなく、身長も150cmを少しこえたくらいしかなく、童顔だから良くて中学生。悪くていまだに小学生に間違えられる。瑠璃ちゃんと歩いていると、姉妹に間違えられた事だって両手じゃ足りないくらいある。
その件は、もうずいぶん昔に考えないようにしている。私の年齢を聞いて「どうしましょう」とあわあわし出した。
──同い年くらいの友達が欲しいって言ってたし、予想と違ってどうしようってところかな?
三つ上と言ってたから、オパールは十四歳。年上のお友達はいらなかったって事かな?
あわあわしていたオパールがメイドに何か指示を出したと思ったら悲しげな表情をこちらに浮かべる。
大丈夫大丈夫、やっぱり考え直したいんだよね~。年上との付き合いとか人によっては嫌がるし、全然気にしないよ。ただ船には返して欲しいな!
なんて頭の中でシミュレーションするもオパールの口から出てきた言葉は想像していたものとは違った。
「ごめんなさい、あまり苦しまないようにするわ」
「……へ? 何を……ってうわぁ!」
次の瞬間、幽霊メイドが後ろから縄で襲ってきたのだ。
「本当は同じ年齢になるまで、のんびりしていただくつもりでしたけど、まさか年上だったなんて」
憂いをおびた目で私を見つめてくるが、それどころじゃない! この幽霊メイドは本気で私を捕まえる気だ! 逃げているうちにテーブルに残っていた皿が音をたてて床に落ちていく。
「なっなんで、年上だったからって私を襲うの!?」
意味がわからず思わず怒鳴ってしまう。
「これ以上年を取られたら、理想の年齢から離れてしまいますから……だから」
最後まで聞かなくても、彼女の言いたいことが理解できてしまった。彼女はニッコリと微笑みながら言葉を続ける。
「ここで死んでくださいな」
その言葉を聞ききる前に食堂から飛び出した。
21.5.10 修正
24.4.19修正




