32話:カルサイトと幽霊船
「ったく……後先考えずに行動しやがって」
気を失い、両手を縛られたギンを船内にあった牢に寝かせた。海賊船だから牢があってもいいが、そこに仲間をいれるのに抵抗はある。しかし、こうでもしないとまたコイツとタンビュラが衝突するのは、明白だった。
「そこにいれば、少しは頭も冷えるだろ……」
すると、突然頭上でドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
そして、俺は気付いた。ギンの事で頭がいっぱいで、船長室にあの二人だけを残してきた事に!
「次から次に、勘弁してくれよ……!」
思わず顔を手で覆いたくなる。
二人がケンカでもおっぱじめたんじゃないかと、大慌てで甲板に上がる。すると、全員が慌ただしく出向の準備をし始めていた。一瞬、理解ができなかったが、海を見るとそこには不気味な船が風のない海を悠然と走っているではないか。
「本当にいたのかよ……幽霊船!!」
半ばおっさんの妄言だと思っていたが、どうやら実在したようだ。
すぐさまキンを呼び出し、俺、キン、ウッドマン、タンビュラの四人で左右に分かれ、普段は大砲を出している穴からオールを出し幽霊船へ必死で漕ぐ。しかし、この船の大きさに対し、たった四人では殆ど前には進んでいない。
そりゃそうだ……無理がある。
「しっかり漕ぎやがれッ! ちっとも前に進まねぇじゃねぇかッ!!」
タンビュラの怒号が飛ぶもこればっかりはどうにもならない。
「必死で漕いでんだろうがっ!! たった四人でこんな大きな船がそうそう進むわけねぇだろ!!」
「四人? ……おい、あの嬢ちゃんはどうした!?」
ここに降りて来た時にはすでにいなかったが、甲板にはいたはずだ。
「幽霊船にビビって腰でも抜かしてるんじゃねぇか!?」
「だったら、さっさと呼んでこいッ! こっちは猫の手だって借りてぇんだ!!!」
(……チッ、やっぱり捕虜にする人間を間違えたな)
「キン、アイツを急いで連れてきてくれ」
「了解ですぜ」
キンが甲板に出ようとハッチに取り付けられた格子蓋に手を伸ばす。
“ガンガン…!”
上に向かって押すが格子はびくともしない。
「蓋が、開かないですぜ!!?」
「なんだとッ! どけっ!!」
キンを押し除け、ダンビュラが格子蓋を力任せに押すがびくともしない。もちろん蓋に鍵なんてついてないのに。
「隊長殿!! そっ外にっ幽霊船があぁああ!!!?」
慌てふためくウッドマンの言葉を聞き、穴に目をやるとそこにはフジツボがびっしりの船の一部がすぐそこに見える。
さっきまで、遠くに見えていたのに、いつの間にか船をつけられていたのだ。
「なんでもありかよ、幽霊船!」
「くそっ! くそっ! なんで開かねえんだ…! すぐそこに、ずっと探していたものがあるっていうのによ……」
格子蓋を殴り続けるタンビュラの手から、血が滴り落ちている。
なんでそんなに必死なのかはわからない。だが、俺はおっさんに『幽霊船探しを手伝う』と約束した。俺は約束は破らねぇ。だったら、やることは一つだ!
懐から、愛銃を出し銀色の弾丸を込め、構えた。
「おっさん!! どいてなっ!!!」
“ダン…!!”格子蓋に向かって撃った。
蓋を押せば先程までの事が嘘かのように、すんなりと上へと上がった。
「退魔の弾丸、用意しててよかったぜ……」
今回は幽霊船が出る港だと聞いていたので、ニャポリでコイツを仕入れていたのだ。
値段は張ったが、効果はさすが教会製のものだった。
「残りは三発……一発で大銀貨二枚分、大事に使わないとな」
表の甲板に出るとそこはスケルトンだらけだった。
「なんなんだよこれっ!!」
どうやらこの船は幽霊船からの襲撃を受けているらしい。
声に気づいたスケルトンがこちらに向かってナイフを振りかざし、襲いかかってくる。
「こんな骨野郎は俺様に任せ、なッ!!?」
甲板に出ようとしたタンビュラが見えない何かに行く手を阻まれた。ハッチには格子蓋もかかってないのに。
「どうなってんだ!! 出られねぇぞ!!」
「結界魔術か!?」
もう一度銃を撃ちたいが、スケルトンの群れが思うようにさせてはくれない。
隙を見せたら斬られるな……!!
距離を取るために、一番スケルトンが少なかった船首の方に走った。
後ろは海。前はスケルトンの群れ。
「さて、どうしたもんか……」
スケルトンに、退魔の弾丸は有効だが、残りはたった三発。
ここにいる全部に撃つには到底足りない。
それに、アイツらをあそこから出すのに使わなくてはいけないから、実質は二発しか使えない。仕方がないので、普通の弾を込めて撃つが、殆ど効果がないようだ。
ちなみに海に飛び込んで逃げる……という選択肢は俺にはない。
何故なら泳げないからだ!! 落ちたら最後……俺もスケルトンらの仲間入りだ!
どうしようかと考えあぐねいていると、突然スケルトン共が幽霊船へと引きはじめた。
「よくわからんが、今がチャンスだ」
急いでハッチに向かおうとしたその時だった。
スケルトンの一匹が、あの嬢ちゃんを担いで幽霊船に乗り込むのが見えた。
「あいつ、捕まったのか!?」
俺の脳内では壮絶な葛藤が起きた。
助けるべきか……助けないべきか……
俺は基本的に約束は守る!
だが!! 正直、あの嬢ちゃんに関わってからろくなことがない! 出費は増えるし、いつうっかり秘密を話すんじゃないかと気が気じゃなく、ストレスで胃がキリキリ痛むし、ギンのやつは大暴走を起こす始末だ。
俺の平穏を考えれば、ここで見捨てるのも手かもしれない……。本気でそう考える自分がいた。
いやしかし待て!!
よく考えろ俺ッ!! さすがに見捨てるのは目覚めが悪い。それに何より、海でアイツが死んだ場合、アイツは永遠に海を彷徨い続ける。そうすると俺は永遠に秘密がバレるかもしれないという恐怖と隣り合わせで、生きていかなければならない!!
「そ、そんなの冗談じゃねぇぞ!!」
想像するだけで、未来は絶望的だった。
殆どのスケルトンが幽霊船に撤退したためか橋板が仕舞われる。とっさに俺は幽霊船の船体から垂れ下がっていた縄に飛びついた。
落ちたら一貫の終わりだ!!
が、
掴んだ縄は、先が固定されていなかったようで……。
俺は、縄を掴んだまま海へと落ちていった。
漢字が多いと指摘をいただいたのでルビをふってみました!
これで多少読む人が読みやすくなればいいなぁ…
20.11.18加筆修正




