表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/174

31話:姫琉と幽霊船

 この船よりひと回りは大きな古びたガレオン船。

 船首像には、女神像ではなく両腕のない骸骨が取り付けられている。マストに掲げられた帆は穴だらけで、到底帆としての役割など果たせそうにない。

 しかし、風なんて捕まえられる筈もない帆を(なび)かせ、深い霧の海をゆっくりと進んでいる。


 幽霊船は、この海賊船より少し遠くをゆっくりと走っている。


「おいっ!! なんで見えた時すぐに報告しなかったァ!!」

「ききっ霧が深くなってきたと思ったら突然現れたのである!!」

「チッ、乗り込むにも準備ができてねぇのに……」

 タンビュラが吐き捨てるように言うと、すぐさま帆を張るように指示を出した。


 正直、腹が立っていたので聞かずに無視しようと考えたが、約束は約束だ。エルフの国まで行くためだと、自分に言い聞かせウッドマンさんと共にメインマストのロープを力一杯引っ張って帆を広げる。

 しかし、帆は張られるも無風のためピクリとも進みはしない。

 帆船は風の力で進む船だ。こんな状態ではオールを漕がないと進まない。

 なのに、幽霊船は風がないにも関わらずゆっくりと進んでいる。


『────……〜♪』


 それはそれは美しい、女の人の歌声が聞こえてくる。どこか優しく、どこか切なくなるような歌が海に響いている。


「ゆっゆゆゆ幽霊の歌である!!?」

「おいっ何事だよ!」

 下甲板から上の騒ぎを聞きつけたのか、隊長が姿を表す。すぐさま船の横に見える幽霊船に気が付き血相を変え、まだ下にいるであろうキン兄を大声で呼んだ。


 …………ギン兄の姿は見えない。


『ウフフフ……』


  『フフ……』


    『ウフフフフ………』 


 歌声が消え、女の人の不気味な笑い声があちらこちらから聞こえてくる。

 その不気味さに思わず身を震わせた。

「なんなの……この声……?」

 耳を塞いでも、はっきりと聞こえてくる声に恐怖せずにはいられない。

 恐怖に耐えきれなかった私は、メインマストのそばに耳を塞ぎ、蹲るようにしゃがみ込んだ。

 男連中は、おっさんを筆頭に下甲板でオールを出し、船を漕ぎ始めたようで、ほんの少しだけ船が進み始める。しかし、漕いでるのはたったの四人だ。風を無視して進む船には到底追いつきはしない。


 上甲板には、私だけが残された。


 耳を塞ぎ、目を閉じる。

「何も聞こえないし! 何も見えないし!! 幽霊船なんておとぎ話だって、ウッドマンさんも言ってたし!! ……早くどっか行ってぇ〜」

 心の中で祈るように叫んだ。


『みーつけた…………ウフフ……』


「!!!!!?」

 塞いでるはずの耳から……いや、頭に直接響くような声がした。

 あまりの驚きに目を開くと、その目の前には幽霊船があった。

 先程まで、少し遠くを走っていたはずの幽霊船が船に擦るほど近くに並んでいる。


「なんで……? こんな、こんなに早く追いつく距離じゃなかったよ!?」

 その吐き出す言葉が震えてる。いくらあの四人が必死にオールを漕いでもこんなに早く追いつくような距離ではなかったはずなのに目の前には、幽霊船が止まっている。

 しかも、幽霊船に乗り込む気だったダンビュラも、他のみんなも上がって来ない。


「なんで……なんで誰も……来ないの?」

 恐怖のあまり泣きそうになる。するとまた、あちこちから不気味な笑い声がさっきよりはっきりと聞こえてくる。


『ウフフ……』


 “ガシャンッ!!”


 笑い声と共に幽霊船の甲板から何かが降ってきた。同じ音が続けて三回。

 それらは、私の中の恐怖心を呼び覚ます。


 そう、それは動く骸骨だった。


 それも全部で四体の骸骨は、真っ直ぐこちらを見てくる。その手にはナイフが握られていた。

「ヒィッ!!」

 それを見た瞬間迷わず下甲板へと助けを求めようと走った。

 しかし……。


 “ガンガンッ!!”

「開かない!?」

 いくら引いても格子がびくともしない。

 鍵なんてついてないのに……なんで!!

 気がつくと、すぐ後ろに骸骨達が来ている。下へ降りることを諦め、扉が開きっぱなしの船長室へと逃げ込む。中からしっかり鍵をかけた。それ以外に今は恐怖で何も思いつかない。


「はぁ……はぁ……、こんなホラーな展開なんて期待してないのに……」

 恐怖で心臓が止まる寸前だった。ホントに……比喩とかじゃなくて。

 深く深呼吸をして自分を落ち着かせる。

「スゥーー……ハァーーー……」

 うん、だいぶ落ち着いてきたかも……。


 しばらく大人しくしてたけど、あたりは不気味なほど静かだ。

 骸骨達が扉をぶち破ってくるのではと、戦々恐々としていたのだがその気配もない。


 ──……一旦、甲板に出てみる……?


 下甲板に行けばみんながいるはずだ。

 ここに一人でいても打開策はないので、移動することにした。


 それが、間違いだった。


 普段ホラーゲームどころか、ホラー映画も見ないから知らなかったのだ。

 事が起こって、籠城してる最中は絶対に扉を開けてはいけないだなんて……。


 扉から身を乗り出した瞬間、首元に冷たい白い手が触れた。


『ウフフ……みーつけたァ……」




21.2.12修正

24.4.19加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ