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2話:姫琉と動く骸骨

 目の前が……真っ白だ。いや、比喩的な表現ではなく。

 白い霧に視界が覆われて前が全くもって見えない。

 光はうっすらあるが、とても弱い光で視界にはモヤがかかっているようだ。


 そしてふと思う。


「私、死んだんじゃ……?」


 瑠璃ちゃんと駅前のドーナツ屋に行こうとして、鉄の板が降ってきた。痛さは……感じなかったけど多分直撃だったと思うんだよな。あの状態から奇跡的に助かったとしても、いるべき場所は病院のベットでは?


 周りが見えなくても自分がとっている姿勢ぐらいはわかる。足をだらりと伸ばし、何かにもたれ掛かって座っている。怪我人をこんな体制で放置する病院は、まずないだろう。それに、病院特有の消毒液のイヤな匂いもしない。


 「だとしたら、ここは……あの世? でも、イメージとなんか違うな」


 そんなしょうもないことを考えながらボーッと座っていると、地面に接している部分がじんわりと湿ってくる。

 「あッ! 」

 立ち上がると制服のスカートの地面に接していた部分が湿ってしまって色が変わっている。でも、着替えどころか、持っていたはずのスクールバックも見当たらない。


「というか少し周りが見えるようになってきたかも?」


 視界を邪魔しているのは、どうやら深い霧のようだった。最初に目を開けた時よりも周りが見えるようになってきた。


「とりあえずここにいてもしょうがないか」


 重い腰を持ち上げたついでに移動することにした。

 霧は完璧には晴れていないが、こんな何処かもわからない場所にいても仕方がない。霧が晴れるのを待っていてもいいが、すぐに霧が晴れる保証もない。

 そして何より、若干ゲーム脳になっている私の頭の中では、エレメンタルオブファンタジーに出てくる霧の深い森が脳裏に蘇っている。

 その森は、霧で常に覆われており、スケルトンやゴーストなどが闊歩する。彷徨う彼らの呪いによって霧は永遠に晴れないという設定だった。


 ここのダンジョンは謎解きが難しくて、特に一定の石灯籠に順番通りに明かりを灯さないと通れない・出られないという面倒な仕掛けがあったなぁ。

どんなに考えても自力じゃ謎解きが出来なくって攻略本見たっけ。……などとどうでもいいことを思い出す。


「どうせなら、ここがゲームの世界だったならなぁ」


 “転生したらゲームの世界だった!!”とか、近頃流行ってるじゃん?

 瑠璃ちゃんが聞いたら「おバカさんね……」と言われてしましそうなことを考えた。


「瑠璃ちゃん。……無事、だったよね?」


 最後の瞬間、私の名前を呼んだ瑠璃ちゃんは鉄板の外側だったはず。私が万が一に死んだとしても、瑠璃ちゃんには絶対生きていて欲しい。

 瑠璃ちゃんが死んでしまったら、今世紀最大の世界の大損失だ。

 それに比べて、自分は何の取り柄もないただのオタク。

 自分の命で、そんな彼女を救えたのなら本望だ。


 移動するにもまだまだ霧は濃い。両の手を前に出し、ぶつからない様に慎重に足を進めた。すると自分のすぐ横に大きな壁らしきものがある。先程まで寄りかかっていたのはコレのようだ。目を壁すれすれまで近づけると、それが淡いピンクの石で出来た石柱だとわかった。


 何の柱なのかはわからないが、それ以外に何もないようなので他の方向に進むことにした。


 しばらくすると、風が出てきて葉が擦れる音がする。ラッキーなことに霧も晴れてきた。ほぼ、何も見えなかった視界が開けて、霞みがかった緑の木々が見える。


「ここは、森か何かかな……?」


 辺りを見渡すと自分が今いる場所が、森の中にある少し開けた場所であることがわかった。

 そして、先程の石柱が二メートル位後ろに薄ら見えている。


「もっと進んだと思ったけど。手探りじゃ中々前に進まないな」


 依然として視界不良だが、今のうちに進める所まで進んでしまおうと思った時だった。


 “ガサガサ“

 遠くの茂み何かが草木を掻き分ける音がした。誰か人がいるのかと、音がした方に振り向くとぼんやりと小さく人影が見えた。


「あの人に聞けばここが何処かわかるかもしれない」

 声をかけようとしたその時、強めの風が一瞬吹いた。

 霧の隙間から見えたその姿に、思わず背筋が凍る。


「ヒャッ……!!」


 思わず悲鳴が出そうになったが、その声を飲み込む。

 そこには、真っ赤な西洋風の鎧を来た骸骨がゆっくり此方に向かって歩いてくる。

 人影は生きた人間ではなく、かつて人間だったもの。

 その手には、剣がしっかりと握られている。剣だとわかった瞬間、自分の頭から血の気が引いていくのがわかる。

 手足がガクガクと震える。

 恐くて、ただただ向かってくる骸骨を凝視していると、何もない筈の真っ黒な目に視られた様に感じた。

 心臓が痛いほど鼓動をうつ。

 恐怖のあまり、思わずその場に頭を抱える様に蹲った。

 逃げなきゃいけないと分かっていても体が動けなかった。



──恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い……!!



 茂みを掻き分ける音と金属がぶつかり合う音がドンドン近づいて来る。


 “ガサガサ ガシャン……ギィ……ガシャン……ギィ…………“


 自分の近くで一瞬音が止む。

 気づかれたんじゃないか。

 逃げなきゃダメなんじゃないか。

 私また死んじゃうのかな。


 色んな事が頭の中をグルグルと駆け巡る。


 “ガシャン……ギィ……“

 また動き始めた音がした。

 そして音は次第に遠くなり、聞こえるのは葉の擦れる音と自分の心臓が早鐘する音だけだった。

 蹲った顔を上げるとそこには、また霧が立ち込めていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 あれからどれくらい歩いたかわからない。一向に景色は変わらない。

 歩いても歩いても木・木・木!!  ずーーーっと木が続いている。ここはやっぱり森の中のようだ。


「もぉ~やだよぉ……。疲れた!! お腹すいた!!」


 また、骸骨が現れるんじゃないかと黙々と歩いてきたがもう限界だ。

 死んだはずなのに、お腹は空くし、疲れるし、あちこちに引っ掛けたせいで制服はボロボロ。ついでに、手足は切り傷だらけ。さらに最悪な事に、買ったばかりのローファーは靴擦れを起こして痛い。着替えたいのに荷物がない。


 文句ダラダラで歩いていたら、木の根に足を取られ顔面から転んだ。

 湿った地面に顔面から、それは見事に転んだ。

「い……痛い。もぅ……歩きたくない」

 もう何もかも嫌になって顔だけを進行方向に向けると遠くに蛍光色のピンク色の“何か”が見えた。

 霧に負けないくらいの蛍光色だ。

 もう考える事すら嫌になってきた私はとりあえず、付いた泥を払い、蛍光ピンクを目指してトボトボ歩き始めた。


 近づくにつれて蛍光ピンクの正体が見えてきた。恐らく建物だ。到着するとそこには屋根は真っ赤な原色。木造の壁は蛍光ピンクに染められている。

 趣味の悪い西洋風のお屋敷が建っていた。


 とりあえず、とりあえずひとつだけ言わせて!!


「趣味悪ぅッ!!」


 声に出さないと整理がつかない事ってあるよね~。

 とりあえず行く宛もないので、お屋敷を訪ねて見ることにした。

20.11.1加筆修正

20.12.8加筆修正

24.1.24 修正

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