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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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28話:姫琉とキャンディー

『拝啓、瑠璃ちゃんへ


 お元気ですか?

 私は、あの日鉄板に激突しどうやら死んでしまったようです。けれど心配しないでください。なんと、私は大好きだったゲームの世界に転移転生したようです!


 せっかくゲームの世界に転生したので、瑠璃ちゃんに散々愛を語った《推しキャラのセレナイト様》を幸せにするため、彼女に会うために冒険に出ることにしました。愛らしくて頼もしい人工精霊アルカナと共に恐ろしい魔物や海賊とも戦いました。


 そして今、セレナイト様のいるエルフの国へと向かっています。

 瑠璃ちゃんに二度と会えないかと思うととても心が苦しいけど……。でも、瑠璃ちゃんが無事でいてくれればと、そればかり考えます。また会えることがあれば、駅前のドーナッツ屋さんで今度は私の冒険譚も聞いてね。


姫琉』


 届ける術のない手紙をつづる。もう二度と会えない親友に宛てて。届かない手紙を、落ちていた空き瓶に詰めて窓から海に投げ落とした。

 瓶は“ぽちゃり……”と小さな音を立てて薄暗い海を流れていった。小さな窓からただそれを見守る。


「も、もう……だめ……だ、我慢できねぇ!」

 カルサイトが眉間に深い皺を寄せながら顔で言う。

「やめて下さいよ!  こんなところで!!」


──あぁ……なんで、こんなことに。


◇◆◇◆◇


 時間は少し遡り、すっかり燃え尽きてしまったヨーデルカリブ港を出港した時のこと。

「念のためだ、アンタには手枷をつけさせてもらうぜ」

 岸が遥か遠くになると、メインマストに括り付けていたおっさんことタンビュラの縄を解き、代わりに鎖のない手枷をはめた。縄から解放されたタンビュラは手枷をはめられた状態で肩や首をぐるりと回す。

「こんな手枷で俺様がオメェらに止められるとは思わねぇが、まぁ……アンタらの気休めのお守りくらいにはなるか?」

 ニタニタ笑う口元はやはりすごく不快に感じた。

 そういう私はというと、タンビュラとの戦いで傷付いた腕をギン兄に治療してもらっていた。

「ヒメルも無茶しすぎっすね、こんなに傷だらけになって」

「だって、失敗したら、セレナイト様のところに行けないと思って……」

「だーとーしーてーもッ!! 死んじまったら何にもならないっすね!!」

 ギン兄がプンプンと怒りながら消毒液をつけてくる。

「ッ!! めちゃめちゃ滲みるぅ……!!」

「我慢するっすね! ……これに懲りたら無茶なことはしないっすね……」


 本当に心配をかけてしまったみたいだ。怪我をした私より辛そうな顔ををするギン兄。そんなしょんぼり顔を見ると自分の行動を反省せざるおえない。だがしかし、反省はしても後悔はしてないけどね!


「これを食べとくといいですぜ」

 治療を終えた私の後ろから、キン兄が包み紙に包まれたキャンディーを一つ差し出した。


「こ……これはっ!?」


 そのキャンディーを見た瞬間、あまりの感動に私の心は打ち震えた。その包み紙をイヤという程よく知っている。


──これこそは“ポーションキャンディー“だ!!


 このゲームに必須の回復アイテム。 味によって効果や性能が違うのだが、今もらったのはアップル味。体力(HP)の20%を回復させることができる。補足だが、魔力(MP)を回復させるキャンディーを“エーテルキャンディー”という。


 ファンなら絶対一度は『アップルキャンディー食べたからまだ、頑張れる』とかやったことあるに違いない。多分。え? ……私は幾度となくやったことがあるけど。

 そんなエレメンタルオブファンタジーならではの一品を手に入れて、有頂天の私の足元で何かが這ってきた。驚いて足元に目を向けると、そこには息も絶え絶えなウッドマンさんが倒れていた。


「キ……キン殿。わ、吾輩にもポーションキャンディーを……いただきたいのである」

 ……もはや生きる屍であった。

 そんな彼の様子をとても満足げに見下ろしているキン兄を見ると、陽動班でどんな目にあったのか想像に難くない。


──ウッドマンさん、完璧にキン兄の玩具じゃん。御愁傷様です。


 そんな二人を余所に、もらったキャンディーを口に含む。それは甘くて、それでいて薬のようなほろ苦さがあった。

「おい、テメェら船はとっくに沖に出てるんだ。死にたくなかったらキビキビ、働けよ」

 おっさんの命令に各々適当に返事かえす。

「俺様の命令には『はい! 船長!! 』以外の返事は認めねぇ!  わかったか!!」

 海にも響き渡る大きな声が響く。

 正直こういう熱血体育会系?  みたいなノリには、ついていけないんだよなぁ……。

 だが、こんな海で航海する術も持たない私たちが彼に逆らうことなどできる訳もなく、渋々「はい! 船長!!」と返事をした。


 一通りの船の説明をしたあと、タンビュラは船長室のある船尾の方に帰っていった。

 どうでもいいことだが、船の舵……あのよくある取手のついた輪っか。あれって船尾の方にあるんだって。てっきり前の方にあると思っていたのでひとつ賢くなった。


◆◇◆◇◆◇


「アァーーー!! ムカつくあのおっさん!!」


 偉そうに命令ばかりするタンビュラのおっさんにムカついていた。ぶっちゃけ、こう言った船に乗ったのは初めてだ。船の操縦する輪っかが舵輪(だりん)と言うなんて一体誰が教えてくれるってんだ。おっさんの命令は専門用語が多い上に、すぐに怒鳴る。聞けば馬鹿にされる……。

 唯一の癒しであるアルカナは馬たちと一緒に休憩中だった。タンビュラとの戦いで魔力を使いすぎたらしい。


「……アルカナ、大丈夫かな……」


 ウッドマンさんの話では、魔力不足が精霊の魔物化の原因ではないと言ってはいたが、それでも魔力を使い過ぎれば精霊は冬眠状態つまり精霊石になってしまう。


「そんなことになったら嫌だな……」


 できたらアルカナに頼らないで自分の力で戦えたらと思うが、所詮ただの女子高生。それも、自分で言うのも悲しいが、どちらかと言えば、低スペックな…………。自分にできることの少なさに、さらに苛立ちを覚える。

 ふと、何気なく空を見上げる。

 港街に着いた時は朝だったが、気付けば太陽は随分と傾き始めていた。

 まもなく、夜がやってくる。



 太陽が完璧に海に沈むと帆を畳み、船を止めた。甲板には、波の音しか聞こえない。

 海でも常に見張りを置く必要があるらしい。他にも皆やることがあるらしくご飯は各々で食べることになった。

 私も甲板の下にある空間で、ギン兄が用意してくれた海鳥を照り焼きにしたようなものを食べる。


 ひとりぼっちの食事はとても静かだった。

 この世界に来てから、私の隣には常にアルカナがいたのでこんなに静かな食事は久々だった。


 “あっち”の世界で生きていた時は、夕飯はいつも一人だった。というか、それが当たり前だった。

 母は大体いつも家にはいなかった。小さい時はおばあちゃんがいたので一人ではなかったが、私が小学校の時に亡くなってしまった。それからは夕飯はひとりぼっちだった。


 用意された味気ないレトルト食品を口に頬張り流し込む食事が普通だった。それを悲しいとか寂しいと思ったことは、高校になる頃には全くなくなっていた。

 でも、こっちの世界に来てからはアルカナが常に側にいてそれが当たり前になっていた。

 それに隊長たちと旅をしている間も、焚き火を囲んでみんなで料理を作り和気藹々(?)とした食事が続いていた。干し肉にクズ野菜をぶっ込んだシチューでさえ美味しいと思った。


 ちょっと"らしくない"くらいに気持ちが沈んでいる。海鳥を食べ切ると気分転換に甲板にまで出ることにした。甲板に出れば必ず誰かいると思ったから。


──別に……寂しいとかじゃないんだけどさ……。


 船首の近くに海藻と見間違う程の緑色の髪が見えた。

「今はウッドマンさんが見張りなんですか?」

 ウッドマンさんが振り返り、私の存在に気づくと寒いからと使っていた毛布をそっと肩にかけてくれた。薄々気づいていたが、この人すっごくお人好しだと思う。……いい意味でですよ!


「幽霊船見つかりました……?」


 その単語に一瞬ビクッと体を硬らせるウッドマンさん。こう言う反応がキン兄のドS心をくすぐるに違いない。

「ゆッゆゆ幽霊船なんて、ただの伝説……おとぎ話である!」

 裏返った声で答えた。

「おとぎ話……?」

 私はゲームの中で幽霊船を見た記憶はなかったのだ。

 地上ならスケルトンやゴーストが出てくる場所もあったが、海では基本魔物とのエンカウントはないと記憶している。


 ストーリーでモブが『海で魔物が出て船が出せないんだ』とかは言ってた気がするが、シナリオ上の戦闘でドラゴンを倒しただけで、それ以外に海上で魔物が出てこなかった……気がする。でもおとぎ話って?

 興味津々な目をしていたらしく、ウッドマンさんが話してくれた。

「この世界は、地・水・火・風の精霊と光の精霊が守っているとされているのであるが、海だけはこれらのどの精霊の加護のない場所とされているのである。だから海で亡くなったものは大地に帰れず世界がなくなるその日までずっと海を彷徨い続けると言われているのである」

「ほえ〜……そんな話初めて聞いた」


 ウッドマンさんはゲームには出てない色んな話を知っていて、話していると新発見がいっぱいで楽しい。さすがは、王立研究所の元・研究員! できたらこのまま一緒に旅をして欲しいけど「エルフの国まで一緒に行きませんか?」なーんて誘ったら気を失ってしまいそうだ。

 突然"バンッ!"とすごい音が船尾から聞こえ、楽しいかった会話が止まってしまう。

「おい、嬢ちゃん!エルフの国に行くって本気なのかっ!?」

「えええええエルフの国……であるか!?」


 “バタン”


 案の定エルフの国と聞いたウッドマンさんは顔を真っ青にしてまっすぐ倒れた。


──あ〜……やっぱり、ダメだったか……。


 声が聞こえた方に首を動かすと、すごい剣幕でこちらを見るタンビュラ船長の姿があった。

いつも読んでいただき本当にありがとうございます

幽霊船編スタートです!

20.11.10加筆修正、誤字修正しました。

21.1.20 段落修正

21.7.16修正

24.4.18修正

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