25話:ウッドマンと楽しい陽動作戦
ウッドマン視点で進みます。
時間は少し巻き戻り、姫琉たち強奪班の二人が馬車で待機している頃。
一方の陽動版はというと……。
◇◆◇◆◇◆
「大変な事に巻き込まれたのである…………」
ここ数日で自分の身に起きた出来事に、目が回りそうであった。
世界各地で発生している精霊の魔物化。学会が発表した内容に異を唱え、自分の研究を発表したところ、なぜか船に括られ海に流された。その船が大破し、海に投げ出されるがなんとか生き延びたのだが、救ってくれた人間が問題だったのである。
精霊石を扱う商人だと聞いたが、何故か助けてくれた女の子・ヒメル殿の強い希望で幽霊船が出ると噂される海域近くの港に行こうとしていたのである。
──あぁ……あの時、無理にでも一人で這って近くの村に助けを求めれば良かったのである……。
そんな後悔をするが、もはや無駄な事だと悟る。
港につけば住民はおらず、代わりに海賊の住み着いた無法の街へと変貌していたのである。
海賊に襲われるも、なんとか無事ではあったのである。
さすがにこの状況は、近くの街まで引き返すと思ったのだが、誰一人そんな考えはなかった。
それどころか、船がないなら海賊船を奪うという恐ろしい提案を出す次第だったのである。
女の子のヒメル殿を合わせても、たった四人。それに比べ海賊は圧倒的に多いのに、海賊に立ち向かおうとするのである。この人達には恐れはないのであるか!?
そして何よりヒメル殿が言ったのである。
『私は推しの為にも引き返さないんで』
何があるのか知らないが、頑なに進路変更をしなかった。ヒメル殿の強い決意に、何も言えなかったのである。
そうして始まった海賊船強奪作戦。
なし崩し的に吾輩も参加する羽目に……とほほ……。
──でもこんなところで見捨てられたら……。
自分で言うのもなんだが想像するだけで未来は絶望的である。
海賊船に忍び込むのはヒメル殿と隊長殿。
吾輩と双子たちは、船に残る海賊を減らすための陽動班に分かれた。
そして、今………。
「なんで、吾輩達が先に港に来たのであるか?」
なぜか、陽動班である我々が強奪班より早く港にいた。
正確には、港近くに並ぶ倉庫の影だ。目立たないように、くすんだフードを頭まですっぽり被せられ隠れてる。そして、自分の隣には金髪くんだけが同じようにフードを被り、港に留まる海賊船の様子をちらちらと伺っている。
作戦通りなら街で小さな爆発を起こして海賊を引き付ける筈がどうして?
彼は、こちらの質問に答えるために吾輩を横目で見ながら答えた。
「そりゃ、ここにいる連中の数を減らさないと、船が奪いにくいからに決まってますぜ」
「ぐ、具体的には何をするつもりである……か?」
そう言っていると彼の顔が影を帯びながらにんまりと笑ったのだ。
その笑顔に、背筋がゾクゾクと寒くなる。
この金髪くん! 笑顔なのに本当に、こ、怖いのである……!
最初のイメージがそのままついてしまっているので、彼に対して恐怖心しかない。大量の海鳥の死体を持って帰ってきた姿はあまりに衝撃的すぎたのである。
「大丈夫ですぜ。ウッドマンさんにはそんなに難しい事は指示しませんから」
その言葉の後に「言ってもできない事は言わないですぜ? 無駄なんで……」とボソッと付け加える。彼の中の、自分の評価の低さに若干の不満を覚えるが、下手なことを言ってとんでもない事を押し付けられては堪らないので黙っていることにしたのである。
「よ、よろしく頼むのである」
「じゃあ行ってくるんで、オレが指示するまでここで大人しく隠れてて下さい」
くるりとマントを翻して港へと向かって行った。
まだ日は高いハズなのに、霧が晴れないので視界が良くない。フードの色も相成り海賊に気づかれていないようだ。金髪くんは、あっという間に海賊船に忍び込んでいった。
「なんて無茶なことをするのであるか……」
その無謀な行動に思わず呆れてしまう。
自分は今まで静かに、勤勉に、真面目に生きてきた。
一か八かの賭け事や勝算のない勝負なんて、自分には考えられない。そんな自分から見ると、彼らの行動は奇怪に見えてしまうのだ。
“ダン! ダン! ……ガシャァアアン!!”
銃声の後に、何かが壊れる大きな音がした。
「向こうに逃げたぞ! 追ぇえええーーーー!!!!」
海賊と思われる男の声怒鳴り声が港に響き、辺りが突然ざわついた。
ここからでは何が起こっているのかわからず、とっさに物陰に隠れようとすると。
「ウッドマンさん! とっとと逃げますぜ?」
突然現れた金髪くんに腕をぐいっと引っ張られ、駆け出した。後ろから海賊が追ってきている。
運動なんて普段しないので、少し走っただけで息が上がってくるのである。
「はぁ……はぁ……一体何をしたのであるかっ!?」
「海賊共の戦利品を奪って、何人か返り討ちにしたくらいしかしてないでずぜ?」
なんでもないかのように言うその顔には、赤黒い何かがべったりと付いていた。
そして手には同じ色の何かが付いた長い槍と……。
「あぁ、そうだ。これがウッドマンさんの分ですぜ」
そう言い投げ渡されたのはずっしりと重い袋だった。走りながら渡されたので、思わず落としそうになる。
「これは……な、なんであるか!?」
あまりの重さに思わず走る足を止めそうになった時
「あいつら戦利品ですぜ。金銀財宝に宝石がたっぷり入ってますぜ!」
「……ッ!?!?」
「ウッドマンさん止まらない方がいいですぜ? アイツらに捕まったら骨も残らないと思いますから」
後ろの海賊を指差しながら、清々しい良い笑顔で言ってきた金髪くんに袋を返そうとするが、重くてとてもじゃないが投げられない。
「オレは次の作戦に移るんで港からなるべく遠くに逃げるんですぜ! あ、あとせっかくオレが奪った財宝……落とさないよう気をつけるんですぜ、じゃあ」
含みのある笑顔を向け彼は、踵を返して港のほうに戻っていく。
「も……もう嫌なのであるうぅうううううう!! こんな財宝、渡さないで欲しいのであるぅぅううううううううううーーーーーーーッッ!!!!!!」
悲痛な叫びは街中に響き渡った。もちろん、その声は街中にいた海賊たちの耳にも入る。
気がつけばゾロゾロと海賊達が追いかけて来ていたのである。
「これはもう、死ぬのである!! いや、もう、し……死んだのである……!!!!」
本当はこの袋を投げ捨てたい。
でも、それで万が一助かった場合、金髪くんが自分に何をするか考えるだけで恐ろしいのである。
それを考えたら袋を抱えて逃げ続けるしかなかったのである。
「いぃいいやぁああああでぇえああああああるるぅぅうううう〜〜〜〜ッ!!!!!!」
◆◇◆◇◆◇
「あはははっ! いや〜、本当にウッドマンさん最高ですぜ!!」
キンは遠くで走る彼を、倉庫の屋根の上から見ていた。
「全くひどい人っすね。ウッドマンさんが死んじゃったらどうするんすか? ……ただでさえ、すぐ死んじゃいそうっすね、あの人」
「ここを爆発させたらすぐ助けに行くから、大丈夫ですぜ? あんなに楽しい玩具……ふふ……簡単には壊されたくないんで」
その顔は邪悪そのものだった。実の弟だって引いてしまうレベルで。
さて、海賊の大半がウッドマンを追いかけているが、街にも港にもまだまだ海賊共がいる。
次の作戦で、残りの海賊を船から離さなければいけない。
屋根の上から街を見渡す。すると街の至る所に、火薬が仕掛けれれていた。
キンとウッドマンが海賊達をひきつけている間に、ギンと水の精霊が共に街のあちこちに仕掛けてきたのだ。
本当は数カ所箇所だけ、爆発させるだけの作戦だったのだが……予定より明らかに多くの火薬を設置し、街を半壊させようと考えたのだ。
これは、彼ら双子なりの優しさだった。
海賊たちに乗っ取られた街なんて、百害あって一利なし。この機会に再起不能にしておこうと二人で考えたのだ。
「最初の爆発は合図なんで、派手に行きますぜ!」
キンの手には長い槍、そこに火の精霊石がはめてあった。
「燃え上がれ槍よ! ファイヤーランス!!」
火の精霊石に魔力を流し込む、すると槍は瞬く間に炎の槍へと変化した。
その槍を火薬が仕掛けられた建物目掛けて叩き込む。
燃える槍はみるみると建物を燃やしていく。仕掛けられた火薬に引火すると耳を塞ぎたくなるよな爆音を上げ、あっという間にあたりは火の海だ。
その火が、さらに次の火薬に……。あちこちから火の手が上がり爆発を繰り返す。
上がる火の手を消す海賊、犯人を探す海賊、ウッドマンを追いかける海賊。
海賊は随分とばらけた。
「これで隊長達がやりやすくなるっすね!」
「じゃあオレは玩具の回収に行きますぜ、後は任せましたぜっ!!」
そう言い残すとキンはすぐさまウッドマンが逃げている方に走っていった。
「じゃあ、オレ達は港の船が燃えないようにするっすね」
頭にのせた魔法陣の上で水の精霊が飛び跳ねて体が嬉しそうに波打った。
「ヒメルたち、無事でいてくださいっすよ……」
そう言って見つめる港は、静かだった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回の話で大活躍だったウッドマンのイラストを後で活動報告に上げさせていただきます。
よろしければご覧ください!
21.7.14 加筆修正




