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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第二部

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83話:ヒメルと海賊退治④

「とはいえどうすれば……」

 正直、卑怯な手を使ってもこのおっさんに勝てる気がしない。

 鞄にアルカナはいるけど、周りに騎士がいる状態で出てもらうのはリスクがでかい。今の私に出来るのはひたすら蹴ったり殴ったりというただの”暴力“だけだ。


「そろそろ必殺技が欲しいんですが! ここゲームの世界じゃないの!?」

 虚しく叫んだ所で必殺技が授けられる訳じゃない。出来ることを考えなくては。


「ったく、しょうがねぇ。あんまり時間がねぇが遊んでやる、かッ!」

 タンビュラが大剣を軽く降ると距離があるのに、重低音と共に風圧が届く。

「インカローズさんは今の内に船から逃げて下さい! 下にいる騎士の人達に保護を……」

「そないなこと言って、タンビュラと逃げるつもりやないやろなあ……?」

「逃げませんよッ!?」


 ──ダメだ。おっさんのせいで私の信頼は今や地の底。船では和気あいあいとしていたハズなのに、なんでこんな事になってしまったんだ……(涙)!


「あぁ……これも全部タンビュラのおっさんが悪いッ!  てりゃぁあアアアーッ!!」

 とりあえず何も考えずに突っ込んだ。

 アルカナの精霊術で風を纏っているので、速さは出てるのにおっさんに軽く避けられる。

「もう一回ッ!」

 すぐに切り返し、顔面目掛けて蹴りをかますが、大剣を盾にされて弾かれた。

「逃げないんでしたら、精霊術で援護をお願いします! 私、ひたすら攻撃するんで!」

「……ええけど、手加減できんから巻き込んだらごめんやで!」

 インカローズが炎の矢(ファイアアロー)を複数放った。

 それに合わせて、こちらも再び攻撃しに突っ込んだ。

 自分がおっさんに勝るもの、それはズバリ“若さ”と“体力”しかない。おっさんの体力尽きるまで攻め続ける。──これしか(思いつか)ない!

 しかし、炎の矢は斬り捨てられ、私の攻撃は軽く防がれた。

「なら、これならどうやッ!!」

 おっさんの足元から火の柱が勢い良く現れた。

「さすがです! これなら避けられない。タンビュラのおっさんとはいえ、ただでは済まない……」

「水よ……炎を呑み込め」

 何処からともなく多量の水が現れ、あっという間に火を消してしまった。

「ヒメルさん……タンビュラ船長の敵にまわるんですね……残念です……」

 奥から現れたセリサイトが敵意剥き出しの視線でこちらを睨んだ。

 右の肘から手の甲にかけて鉄色のゴテゴテとしたアームアーマーを身につけていた。中央部分には青色に輝く精霊石が埋め込まれている。

「またや! 邪魔な魔導具やな!」

 インカローズがギリギリと歯を鳴らした。

「前に自分の手の内晒してくれたからなぁ。いくらご立派な火の精霊術師だろうが、強力な水の魔術で攻められたら手も出せないだろ?」

 いつものようにニヤニヤと笑っていた。

 あの魔導具、インカローズ対策で海賊島で用意したモノに違いない。確かおじいさんを恐喝して武器を入手しようとしていた。


 ──タンビュラのおっさんだけでも厄介なのに……!


 先にセリサイトを倒すべきか……。魔導具も邪魔だし、何より毒を使ってきて危ないし、そして何よりタンビュラのおっさんより確実に倒せそうだ!


「そうと決まれば先手必勝! これでもくらぇえええッ!!」

 おっさんの後ろにいたセリサイトに向かって突っ込んだ。気づいたセリサイトが魔導具を構えると水で出来た刺が跳んできて、慌てて後ろに下がった。


「無鉄砲に突っ込みすぎだったかな……」

 一発だけかすったらしく、足がジクジクと痛い。

「セリ、嬢ちゃん殺したらテメェもブッ殺すからな」

「そ、そそんなぁ……酷いですぅ。ボ、ボクよりヒメルさんの方が大事なんですかぁ……」

「誤解される発言やめろッ!」

 振り返らなくてもわかる。インカローズから向けられている視線が背中にグサグサ刺さっている。

 ──足の傷より視線が痛い……。

 それより薄々気付いてはいたけど、おっさんに私を殺すつもりがないようだ。

 だからと言って、無鉄砲に突っ込んでも勝てないし……どうしたもんか。


「そろそろ時間もねぇーし、一気に方をつけさせて貰おうか?」

 おっさんが肩に大剣を担ぎなおす。

「統べてを燃やせ! ファイアバード!!」

 先に攻撃を仕掛けたのはインカローズだった。巨大な鳥の姿をした紅蓮の炎がタンビュラのおっさんとセリサイトに襲い掛かる。

「タッ……タンビュラ船長に手出しさせません!」

 セリサイトが魔導具を構えると巨大な水の塊が火の鳥目掛けて飛んでいく。正面からぶつかると爆発音をたてて一気に水蒸気へ変わって視界を奪った。

「熱ぅッ!」

 水蒸気と言うか湯気だ。熱すぎて目なんてとてもじゃないが開けられない。

 そんな中、インカローズの小さな悲鳴が聞こえた気がした。目をうっすら開くとタンビュラのおっさんに捕まったインカローズの姿があった。


 両腕を掴まれ宙に浮いた状態のインカローズの顎の下に大剣が当てられ、おっさんが手を離したら間違いなくインカローズの命はない……。

「わかってるとは思うが、少しでも動けばこの手を離すぜ?」

 インカローズに言ってる様に聞こえるが、おっさんは明らかに私を見て言っている。

 インカローズを人質の様に扱っていると言うことは何か要求があるのだろう。このシスコン海賊の要求なんて聞かなくても想像できるけど……。


「時間もねぇし、嬢ちゃんには人質(この方法)が一番効くからなぁ。……俺様の要求はわかるよなぁ?」

 コイツはオパール()の為に私を仲間(海賊)にしたいのだ!

「……わ……私に、仲間になれと?」

「わかってるじゃねぇか。じゃあ答えも決まってるよな、早く決めてくれねぇとこの手をうっかり離しちまいそうだ」


 ──ヤダヤダヤダ!

 絶対断固拒否!

 人権も何もない海賊になんてなりたくないし!

 おっさん達の仲間なんて更に絶対なりなくない!


 ……けど、だけど、ここで嫌だと言ったらおっさんは躊躇なくインカローズを殺すだろう。

 インカローズの命と私の人権と自由……どっちが大切かなんて考えるまでもなくわかっている。最悪、この場で「仲間になる」って答えて、後で逃げてしまえばいいんだ。


「……わ……わかっ……」

 言いたくない。

 でも嘘でもなんでも言わないとインカローズが殺されちゃう。


 ──あぁ、仕方ない。インカローズが助かるなら……。


「な……仲間にっ……」

「ふざけるなッ! こっちが先約だ、海賊(ゴミ)がッ!」

 空から聞き覚えの悪態が聞こえると、大剣を持っていたタンビュラのおっさんの肩から血が噴き出した。


 手から大剣が離されたが、インカローズを力いっぱい投げ捨てた。慌てて駆け寄ると斬られてはいなかったが、投げられた時に肩を痛めたらしい。痛そうに肩を押さえていた。

「インカローズさん! ポーションキャンディーです!! 食べて……」

 肩を押さえていた手で私の胸ぐらを掴んだ。

「嘘でも海賊になるって言った瞬間、消し炭にしたるから……」

「ひぇッ……! だっ、だってあの時はそう答えなきゃインカローズさん死んでましたし、海賊になったとしても私は生きて」

「だったら次、アンタが海賊になるって言うたらウチがアンタを殺したるさかい。よぉ憶えとき……」

 言い終わると掴んでいた手を離して再び肩を押さえた。

「……肩痛いねん、そのキャンディー貰ってもええ?」

「えっ!? あ、はい! どうぞ!」

 インカローズ手が塞がっていたのでキャンディーそのまま口へと入れた。

「……あんな…………ありがと」

 その素っ気ない「ありがと」の一言が嬉しくて、思わず顔が綻んだ。お礼を言ったインカローズが耳まで真っ赤だ。些細なことなんて気にならなくなるくらい今がとても満たされている。


 そう、目の前でタンザナイトvsセリサイトが始まってても全く気にならないくらい。


「タンビュラ船長を傷つけるなんて……殺します……原型留めないくらいミンチにして海にばら蒔いてやります……」

「悪趣味極まりない毒と魔導具(ガラクタ)に頼るしかない人間(クズ)が、あの時の屈辱……万倍にして返してやるッ!」

 双方啖呵を切ると魔導具vs魔法による壮絶な戦いが始まった。……に見えたが、タンザナイトが出した竜巻にセリサイトが呆気なく呑み込まれて地面に叩きつけられた。


人間の中の底辺(クズオブクズ)ッ! 俺に戦わせて座って呑気に観戦してるとはいいご身分だな!」

「っても、セリサイト一撃で倒したじゃん。その調子でタンビュラのおっさんもよろしく~」

 タンザナイトは何か言いたげに口をわなわなとさせたが、何も言わずにタンビュラの方に向き直った。

「ちっ……あん時のエルフか。時間がねぇのに面倒だな」

 斬られた肩が血で赤黒く染まっているのに気にした様子もなく、地面に落ちていた大剣を拾い上げた。

「何を気にしてる知らないが、時間なんてかからない。そこで倒れてると海賊(ゴミ)同様一撃で仕留めてやるからな!」

 タンザナイトの周りを風が音を立てて吹いている。

 まさに一触即発。

 何か些細な事を皮切りに、壮大な戦いが始まる予感……。

「たたたたっ、大変なのであるぅう!! 急いで船から離れるのであるぅぅうううー!!」

 船内から慌てた様子で出てきた。半分涙目で半狂乱という感じだ。へろへろと走りながらこちらに向かってくる。

「え、まさかこれが合図?」

「ばっ、爆弾が爆発するのであるぅううう!!」

「ば、爆弾!? なんで、まさかウッドマンさんが!!?」

「わ、吾輩、そんな恐ろしい事はしないである! キン殿が……」

「人聞きが悪いですぜ」

「キン兄!?」

「ほら、それよりヒメル嬢に王女様も早く逃げないと巻き込まれますぜ?」

 そう言いながらしゃがんでいたインカローズをひょいっと担ぎ上げた。

「いつの間に船に乗ってたの!」とか、「爆弾ってなんの話!?」とか聞きたい事がいっぱいあったが、足を止めずに船から飛び降りようとしているキン兄の姿を見て私も慌てて後を追う。

「お、おいっ! 何がどうなってるんだ!?」

「タンザナイトも逃げないと、この船爆発するって!」

「あの人間(クズ)ッ! だからか俺にあんな……ッ~!!」

 タンビュラに一撃だけ攻撃を放つと同じく駆け出した。タンビュラは放たれた攻撃を切り捨てると、地面に転がっていたセリサイトを担ぎ上げていた。

「この辺が引き際か……」

 船から飛び降りる直前、おっさんの一言がやけに耳に残った。

 大きな爆発音が鳴る。

 スロープを降りる余裕はなく、陸地に向かって大きくジャンプした。後ろからの爆風で押し出され、どうにか陸地に到着した。

 爆発は更に激しさを増し海賊船はあっという間に燃え上がった。

 海賊タンビュラがどうなったかはわからない。この爆発に巻き込まれたのか、それとも逃げたのか。


 そんなことより気になる事がある。


「……ところで爆弾なんて何処で入手してたの?」

 燃える海賊船をニコニコと眺めていたキン兄に問いかけた。いつまでも王宮から戻ってこないと思ったら、まさか海賊船に爆弾を設置していただなんて……。知っていたらこんな目にあわなかったのに。

「いやですぜ、まるでオレが爆弾を用意したような言い方ですぜ」

「違うの?」

「アレは、あそこにいる王女様があらかじめ仕掛けていたものですぜ。それがあちこち弄っていたら魔方陣が起動して、この有り様ですぜ」

 まるで自分は悪くない様な言い方だ。

 爆弾を準備していたのがインカローズだとしても、爆弾を爆発させたのはキン兄なんだからもうちょっと反省して欲しい。恐いから口には出さないけど!


「それに船が崩れて沈みはじめてるんで、これ以上被害はでないと思いますぜ」

 形を保てなくなった海賊船はバラバラと崩れて川へと沈んでいく。

「船も避難させてるんだ?」

 海賊船を取り囲んでいた船が海賊船から一隻離れていった。一番奥、先ほど自分がタンビュラのおっさんとインカローズの戦いを見ていた船だ。

「船の移動なんて指示してないで? それに移動させるなら一番船に近い後ろの船からやろ」

「だったらどうして……あ!」

 移動していく船の上、白いモノが複数動いている。

 幽霊船に乗っていた骸骨達だった。

 ──そういえば騎士達にやられた骸骨たち、そのままあの船に倒れたままだったんだ。

 しかもあの船にいたルーメン教の人間(唯一の弱点)は私が蹴り倒している。もはや骸骨を止める手段はない。

 さらに骸骨達に混じってタンビュラのおっさんとセリサイトの姿が見えた。

「タ、タンビュラァアアアア!!」

 インカローズが悲鳴に近い叫び声をあげた。

 追いかけようとインカローズが騎士達に指示していると残っていた二つの船からも爆発音がなった。


 ──簡単に死ぬとは思ってなかったけど、あの肩の怪我であそこまで泳いだのか、あのおっさん。


 そのまま船がひとつ川の向こうに消えていった。

読んで頂きありがとうございます。

海賊退治これにて終了です。

タンビュラはざっくり六十代の設定なんですが、『こんな強いジジイいるか?』と思いながらいつも書いてます。肩切られてセリサイト担いで船まで泳いでますからね?

個人的には書いていて大変楽しいキャラです。

それとお話に入れられなかったんですが、騎士達がめちゃめちゃ倒れてたのはタンビュラ半分、残りはセリサイトによる毒で半分って感じで倒してます。

実はすごい子セリサイトです。


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