82話:姫琉と海賊退治③
燃える海賊船。
炎の壁を挟んで睨み会う海賊と火の国の王女。
一瞬の静寂の後、インカローズが呪文を唱えると炎の渦がタンビュラに目掛けて放たれた。タンビュラは担いだ大剣を思い切り振り切り、炎の壁ごと渦を消し飛ばす。
「うぉおああ!! 既におっさんとインカローズさんがバトっていらっしゃるぅお!!? ってか、あんなにいたハズの騎士がほぼほぼやられてるってどういうことよ!? 私がインカローズを助けなきゃッ!! でもどうやってぇええ??」
「あたし戦うよ! また水でグルグルにしちゃうよ♪」
「あれは、不意打ち……というかタンビュラのおっさんが油断してたから効果があっただけな気がすんだよなぁ……」
またやっても、あの大剣で水球を真っ二つにされてしまうのが落ちだ。それにインカローズが使うのは火の精霊術。そこに水の精霊術なんて使ったら、文字通り戦いに水をさしてしまう。
「火なら風で援護できそうだけど」
海賊船には若干騎士が残っていて、アルカナを出して戦うことが出来ない。
──上手くコントロール出来ないとインカローズを巻き込んじゃいそうで怖い!
そうこう考えている間にも戦況は悪くなる。
海賊船で燃えていた炎の壁に、突如現れた大量の水飛沫が浴びせられ消されてしまった。尽かさずタンビュラがインカローズに向かって大剣を振り下ろす。
「ぎゃあああーッ! あのおっさんインカローズさんになんて事しやがるんだぁあ!」
振り下ろされた大剣をインカローズさんは華麗に避けたが、剣圧でダメージを受けている。
圧倒的にタンビュラのおっさんが優勢だ。
──助けなきゃ!
どうやって倒すとか作戦なんて何もない。けど、ただ見ている事なんて出来ない! 最悪自分を囮にしてでもインカローズを助けられればそれでいい。
インカローズの元へ駆けつけようと踏み出した所で、倒れていたウッドマンさんを思いっきり踏みつけて盛大にスッ転んだ。
「痛ァ……鼻打った……」
「ゴホッ、い……痛いのである」
蹴った弾みに気を失っていたウッドマンさんが目を覚ましたが、痛そうに脇腹をおさえて倒れていた。
「い……いったい何が起こったのであるか」
「あ、ごめん! 急いでるからとりあえずウッドマンさんはその辺隠れてて」
「ま、待つのである! どこに行く気なのであるか!?」
「タンビュラのおっさんをブッ飛ばしに?」
「一人でそれは無謀なのである! せ、せめてキン殿かエルフの御仁が来るまで待つのである!!」
「いつ来るかわかんない人なんて、待ってられませんが!?」
「な……なな、なら吾輩が……」
「えっ、ごめん! 聞こえないんだけど?」
「わっ、吾輩も手伝うのであるっ!!!!」
周りの騒音に負けない大きな声を張り上げた。ウッドマンさんに“らしからぬ”発言と相まって、ちょっと後込みしてしまった。
「いや、でもウッドマンさんじゃ……」
頼りにならないと言おうとしたが、先にウッドマンさんの声が遮った。
「吾輩が頼りにならないのは、重々承知のうえである。けれども、危険だとわかっていて子供をみすみす送り出す様な大人ではないのである!」
──おかしい。いつも頼りなく、今にも死んでしまいそうなウッドマンさんがちょっとだけ頼もしく見える、だと……!?
「…………いやでも、ウッドマンさんがタンビュラのおっさんと殺り合ったら確実に死にますよ」
いくら頼もしく見えたとしても、ヒョロヒョロ不健康のウッドマンさんと、しっかり鍛えられたタンビュラのおっさんでは戦う前から結果が見えている。戦うこと止めはしないけど、これでウッドマンさんが死んだら目覚めが悪すぎる。
「戦いはしないので大丈夫である!」
「……え、何? なぞなぞ?」
自信満々に答えたが、戦わずに手伝うとはどういう事だろうか。後方支援ってこと? でもウッドマンさんって精霊術とか使えたっけ?
「吾輩に妙案があるのである。ヒメル殿にはまず王女様たちを全員、海賊船から脱出させて欲しいのである。それと吾輩が合図するまでタンビュラを気を引きつけて欲しいのである」
「わかった。頑張ってみる」
「それと合図を出したら、急いで海賊船から離れて欲しいのである」
ウッドマンさんが今だかつてないくらいにやる気だ。何をする気かわからないが、とりあえず言われた通りにやればどうにかなるような気がしてきた。
「あとは……無事に海賊船まで忍び込めることを祈って欲しいのである……」
自信をなくしたのか急に弱気になった。
今いる船は海賊船の横にいるが、船一隻分程の距離があるので、他の船に一度飛び移ってからじゃないと辿り着くのは難しそうだ。ただその船の間も二メートル位あるので失敗すると川に落ちてしまう。
──川に落ちる姿しか想像できないな!
「アルカナ、ウッドマンさんをこっそり海賊船に届けてもらえる?」
「まっかせてー♪」
船尾の方にウッドマンさんを飛ばしてもらい、私も海賊船に向かって移動した。風を纏った状態なら船を飛び越えるのも楽勝だ。海賊船が近づいたところでタンビュラのおっさんがインカローズの首に手を掛け、そのまま持ち上げた。持ち上げられたインカローズの身体は船の外、それも下は川ではなく地面だ!
「ちょっと待てぇええーーいッ!!」
船縁をダッシュで駆け、インカローズに抱きしめ甲板に向かってダイブした。
「助けに来ました! お怪我はないですか!?」
「あんたこそ、すごい音しよったけど大丈夫なんか……」
「自分だって傷だらけなのに、相手の心配をしてくれるなんて」
甲板ダイブかました時に頭を強打したことなんて全く気にならなくなる。
「そんなことより、騎士達もやられちゃったし逃げましょう!」
「逃げる!? そんなんしたら海賊船ごとタンビュラに逃げられるやんか!」
正直に言えばそれが一番穏便にすむのだが、そんな事は口が裂けても言えない。無理矢理船から脱出してもいいが、そのまま船ごとタンビュラに逃げられるとウッドマンさんを見捨てることになる。
「よぉ嬢ちゃん、向かえに来てやったぜ?」
いつものようにニヤニヤと笑いながら言うタンビュラを見てインカローズが目を剥いた。
「向かえに……やっぱりアンタ、タンビュラの仲間やったんか!!?」
──完璧なる濡れ衣!
「推しに誓って断じて海賊の仲間なんかじゃないです! あれはあのおっさんがいい加減な事言ってるだけですよッ!」
「違ったかぁ? 確か、あのエルフを魚の餌にしなかった代わりに船に乗ったと記憶してたんだがなぁ」
「ふぁッ!!?」
思わず変な声がもれた。
確かにタンザナイトを助けるために船に渋々乗った。乗ったけどもよ!?
船に乗る=仲間になる、なんて話しは全く持って聞いてませんが!
「わ、私が乗ったのは幽霊船だったし? 人権も何もない海賊になんてなる訳ないじゃん!」
勢いよくタンビュラを指差した。ここで声高々に海賊ではないことを主張しないと、インカローズの疑いの目を回避できない。
──そんな目で見ないで~……(涙)。
「ふーん。まぁ、どっちでもいいけどよ。嬢ちゃんを連れてかねぇと可愛い妹が悲しむからなぁ。大人しく付いてきてもらおうか?」
「オパールにはちょくちょく遊びに行くからって言っといて下さい!」
「一緒に来ないって言うなら、力ずくでつれてくしかねぇな……」
そう言うと武器を構えた。
海賊どもに捕まったら最後、自由に動けなくなる。これからがセレナイト様のピンチだと言うのに、また捕まってたまるもんか。
──合図はまだなのウッドマンさん!
「……あれ、そう言えば合図って?」
どんな合図かなんて言ってなかったかも……。
ヤバい。合図があったら急いで逃げて欲しいと言われていたが、合図がわからない。
もうインカローズを抱えて海賊船から逃げるべきかも。最悪船を盗られてもウッドマンさんなら自力で逃げれるでしょ!
「家族ぐるみの付き合いなん……?」
会話を聞いてたインカローズが私を不審な目を向け、距離をとられた。
「えっ、違……違わないけど、違うんですぅ……。妹とは友達だけど、タンビュラのおっさんとは何の関係もなくて」
言い訳すればする程インカローズが離れて言ってる気がする。もはや言葉による説得は無理かもしれない……。ただでさえ、さっきルーメン教の人間に飛び蹴りを喰らわせて倒してしまった訳だし……。
──このまま逃げたんじゃ、タンビュラの仲間って事にされてしまう!!
「……わかりました。タンビュラを倒して、私が海賊じゃないってことを証明しましょうッ!!」
──ごめんウッドマンさん。作戦変わっちゃったけど、ウッドマンさんなら上手くやってくれるよね?
読んでいただきありがとうございます。
気がつけば年が開けておりました。
あけましておめでとうございます。
年内完結目指して頑張って書きたいと思います。今後もよろしくお願いいたします。
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