79話:姫琉と別件のお仕事?
林の中、辺りに誰もいないことを確認するとそのまま地面へと倒れ込んだ。
「……し、死ぬかと思った……」
セーブポイントを壊した後、オルゴナイトが「奥にいる魔物も倒していこうか♪」と言い出した為、刀を持った巨大なイボガエルことガマ将軍と闘うハメになったのだ。
──ビジュが好きじゃないうえに、一定のダメージを与えると刀を振り回しながら突進してくるから、超危険で戦いたくなんてなかったんだけど。
「神子様に頼まれてるんだよねー」なんて言われたら断れる訳がない。
ランショウを囮に、アルカナと私のナイスコンビネーションで何とか倒すことが出来たわけだが。ちなみにオルゴナイトは「魔力使いすぎちゃったー」とかほざき、キン兄は「いくら出してくれるんで?」と聞いてきたので見学してて頂いた。
──本当に死ぬかと思った……。
無事に倒すと「セレナイト様に報告しに行ってくる」と言って、オルゴナイトが早々に水の洞窟から離脱。そのせいだと思うんだけど、水の洞窟を出ると水の精霊の聖域の信者達に不法侵入者として追いかけられた……。
──やっぱり普通に通れたのはオルゴナイトが魔法か何か使ってたんだろうな……。
捕まりそうになり散々逃げ回って、やっと追手を撒けて今にいたる。
「ヒメル~お洋服よごれちゃうよ?」
「大丈夫、船に着替えがあるから。半日も逃げ回ったから流石に疲れた。これはもうこのまま眠ってしまってもいいのでは?」
「あぶないよー?」
アルカナの心配を他所に、うつらうつらと心地よい眠気がやってきた。逃げてる間にキン兄とランショウともはぐれてしまったが、船まで辿り着けば合流出来るだろう。……置いていかれなければ。
「ふん、そうやって地べたに這いつくばってるのが人間にはお似合いだな!」
夢心地だったのに、聞き覚えのある嫌味のある声が聞こえて、一気に現実へと引き戻された。声の主が誰かなんて確認するまでもない。
「なんだ、タンザナイトじゃん」
「『なんだ』ではないッ!」
起き上がるとやっぱりタンザナイトがいた。海賊島で別れたぶりだが、別に再会したくもなかった。気がついたら先に島を脱出して、抜け駆けしてセレナイト様に会いに行った酷いヤツだ。
──先にセレナイト様に会いに行ったのはタンザナイト。だがしかし、セレナイト様に頼まれた水の国のセーブポイントは"私"が壊したので、セレナイト様に褒められるのは私だけである!
「生憎ですけど、この先のセーブポイントなら先に"私が"壊したんで! ついでに奥にいたガマ将軍も"私が"倒したんで! タンザナイトの出る幕なんて残ってないから!! 残念でした!!!!」
──勝った!
セレナイト様への貢献度で、圧倒的な勝ちを確信して声高々に叫んだのにタンザナイトは「雑務ご苦労。セレナイト様にいい報告ができそうだ」としれっと返してきた。
「めっちゃ上から感! この間まで闇の神子疑惑で謙虚になってたのに元に戻ってる!?」
闇の神子疑惑以降、私にどう接していいかわからずぎくしゃくしていた面影はもはやない。
敬語で対応されるのもなんかイヤだったが、上から感出されるのもなんか腹が立つ。普通にコミュニケーション取れないんだろうか?
「神子様が『占い師にそこまでかしこまる必要はあるまい』とおっしゃったのでな」
うわー、呆れ顔で言ってるセレナイト様が目に浮かぶ。いや、でもこれもセレナイト様と私が仲良く成りつつある証拠では? セレナイト様にならどんなに邪険にされてもご褒美ですからッ!
「そんなことより、喜べ占い師! 貴様は今から俺と共に風の国のセーブポイントを破壊しにいくのだ!」
「だが断るッ!!」
「なッ、なんだとぉ!? 六星夜の俺がわざわざ人間に頼んでいると言うのに断るだと!」
セーブポイントを壊すのは構わない。むしろセレナイト様が言ったからやるべきだと思う。
「セレナイト様に頼まれるなら喜んでやる。けど、タンザナイトに言われてもやる気が起きない。マイクロミクロンぽっちもね!」
セレナイト様に風の国のセーブポイントを壊して来いと言われればやる気百倍だが、タンザナイトの号令じゃやる気なんて出ない。
一回、間にセレナイト様を通して下さい。
「…………神子様から協力してやれ、期待していると言われたのだが、そうかやらな……」
「喜んでやらせていただきますッ!」
タンザナイトの手を取った。
やや呆れた表情をされたが気にしてはいけない。
タンザナイトからの頼みなら聞く気はないが、セレナイト様からのご指名とあらば話しは別だ。
セレナイト様からの期待にはちゃんと応えないとね?
「それは困りますぜ? ちゃんと仕事もしてもらわないと」
「ギャァァアア!! キ、キン兄いつからそこに」
突然現れたキン兄の姿に悲鳴を上げた。
「最初からいやしたが?」
「ウソウソ! 絶対にいなかったよ!?」
追っ手から逃げきったかと辺りの確認をした時には絶対いなかった。突然現れたハズなのに、キン兄は何事もなかったように話を続けた。
「それより困りますぜ? ちゃんと仕事はしてもらわないと」
「大丈夫! ちゃんと入浴剤は作るし、レシピも書くから!」
それにセーブポイント破壊は優先させて貰える約束だったはず。キン兄に怒られそうな事はやらかしてはいない……たぶん。
いささか不安ではあったが、キン兄に恐る恐る視線を向けた。
「それとは別の仕事ですぜ?」
「……別とは?」
他に私に仕事があるとすれば、指輪作りか当番制の掃除と料理くらいのハズだ。色々と思い浮かべるが、コレと言ったモノは思い浮かばなかった。
「言ってなかったでしたっけ? ほら、インカローズ王女が呼んでるって。何も聞いてないんで?」
確かすぐに船に戻りたくないと駄々をこねた時に、そんな事を言ってたような。
でも、インカローズに会ったが仕事なんて何も言われなかったし、ただ料理を美味しそうに食べていただけで。その後も入浴剤の試作とかで話したが、仕事の話しなんて聞いていない。
「何も聞いていないけど、仕事って……?」
キン兄がニコニコと私を見ながら笑っている。機嫌良さげに笑ってるあの顔は、ウッドマンさんをいじって遊んでる時と同じ表情だ。
──嫌な予感しかしない……。
「誘拐されたヒメル嬢を探すために用意した船。アレの代金を用立て下さったのはインカローズ王女様なんですが」
「インカローズさんが会って間もない私の為に、船まで用意してくれるなんて!」
「タンビュラのおっさんを捕まえる為ですぜ」とキン兄がバッサリ、笑顔で訂正された。
「もちろん船の代金はヒメル……」
「払えないからッ! さすがに生涯かけても払いきれる自信ないからッ! あ、そうだ! ギン兄が誘拐された原因はタンザナイトでもあるから、船代はタンザナイトに払わせて下さいッ!」
「なァッ!? 俺を巻き込むなゴミがッ!! そもそもあの海賊は貴様を狙っていただろうがっ!!」
「あの時、タンザナイトが捕まってなければギン兄を連れて逃げられてましたー!」
「人間の中の底辺が調子に乗るなよッ!」
「あー!! ヒメルにひどいことしちゃだめぇー!!」
今まさにタンザナイトとアルカナの魔法対決が始まりそうになったが、キン兄が一つ咳払いをしてニッコリ微笑んだ。
……そりゃもう黒いオーラ全開で!!
流石のタンザナイトも魔法を収めて黙ったし、私はアルカナを胸の前にしっかり抱えた。キン兄はその様子を見て笑みを深めると「続けても?」と尋ねてきたので、タンザナイト二人、首が千切れるかと思う程縦に振った。
「ヒメル嬢に返済能力がないことなんて百も承知ですぜ。だからヒメル嬢には労働で払って頂きやすぜ」
「事実だが酷い言われようだ」
「ヒメル嬢の参加はインカローズ王女様、たっての希望ですぜ?」
「喜んでやらせて頂きます! で、参加ってなんの参加?」
もしかしたらドラゴンに襲われた街の復興だろうか? ゲームではサブイベントとして街の復興イベントが存在していた。商業ギルドに復興資金を渡すと一定金額ごとに街が元の姿を取り戻すイベントだ。実際にはセレナイト様が素早くドラゴンを倒してくれたおかげで、被害は最小限に抑えられたが、多少は被害が出たのかもしれない。
流石に家を直したりは出来ないが荷物運びなんかの雑用くらいは私にでもできるだろう。
「ヒメル嬢には海賊退治に参加していただきやすぜ」
「…………カイゾク……タイジ?」
想定外の答えに頭が追い付かない。海賊退治とか物騒極まりない単語が聞こえた気がした。聞き間違いかな? と耳をぐりぐりと体操してからもう一度聞き直したがキン兄の返事は同じだった。
「ちなみにどちらの海賊の話?」
「そりゃあタンビュラ海賊団に決まってですぜ」
「無理ッ!」
自分のポリシーとしてはやる前から無理と決めつけたくないし、インカローズの頼み事を聞いてあげたい気持ちもある。
──だけどこれは例外!
一回戦ったからわかるが、タンビュラのおっさんはマジ半端なく強い。剣を振っただけで衝撃波が飛んでくるんだから。さらに海賊団って事は他三人も、もれなくセットだ。勝てる気なんて微塵もない!
「大丈夫ですぜ。一回倒した相手ですぜ?」
「あんなのまぐれですぅー!! それに今しれっと海賊団っていったじゃん!! コラ・セリ・ダイも一緒じゃん!!」
「ついでにうちの父さんも一緒ですぜ?」
「なんでッ!?」
「タンビュラ達は船を取り戻すための準備で監獄島に行ったようですぜ。別れ際に父さんから聞きやしたから間違いないですぜ」
ギン兄曰く、アカガネは大変強いらしい。既に勝ち目がないのに、さらに戦力強化とかアホじゃないでしょうか?
戦う前からゲームオーバーの文字が頭上に出ている気分だ。
「さすがにヒメル嬢一人で戦わせるつもりじゃないですぜ。火の国の兵士もいるはずですぜ」
キン兄の説明では、インカローズはタンビュラのおっさんの船をエサに、海賊一味を一網打尽にするつもりのようだ。
出来たら生け捕り、うっかり殺してしまっても可だと言う。
「大体オレも強制参加させられるんですぜ。ギンのやつがタンビュラと一緒に牢屋から出てきちまったから。ヒメル嬢が即金で船代を払って頂けるんでしたら行かなくてもいいんですが」
「お金なんてないですー! わかってるくせに!!」
火の国の兵士がいて、キン兄もいると聞いて多少気持ちが軽くなった。やる気はしないがやるしかない。
──タンビュラのおっさんも恐いけど、逃げたあとのキン兄も恐ろしいし……。
「で、そっちの話は終わったのか……」
横で黙って聞いていたタンザナイトが口を開く。
「ごめん! 風の国には行けないわ。タンザナイトひとりで頑張ってきて!!」
「ふざけるなッ! 貴様に拒否権などある訳ないだろッ!!」
「こっちだって拒否権ないんですッ! だいたい、海賊退治なんて行きたくて行く訳じゃないんですけどッ! 出来ることなら行きたくない! でも船代を即金でなんて払えないし、踏み倒そうとしたらキン兄が恐いから渋々行くんだよ! 出来ることならそっちと変わってくれよぉお!!」
赤裸々に思っていた事をぶちまけた。
タンビュラのおっさんと戦うくらいなら魔物と戦う方が格段にいい。たとえ、風の国のボスがちょっと強くて面倒でも、あの海賊たち+αよりは全然いい。
──ボスキャラより強い海賊って意味わかんないよ!
「あっ、そうだ。タンザナイトが行けばいいんじゃん!」
タンザナイトはこんなんでも六星夜。かませ犬感あるけど、これでも中ボス。タンザナイトならタンビュラのおっさん相手でも勝てるかもしれない。
いや勝てなきゃおかしいでしょ!?
「何故六星夜の俺が人間の小競り合いに巻き込まれなければならんのだ!!」
「エルフでしょ、六星夜でしょ! 毛玉譲ってあげたでしょ! 強いんだから手伝ってくれてもいいじゃん!」
「断るッ!」
間髪いれずに全力で拒否られた。
でもタンザナイトがいれば、多少こちらが有利になるハズ。アルカナにムチャはさせられないし、ここは是が非でもやるって言わせないと。
「それはいい案ですが、無理を言っちゃいけないですぜ」
どうやってタンザナイトに行くと言わせるか考えていたらキン兄がそんな事を言ってきた。
「そんなぁ。だってギンが誘拐された原因はタンザナイトにもあるのに」
「それはそうですが、エルフに海賊退治なんて頼めませんぜ」
「そうだ。そこの人間はわかっているではないか」
タンザナイトはキン兄がエルフを敬ってそんな事を言ったと思ったのか、鼻をふふんと鳴らしたが……。
──たぶん違う。
だってキン兄から輝かしいばかりの黒いオーラが私には見えている。
「一度負けた海賊に戦ってくれなんて、それは酷と言うものですぜ」
──ほらね!
「…………オイ、誰が海賊に負けただと」
「違うんで?」
キン兄があきらかにタンザナイトを挑発している。それにまんまと引っ掛かったタンザナイトが怒鳴り声をあげた。
「あれは卑怯にも不意打ちを受けたからだ! 不意打ちじゃなければ俺が人間に負ける訳ないだろッ!?」
「口だけならなんとでも言えますぜ。実際は海賊にやられて連れて行かれちまったんですから。ね、ヒメル嬢?」
──突然こっちに振らないで欲しい。
とはいえ、今回はキン兄と目的は同じ。
「確かに一番弱いセリサイトに負けちゃうんじゃ……ねぇ? 無理言って……ごめんね」
虎の威を借るなんとやら。私も精一杯タンザナイトを挑発してやった。
「~~~ッ いっ……言わせておけば! いいだろう! 海賊どもを全てぶっ殺してやるッ!!」
「あ、できたら生け捕りでお願いしますぜ。王女様が公開処刑したいらしいんで」
キン兄の手のひらで転がされたタンザナイトが海賊退治に参加する事になった。
──やったね!
けど本当に勝てるのかな……?
読んで頂きありがとうございます。
水の国はこれにて終了となり、火の国に戻ります。
タンビュラ達との戦いになりますが、果たして無事に勝てるのかな……。
評価・感想・いいね・ブックマークお待ちしています。最近閲覧数が増えててちょっと嬉しい!




