65話:姫琉と再会
「随分な言い方じゃねえか? 探しに来てやったのによ」
「誰も探してくれなんて頼んでいないけど!」
セレナイト様になら探していただきたいが、海賊からの捜索なんてご遠慮願いたい。
「突然いなくなったからな。まさか“逃げる”つもりじゃねーだろうし、魔物にでもやられたんじゃねーかって船長がな」
──わざわざ“逃げる”って言葉を強調していう辺り、逃げ出そうとしてたことバレてるな、コレ……。
しかもタンビュラのおっさん、強行突破できないように非力な二人じゃなくコランダムを探しに寄越したって事は『絶対逃さない』って言われているようなものだ。
「べ、別に逃げようとなんてしてないし」
さっきまでの事なんてなかったかのように「なんのこと」と言わんばかりにしらばっくれた。
ここでしらばっくれないと半月後ここから出られるってバレたら絶対邪魔されるに決まってる。
精霊暴走が始まった今、海賊どもに構っている時間なんてない。
主人公とセレナイト様がぶつからないように、精霊の魔物化の原因(だと思われる)セーブポイントをぶっ壊して、セレナイト様に褒めて……違った。セレナイト様が死なない、そんなエンディングにしなくてはいけないんだ。
「と、ところでその横にいるおじさんは?」
怪しげな視線を向けてくるコランダムの気をそらそうと、横にいた仏頂面の見知らぬおじさんに話題を向けた。
腰に二本の刀を下げ、焦茶の簡素な着物を着ているのできっと島の人間だろう。短い黒い髪に白髪がたくさん混じっている、四十代後半くらいの年齢だろうからおじさんと言っても差し支えない……と思う。
「アカガネか」
コランダムが答える前におじさんを見てそう呼んだのはタンザナイトだった。
おじさんの方もタンザナイトに気がつくと「ああ、君か。無事だったか」と気さくそうに声をかけた。
──この人がアカガネ……。ムーンさんの旦那さんで、ギン兄のお父さん?
その事実を知ってからもう一度アカガネの顔をじっくりと見た。
アカガネの顔はどちらかというと強面のガテン系っぽい感じだ。キン兄もギン兄もムーンさんに似てるんだろう。あまり似ていなかった。
ギン兄の方をチラッと見ると、アカガネを背にして聖剣を抱えてうずくまっていた。
──そりゃそうなるよね。
変装のために着ていたドレスはボロボロだし、被っていたウィッグはどこかにいってしまった。メイクもすっかり落ちちゃったので変装もへったくれもない。
「ギン……なの、か?」
ゆっくりとギン兄に近づいたアカガネはギン兄の後ろで立ち止まった。
ギン兄は返事をせずそのままうずくまっている。
──ど、どどうしよう。これ、バレちゃってるよね?
ギン兄は島には絶対に戻らないと言っていたのに、海賊たちのせいで連れてこられてしまった。
100%海賊たちが悪く、ギン兄のせいじゃない。
無言のままのギン兄の代わりに、アカガネに説明しようとするが、二人の間に漂う緊張感の前に言葉が出なかった。
それはあとの二人(と一匹)も同じだったようで、無言のままギン兄とアカガネを見つめた。
アカガネは何も言わず、ギン兄の背をただただ見ていた。
静かな時間だけが流れた。
「オ……オレが、あんたの言うギンだったとして……あんたに何の関係があるんっすかね……」
掠れた言葉を振り絞ったのはギン兄だった。
「……オレとあんたは何の関係もない他人だって、島を出された日、あんたがオレたちに言ったっすねッ! 今さら……今さら、何を言える事があるっていうんすかねッ!!」
立ち上がり、振り返ったギン兄の目の前には、無言のままのアカガネが立っていた。
つり上げた眉とは裏腹に、ギン兄の瞳には涙がゆらゆらと溜まっていた。
アカガネはそんなギン兄の瞳をまっすぐ見つめた。そして、たった一言。
「大きく、なったな……」
そう伝えるとほんの少しだけ頬を緩めた。
ギン兄の瞳に溜まっていた涙が玉のようにポロポロと零れていった。アカガネの両肩をつかむと下を向いて大きな声で泣いた。時々、何かをしゃべっているが涙と鼻水ではっきりしない声は、私たちのところまでは言葉は聞こえない。
そばにいるアカガネだけにはきっと届いているだろう。
読んで頂きありがとうございます。
なんとかアカガネとギンを再会させる事ができました。わーい。
ちなみに毛玉はアカガネが苦手なので、二人の邪魔はしないように見守ってた訳じゃなく、単純にアカガネから距離を取ってます。
剣で止められて逃げ帰ったのが昨日の話です。
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24.5.20修正




