62話:姫琉と脱出①
「さて、やってみますか」
命の大精霊の説明では、体の中の“グルグル”としたモノを“ぐわっと”動かして、手に意識を集中し“バァッ!”と出して“ぐぐっと”壁を作るイメージ……らしい。とりあえず、深く考えず感じるままにやってみることにした。
──最初の体の中のグルグルってなんだ。そういえば、随分と前にウッドマンさんに魔力の流れを教わった事があったけ?
あれを思い出しつつ、あの時感じた“ぞわぞわ”とする体の中の“何か”を勢いよく手の方に動かすイメージをしてみた。
「うわッ、なんか腕がゾワッってきたッ!」
うまくいったのかわからないが、体の芯から腕にかけて痺れたような感覚が手に移動していくのがわかる。
「出来てるじゃないか。今、キミの手から流れているのが“魔力”さ」
「これが魔力……?」
言われてもピンとこないが、これで“グルグル”と“ぐわっと”と“バァッ!”の部分は出来たようだ。
「あとは“ググッ”と壁を作るイメージ……」
「そうさ。出した魔力に“カタチ”を作ってやればいいだけさ。普通の人間には難しいだろうが、ボクらが作ったキミならできるさ」
命の大精霊の話を聞いて、アルカナの精霊術と似ていると思った。
私がイメージしたことをアルカナが精霊術として出してくれるのは同じような原理なのかもしれない。
「とりあえず、穴を塞ぐならコンクリートを流し込むようなイメージかな……」
「コンクリート、が何かは知らないが穴が塞がるのなら問題ないさ。けれど、その前に」
「その前に?」
「ボクは帰るとするさ☆」
「………………はい?」
何を言ってるのか理解出来ずに首を傾げると、命の大精霊は広がる影の上に浮かびながら、悪戯っぽく笑って私を見下ろした。
「シライシヒメル。キミがこの世界を救えることを期待してるさ。それではいずれまた会おう!」
「は!? えッ!? 帰るってまさかッ!? ちょ、ちょっと待って! 冥界の事とか、なんとかコアとか聞きたいことがいっぱいあるんです、ってーーああッ〜!!」
命の大精霊は人の静止なんて聞かず、影の中へとその姿を消した。
「なっ、なんて勝手なやつ!?」
謎の言葉と面倒な仕事を押し付けて消えてしまった命の大精霊に怒りが込み上げてくる。
とはいえ、影の中……つまり“冥界”まで追いかけるような事はするつもりはない。
何より、これ以上ここで足止めを食っている場合じゃない。アルカナがキン兄を連れてきちゃう前に、この島から逃げなくては我が身が危ないッ!!
そんな訳でコンクリートで壁を作るイメージをすると影はみるみる小さくなり消えていった。
「これで冥界への穴は閉じたのか?」
「たぶん!」
頼んだ本人が消えてしまったので、本当に成功したかは若干不安がある。でも、あったはずの影は消えたからきっと大丈夫だろう。
失敗してたら命の大精霊のせいってことで!!
私は一切の責任を負いかねます!
「なら、こんな場所すぐに離れるぞ」
タンザナイトはそう言うと踵を返し出口へと向かっていく。
「はッ、そうだ。穴を閉じたお返しにタンザナイトから島の脱出方法を聞けばいいのでは!?」
放心状態のギン兄を引きずり慌ててタンザナイト後を追いかけた。
◆◇◆◇◆◇
岩窟を出ると、ちょうど朝日が登りだしたようでうっすらと空が明るい。
島に来てたった一日しかたってないが、どっと疲れた気がする……。眠いし、なんだか疲れて熱がぶり返した気もしなくもない。
若干ダルい体を鞭打って、先に行ってしまったタンザナイトを探そうとしたら先に森の中に一際目立つ巨大な毛玉が目に飛び込んだ。
──この毛玉のせいで大変な目にあったなぁ……。
アルカナからのお願いではあったが、この毛玉のせいでユウゴウと戦ったり、アルカナがウッドマンさんを呼びに出てしまったり、冥界の穴を埋めることになった訳だ。
鶴だって恩返しするんだから、猪も恩返しに島から脱出させてくれたりしないかな。
「ブモブモ」
「それで構わない。急いで……」
毛玉の近くに行くとそこには毛玉と話しているタンザナイトがいた。
こちらに気づくと苦虫を踏み潰したような嫌な顔をして私を見た。
「……あからさまに嫌そうな顔されると流石に傷つくが」
「すまないな。頭では、闇の神子に……冥界の穴の件も含めて敬意を払わなくてはならないとわかっているが、体が貴様を拒絶するんだ」
淡々と言いながら口の端からツー……っと血が流れていったのを見て、それ以上は深く言わなかった。
読んで頂きありがとうございます。
タンザナイトがなんだか可哀想になってきましたね。心の底から嫌いな人間に、その中でも一番嫌いな姫琉に敬意を払わなくてはいけないことがストレスで体が拒否反応を訴えています。
姫琉に話しかけるだけで彼は吐血するでしょう。
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24.5.19修正




