61話;姫琉と冥界の穴
「闇の神子…………私が?」
レヴィヤタンも言っていたが、改めて言われても全くピンとこない。というか、そんな馬鹿なと大声で叫びたい。
神子には条件である。
精霊の愛し子、つまり"精霊が見える"という条件だ。それを満たしていない私が神子なわけがないのだ。
──うん、これは何かの間違いに違いだね!
「私、普通の人間ですから! 精霊も見えないのに神子だなんて~」
「もちろん見えるさ。冥界の精霊ならね」
──こちらと冥界ではいる精霊が違うから見えないということ、か?
「……なるほど。と言いたいけど、ぶっちゃけ冥界ってなんなの?」
ゲーム中で冥界なんて聞いたことがない。
セレナイト様が護っていた精霊樹によって分けられた"精霊の世界"というものは出てきたが、もしも、冥界=精霊の世界なら、タンザナイトが冥界の住人と言って、アンデッドを嫌悪していた事に疑問が残る。だから、なんとなく別物だろうと予想している。
じゃあ、冥界ってなんなんだよ、ってなると私の頭じゃ考えつかないから、答えをザックリと教えて欲しい。
「冥界は冥界さ☆」
「答えになってない!」
答える気がないのか、本当にそれ以外の答えがないのか命の大精霊はそれ以上何も答えなかった。かわりに「さあ、早く穴を閉じてくれ」と急かしてくる。
冥界についてはこれ以上聞いても答えてくれなさそうだな。
「冥界の穴って閉じないとどうなるんですか?」
「冥界の精霊がこちら側の世界に迷い込むことになるさ」
「それは何か問題があるんですか?」
名前からヤバそうな感じはするのだが、特に害がないのであればそのままにしたい。
理由は簡単。穴を埋めるなんて時間かかりそうだし、キン兄から逃げるのもセレナイト様にお会いするのも遅くなってしまうからだ。
「普段なら氷の精霊が迷い込んで雪を降らせたり、凍らせたり、雷の精霊が雷雲を呼び出したりするくらいさ。普段ならね」
命の精霊はなんとも含みのある言い方をする。今は普段とは違うということだろうか? そういえばさっき、普段なら自然に閉じるのを待つって言ってたような。
「今は普段と違うってことですか?」
「そうさ。ついに“エレメンタルコア”が動き出してしまったからね」
「エレメンタル……コア?」
聞き覚えのない名前に首を傾げた。名前の響き的にはいかにもRPGっぽいのだが。
「それが動くと何かあるんですか?」
「もちろんさ。簡単にいえばこちらの世界に冥界の魔力が流れ出したのさ」
その説明を聞いても何が大変なのかわからず、ギン兄とタンザナイトの顔を交互に見た。
既に話についていけてないっぽいギン兄は目は開いているが、思考は完全にお休みになっているようだ。
で、タンザナイトはと言えば顔色がどんどん青くなっていった。パクパクと口だけがまるで鯉のように動いている。
「顔色わるいけど、大丈夫……?」
社交辞令的に尋ねてみたら、何も言わずに私をひと睨みしてきた。
タンザナイトに睨まれるのなんてデフォなのでもはやなんとも思わない。殴りかかってこないだけマシだろう。
「大精霊様……この人間、いえ、闇の神子ならその穴を閉じられるのですか……?」
「もちろんさ。すぐにでも閉じられるさ!」
「待って。やったことないんですけど!?」
「簡単だから大丈夫さ!」
……なんて無責任なことを言っているんだが。「そんなに簡単なら自分でやれよ!!」と言ってやりたい。けど、大精霊を怒らせたら大変なことになりそうだし、またユウゴウみたいなの出せれたら面倒だからな、と言いたい事を我慢した。私、えらい。
「占い師!!」
「うわッ! な、な、何!? 突然!!!?」
タンザナイトに呼ばれたかと思ったら、突然頭を下げてきた。角度はしっかり90度で深々と……だ。それも私に向かって。エルフ至上主義、人間なんてゴミ以下としか思っていないタンザナイトが人間に頭を下げるなんて。
──し、信じられない。
タンザナイトは頭を下げたまま話しだした。
「……占い師様、いや、闇の神子様!」
「神子様ァ!?」
あまりの態度の変化に一瞬で全身に鳥肌がたった。ハッキリ言ってやめてほしい。
「これまで闇の神子様に行った無礼の数々心より謝罪いたします。罰を受けろと言うのであれば、どのような罰でも受ける覚悟です。……ですので、どうか冥界との穴を閉じてはいただけないでしょうか」
「わ、わかった! やるから! 冥界の穴でもなんでも閉じるから! その話し方を私にしないで!! 鳥肌が止まらないからッ!!」
あまりの態度の変貌ぶりに耐えきれず思わず叫んだ。
タンザナイトは「そうか」と一言いうと下げていた頭を上げた。口元にうっすら血が滲んでいたのに気が付いたが、そっと視線をそらせて見ないふりをした。
──よっぽど私に頭を下げるのはストレスだったんだね……。
やると言ってしまったからにはやるしかない。
薄暗い辺りを見渡しても、多少地面はボコボコしているが“穴”と呼べるようなものは見当たらない。自分で見つけられないのであれば聞くしかない。
冥界の話のように「穴は穴さ☆」と返されると思いつつも、命の大精霊に尋ねたら普通にあっさりと答えてくれた。なんと、命の大精霊の足元。先程の趣味の悪いトーテムポールを出した影が冥界へと繋がる穴になっているらしい。
てっきり物理的に穴が空いていると思ったらそういう訳じゃないんだね。
「いや待って、影なんてどうやって埋めるの……?」
てっきり穴を埋めるもんだと思っていたので、影を埋める方法なんて考えてなかった。そもそも、そんな方法あるのだろうか?
「埋めるんじゃない、閉じればいいのさ。影に手を入れて壁を作るイメージで魔力を流し込んでくれればそれで塞がるさ」
「魔力なんて使えませんが?」
この世界の人間(大精霊)は、当たり前のように魔力が使えることを前提に話してくる。
確かに隊長の家でもお風呂にお湯を溜めたり、料理するのに火をつけるのも精霊石に魔力を流して使っていた。この世界では魔力を使えるのが当たり前なんだろうけど、使えませんから!
「そんなはずはないさ。個体差はあるが生命は全て魔力を有している」
「あったとしてもやり方がわかりません!」
「簡単さ。体の中の“グルグル”としたモノを“ぐわっと”動かして、手に意識を集中し“バァッ!”と出して"ぐぐっ"とすればいいのさ」
「説明が感覚的過ぎるッ!!」
……説明がオノマトペすぎて、何一つわからん。
わからないが、この説明を頼りにやってみるしかない。
だって魔力の使い方について聞きたいけど、頼みのギン兄はいまだ現実に帰ってきてないご様子だし、タンザナイトはこちらをじっと睨んでいて「魔力ってどう使うの?」……なんて聞ける雰囲気じゃない。
とにかくやってみなくちゃ始まらない……。
失敗したら失敗したで、私はやっぱり闇の神子なんかじゃなかったってだけの話だ。
「とりあえず……やってみるか」
私は覚悟を決めて影の中に思い切って手を突っ込んだ。
読んで頂きありがとうございます。
おおよそ一ヶ月ぶりの更新でございます。
闇の神子って、冥界って!?
って話は置いといて次回冥界の穴を閉じる作業です。
言葉を重ねれば重ねるほど命の大精霊がヴィジュアル系から遠のいている気が……。
いえ、彼はヴィジュアル系お兄さんです!
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お待ちしています。
24.5.19修正




