60話:姫琉と望み(改訂)
あの鉄板が落ちてきた時にやっぱり死んでいたようだ。
しかし、この“エレメンタルオブファンタジー”の世界で再び生を受けたと。それも私を助けてくれたのは命の大精霊がいうには彼と“神子”だと。
神子ってことは……つまり。
「死んだ私を助けてくれたのはセレナイト様!!」
思わず歓喜の雄叫びをあげた。
“神子”といえばこの世界にはふたりしかいない。
ルーメン教の光の神子である『エメラルド』とエルフの“精霊の神子”であるセレナイト様だ。
もちろん、エメラルドが助けてくれた可能性も大いにある。それは重々理解しているが、あえてその可能性を遥か遠くに蹴り飛ばした。
──私は、私が一番信じたいものを信じるのです。
ちなみに私が“神子様”に助けられた命だと知ったギン兄とタンザナイトはといえば。
「神子ってそんなことまできるんっすね……。すげーっすね~」
「そんな訳あるかぁあああああ!! 神子様がこんなゴミクズを作る訳があるかぁああああッ!?」
……ってな感じである。
ギン兄は考えることを諦めたのかちょっと遠い目をしているし、タンザナイトはいつもの如くブチギレていらっしゃる。それでも私に掴みかかったり、殴りかかったりしないところをみるとギン兄との約束をちゃんと守っているようだ。
「セレナイト? ……あぁ、キミが以前話していたこちら側の精霊の神子のことかい」
「こちら側とは……?」
命の大精霊の発言に、何を言っているのかわからない、と言わんばかりにわざとらしく首を傾げた。
本当は今の流れで気づいてる。
いるけど……まだ自分を助けてくれたのはセレナイト様という夢を見ていたいのだ。
──私の信じたいものを信じたいのです。
「向こう側と言えば、もちろん冥界の事に決まってるだろ」
「やっぱり……」
命の大精霊の決定的な一言で自分の信じたかった妄想は、泡となって消えていった。
──儚い夢でした……ガックリ。
「キミを作ったのは神子・クオーツ。冥界の精霊の神子さ」
──クオーツ。
ゲームでも聞いたことのない名前だなぁ。でも、なんでそんな人が私を助けてくれたんだろう。
「大精霊様。精霊の神子が冥界にもいるというのですか?」
発狂していたタンザナイトが何事もなかったように会話に参加してきた。
私を作ったのがセレナイト様じゃなかったとわかって正気を取り戻したようだ。
「我らが同胞よ。そうだとも、冥界にも精霊の神子は存在するさ。ただし、この世界の精霊とは異なる氷、雷、時、そしてボク命の精霊の加護を受けているがね」
命の大精霊は自身を示して自慢げに答えた。
「な、なるほど? じゃあ、私を助けてくれたのはそのクオーツって人なんですね?」
「その通りさ。そして、彼女はキミを助けるために“全て”をキミに託したのさ」
「全てを……託す?」
なんかRPGっぽいことを言われた気がするが、全てを託されたどころか、冥界なんて所に赴いた記憶すらない私が一体何を託されたんだろう。
「そうさ、シライシヒメル。キミは記憶以外の全てを彼女から託されたのさ」
今までどこかのらりくらりとしていた命の大精霊が、真剣な面持ちで私をみていた。
──いま、記憶以外の全てと言っていた。もしかしたら私が生きているのは、クオーツの“命”を貰ったから……?
あくまで勝手な想像だが、命の大精霊は私を彼女との最後の共同作品だとさっき言っていた。それに全てを託したとも……。
もし、私の想像が当たっていたら、彼女はなんで私なんかの為にそこまでしたのだろう。
肝心の記憶がないので、想像することしかできないけれど。
聞くべきか悩んだが、私は聞かなかった。
だって、聞いてしまったら……託されたものが私にはできないことだったら……。
「私……なんで覚えてないんだろう…………」
自信がなくなり俯けば、思わず不安が口からこぼれてしまう。
「キミの記憶がないのは、仕方ない。クオーツが望んだことだからね」
「え……? なんで」
──全てを託したのに、わざわざ忘れさせたってこと?
「キミはキミが望むことをすればいい。それが結果として、彼女の望みにも繋がるからね」
「私の望み……」
「シライシヒメル、キミの望みはなんだい?」
「セレナイト様を幸せにすることです!!」
命の精霊の問いかけに迷わず答えた。
間違っているとか、正しくないとか関係ない。
私の望みはこの世界に来た時から変わらない。……多少変わったとしたら、旅で知り合った人たち(一部を除く)が幸せになれたらいいな……とか思ってたりしなくもないが。
「それでいいさ。それにしてもキミ本当にブレないな、以前も同じことを言っていたさ」
記憶にないが以前も同じことを言ったのか。さすが自分!
「そうだ。キミ、せっかくココに来たんだからこの“穴”を塞いで言ってくれないか?」
「穴?」
「そうさ、ちょうどココに自然に“穴”が空いてしまってね。普段なら勝手に閉じるのを待つんだが、今これを放置するのはマズそうなんでね。ボクがわざわざ閉じに来たんだよ」
「手伝うのはいいけど、穴を埋めるようなものなんて持ってないですよ」
海賊に誘拐されてほぼ手ぶらである。
使えそうなのは、ギン兄が持ってる聖剣くらいだけど、聖剣をシャベル代わりに使ったら流石に怒られそうだ。
「閉じるのは冥界との穴さ。闇の神子のキミになら簡単だろう?」
「…………今、なんと?」
ちょっと聞きなれない単語が聞こえて思わず聞き返す。
「それも忘れているのかい? シライシヒメル、キミは闇の精霊の加護を受けた闇の神子さ」
「闇の! 神子!!?」
読んで頂きありがとうございます。
そして、1ヶ月ぶりの更新です。待っていていたという奇特な方がいらっしゃいましたら、大変お待たせいたしました。
監獄島もあと少しなので、気合いをいれて書いていきます!
ところで、更新を止めている間にコンテスト用に短編をひとつあげました。魔女の女の子が友達を作りたいと家でするおはなしです。
よろしければ読んでみてください(宣伝)!
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お待ちしています!!
22.5.30 書き直してます(タイトル変更)
24.5.18修正




