57話:姫琉と聖剣
"聖剣"というものがこのゲームには存在する。
シリーズによって、名前や、仕様は様々だが、聖剣とは精霊の加護が与えられた剣のことだ。
ちなみに"エレメンタルオブファンタジー"では、光の精霊の加護、つまり魔力が宿ったものを聖剣と呼んでいる。それ以外の精霊の魔力が与えられたものは魔剣と呼ばれていた。
そして、このゲームでは聖剣は一本しか存在しない。
セレナイト様との最終決戦。主人公のヒスイが手にしたのが聖剣だった。
ストーリーの中で光の国の王様から授かる光の剣、その一本だけだったはずだが……。
「それ、本当に聖剣なの?」
タンザナイトはアカガネさんから借りた剣を聖剣だと言い張ったが、ゲームをプレイした私としてはちょっと信じられない。
「人間にはわかるまいが、この神々しい光の魔力は聖剣に間違いないッ!」
そう言われてしまっては、魔力の魔の字もわからない私にはうなずくしかなかった。
「あー、思い出したっすね。昔、その剣で兄貴とちゃんばらしてたら、めっちゃ怒られて母さんに隠されたやつっすね」
「せッ……、聖剣でちゃんばらだとッ!?」
ギン兄のとんでもない思い出話に、タンザナイトの顔がひきつっている。
──本物の剣でちゃんばらしちゃう辺りが、さすがと言うかなんと言うか……。
「それで、その剣でならユウゴウを倒せるんっすか?」
「当たり前だろ! 聖剣は言わば光の魔力そのものだ。冥界の住人にとっては、日の光を浴びたのと同じだ!」
「だったら、あんたが聖剣で戦えばいいじゃないっすかね」
「バカがッ! それが出来たら貴様ら下等な人間と手を組む訳ないだろ! 聖剣は使い手を選ぶんだ!」
そう言ってタンザナイトが聖剣を前に持つと鞘から出そうとして見せた。しかし、聖剣は錆び付いているかの様に鞘から出てこなかった。
「単純に錆び付いてるだけじゃないの?」
「そう思うならやってみろ」
放り投げられた聖剣を受け取り、鞘から抜こうと力いっぱい引っ張った。
「うぐぐっ……ッ!」
力の限り引っ張った。
「ぬぉおおおおおーーーーッ!!」
しまいには、両足で鞘を抑えて引っ張ってみたがびくともしない。錆びてひっかかってるというより、最初から剣と鞘がくっついてる感じだ。
「だめだ……抜けない。実はコレ最初から抜けないようになってるんじゃないの?」
あまりに抜けないので、タンザナイトが人間をからかうために用意した偽聖剣じゃないかと疑った。
聖剣を置いて手を見ると、力いっぱい引っ張ったせいで真っ赤だ。
「あ~あ、手が真っ赤っすね」
痛々しそうに私の手を見たギン兄は、精霊術で水を出してくれた。宙に浮いた水の塊に手を突っ込むと冷たくて気持ちが良い。
「やはりな。精霊術を使えると言うことは、それなりに魔力はあるようだな」
ギン兄が精霊術を使った様子を見て言うと、置いてあった聖剣を手に取り、ギン兄に「受けとれ」と言わんばかりに押し付けた。
「はぁ……仕方ないっすね」
聖剣を受けとると、剣を真っ直ぐ立て、柄を軽く握った。小さく息を吐き、握った手を真っ直ぐ上げれば、その手には光輝く聖剣の姿があった。
その輝きは夜空に光る星の様に眩く、夜の暗闇に光を灯した。
──おぉ~! ギン兄、まるでゲームの主人公みたいだ!
感激のあまり思わず拍手をした。
すんなりと抜けた聖剣に驚くギン兄の横で、したり顔なタンザナイトがちょっと邪魔くさい。
「よし! さすが俺の見立てに狂いはなかったな」
自信満々なタンザナイトは、かなりウザい。
「聞いてもいい?」
「なんだ」
「なんで、ギン兄なら聖剣を抜けると思ったの?」
「簡単だ。人間の魔力量は両親から引き継がれるものだからな。あのアカガネと元の聖剣の持ち主との子なら、魔力は問題ないだろ」
「魔力量があれば聖剣って使えるの?」
魔力を使えない私には、どちらにしろ使えないが、ファンとして気になるのだ。
「先程も言ったが、聖剣は使い手を選ぶ。仮に魔力量があったとしても、貴様の様な"人間の中の底辺"じゃ使えないだろうがな」
と言いながら鼻で笑いやがった。
自分でも使えないだろうな、とは思っていたが人に言われると何とも腹立たしい。
「無事、対抗手段も出来たことだ。アレを倒しに行くぞ、人間ども!」
「待って欲しいっすね!」
ユウゴウの岩窟に行こうとするタンザナイトをギン兄が呼び止める。
「なんだ、俺は急いでいるんだ。こんな下らない事にあまり時間をかけたくない……。それとも、冥界の住人と戦うのに腰がすくんだか?」
「……ユウゴウ退治を手伝うのは構わないっすね。オレだって、あんな危ない魔物を残して島を離れるのは、少しだけ不安っすから……。ただ、ひとつ条件があるっすね!」
「条件だと? 人間風情が、この俺と対等な立場で取引出来ると思っているのか?」
「……聞いてもらえないなら──この聖剣、ここで叩き折ってやるっすね!!」
聖剣を本当に折るような仕草をしたギン兄を、尽かさずタンザナイトが必死に止めた。
「はッ、話くらいなら聞いてやっても! だから、折るなんて真似はやめろッ!!」
タンザナイトの顔が真っ青だ。
「折ったりしたら……アカガネが……」
タンザナイトがボソボソと何かを言っているが、遠くて良く聞こえない。
──でも、ギン兄ナイスアイディア!
ここで条件として、脱出方法を教えて貰えば、魔物がいなくなってギン兄は安心だし、キン兄に事が露見する前に逃げれるって訳だ。
「──条件は、二度とヒメルを傷付ける様な真似はしないで欲しいっすね!!」
「……え? ええぇぇえええーーッ!! いやっ、ギン兄、そんなのどうでもいいよ。もっと他に――」
「どうでも良くないっすね!」
言いかけた言葉を遮るようにギン兄が言う。
「わかった……。その条件をのもう」
「条件のんじゃうんかいッ! えー……そんなもんより絶対脱出方法の方が…………」
ぶつくさと文句を言って見たが、戦うのが主にギン兄なのでそれ以外は何も言えないわけで……。
「では、とっとと倒しに行くぞ!!」
タンザナイトを先頭に岩窟へと再び向かった。
読んでいただきありがとうございます!
次回はいよいよユウゴウ退治です。
魔術が使えないエルフとアルカナ不在の姫琉、全ては聖剣を抜いたギン兄にかかっています。
ところで、この度初めて、ファイ○ーエンブレムのゲームを買いました。switchのアレじゃなく、暗夜です。
サ○ンナイトも一回もクリア出来ない私が、果たしてクリアできるのか……。頑張ります。
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24.5.18加筆修正




