54話:姫琉と森の魔物①
誰かに無理だと言われるのは嫌いだ。
どんなに無謀だとわかっていても挑戦してみなくてはわからない。
それがどう見てもヤバそうな魔物だったとしても、挑戦してみなくちゃどうなるかなんてわからない。
が──。
「あっ、これ勝てないやつだわ」
挑んですぐにその結論にたどり着いた。
「だから無理って言ったじゃないっすか~ッ!」
文句を言いながらも流石はギン兄、敵の攻撃をうまくかわした。
「とりあえず、毛玉がいるところまで退却ぅううー!」
RPGお馴染みの【逃げる】の号令よろしく、その場から全員逃げ出した。
幸いにも魔物は追っては来なかった。
無事に毛玉の元にたどり着くと、ギン兄がまるで隊長のように眉間にシワを寄せて目をつり上げた。
「ヒメルはいつも無謀に挑みすぎっすねッ!!」
「結果がわかっていても挑むことが大事かと……。絶対に勝てなくても、イベントが進むこともあるし!」
いわゆる負けイベントである。
「勝てないってわかって挑まないッ! 命がいくつあっても足りないっすね。それとも、ヒメルは死ぬつもりだったっすかね……?」
「ごっ、ごめんなさい!」
さすがは双子。
怒り方は違うのにキン兄と同じような雰囲気を感じて、間髪いれずに謝罪を口にしてしまった。
でも、確かにギン兄の言ってることは正しい。
こんなところで死んでしまったら死んでも死にきれない。
セレナイト様の為にこの命をかけて挑むのはいいが、アルカナのお願いとはいえ、毛玉の為に死ぬ気は更々ない。
「よし! あの魔物を倒すのはそのアカガネさん? とかいう人に任せて、私たちは当初の予定通り水の洞窟を目指そうか!」
「ブッ、ブモッ!?」
毛玉は言ってる事がわかったのか、ブモブモと必死で何かを訴えてきた。何言ってるかわかんないけど。
「いやいやいや、だってギン兄のナイフも水まんじゅうとアルカナの精霊術も通じないんだよ? あんなのどうやって倒せって言うのよ」
森の奥にいた魔物とは"幽霊集合体"のようなものだった。
幽霊と言ってもオパールやダイアのような人の形ではなく、火の玉が集まってなんとなく形を持っているようなものだ。
あんな魔物はゲームでは見た記憶がない。
幽霊だから当然、物理攻撃はすり抜ける。
精霊術はたぶん効いてはいるんだけど、決め手にかける。
──闇属性には聖魔術が使えないと辛いわ~。
聖魔術はアルカナもギン兄も使えない。もちろん、私も使える訳がない。
長期戦をやるなら、この人数ではかな〜り厳しいと言わざるおえない。
「そんな訳で、いつかアカガネさんが倒してくれるのを待つしかないね!」
毛玉に向かって親指をグッと立てて見せると明らかに不満そうな顔をしている。
ギン兄の話し曰く、かなり強いらしいアカガネさんだが、いつ魔物を倒しに来るかまでは不明だそうです。
──早めに来てくれるといいね!
「ヒメル……この子、助けてあげられないの……? あの魔物は倒せないの……?」
アルカナのうるうると今にも泣き出してしまいそうな瞳が私を見つめていた。
「うぐぅ……ッ!」
確かに、アルカナのお願いならドラゴンだって倒すと言った手前、罪悪感が半端ない。
──こ、心が痛い……。お願いそんな目で見ないで~!
「諦めるっすね。オレの攻撃も、水まんじゅうとアルカナの攻撃もほとんど効いてないっすね」
「だよね~。せめて、聖魔術を使える人がいれば……。ギン兄、村の人で聖魔術が使える人はいないの?」
「村には……いないと思うっすね。そもそもこの島には教会がないっすから」
教会があれば間違いなく聖魔術を使える人がいるだろうがないものは仕方ない。
「ウッドマンさんがいてくれたらなぁ~」
「ウッドマンさんってみどりのおじさんのこと?」
「そうそう」
アルカナは何故かウッドマンさんのことをみどりのおじさんって呼ぶんだが、その呼び名は信号で旗を持ってる人を想像してしまう。
「みどりのおじさんがいれば、あの魔物を倒せるの?」
ウッドマンさんは教会の人間ではないが聖魔術を使っていた。もしかしたらウッドマンさんならあの魔物も倒せるかも知れない。
「そうだね。ウッドマンさんがいたら倒せたかもね。でも、魔物相手に果敢に戦うウッドマンさんとか想像できないよね」
そう答えるとアルカナは目を輝かせた。
「わかった! みどりのおじさん連れてくる!」
「はえっ? まっ、待って! 連れてくるって!?」
「急いで戻るからヒメルは待っててね♪」
アルカナは私が止めるまもなく夜空に飛んで行き、あっという間にアルカナが見えなくなった。
「行っちゃったっすね」
「行くなら私も連れてって欲しかったよ~……。そしたらセレナイト様に会えたのに~」
などとメソメソと泣き言を言っていてもしょうがない。アルカナがウッドマンさんを連れて来てくれたら、さっきの魔物も倒せるかもしれない。
ポジティブに考えよう!
ウッドマンさんが来ればあの魔物を倒せるかもしれない。ウッドマンさんと一緒にもしかしたらセレナイト様も来るかもしれない。ウッドマンさんが来ればもれなくキン兄が…………。
──ウッドマンさん連れてきたら、もれなくキン兄が一緒にきちゃうな……。
「あぁぁああああ! ってことは、ギン兄がこの島に来たってキン兄にバレちゃうじゃんか!!」
「終わったっすね……」
ギン兄が途方にくれた顔をしている。
「諦めないで! 今からでも遅くない。全力で逃げよう!!」
水の洞窟までとは言わない。
少なくともギン兄をこの島に上陸させたとキン兄にバレない場所であれば何処でもいい。
「無理っすね……。この島を出る手段なんてないっすね……」
愕然としているギン兄。
だけど、どんな慰めの言葉をかけていいか浮かんで来ない。
──と言うか、私の命も危ないのでは!? うわーん! 悪いのはみんなタンビュラのおっさんだから! 私は絶対悪くないから!!
「ブモ、ブモモッ、ブモブモッ!」
毛玉が大きな鼻先で私を突きながら何かを言っているが、アルカナがいないのでさっぱり何を言っているかわからない。
「何、励ましてくれてるの?」
すると否定するように体を横に振って空を見上げてまた何かを言っている。
毛玉に連れて空を見るがキラキラと輝く星と月以外何もない。
「こんな広大な宇宙の中でそんな悩みはちっぽけだとでも言いたいの? キン兄に怒られるのはちっぽけじゃないし、もしかしたらあの星のひとつにされちゃうかも……」
「ぶ……ブモッ! ブモッ!」
やっぱり違うらしく、何かを必死に訴えかけているがもはや構う元気もない。
どうするべきかと途方に暮れていると。
「その話は本当なのか獣!!」
聞き覚えのある声と共に暗闇から現れたのはタンザナイトだった。
読んで頂きありがとうございます。
久々の更新です。
みどりのおじさんの話を書いたんですが、私の周りで通じる人と通じない人がいたんですよ。
これは地域差?それとも年代差?
そもそもおじさんじゃないバージョンも……。
私の知ってるみどりのおじさんは、小学校で信号のところで旗を持ってる人のことです。
次回は森の魔物後編です。
ブックマーク、評価、感想お待ちしています。




