50話:姫琉と毛玉の頼み事
毛玉が言うには……(アルカナのニュアンス通訳だけども)。
数日前、自分の縄張りにしていた森の一番深いところに、それはそれは強い魔物が現れたそうだ。
毛玉や森の動物たちで立ち向かうも、歯がたたず縄張りを追い出されてしまったんだと。
そんな時、とあるエルフが運搬用の動物を探していると鳥に聞き、運搬のお礼に魔物を倒してもらおうとエルフの元に向かったんだと。だがエルフの元に行ったらエルフに逃げられた挙げ句、村の人間に返り討ちにあったて逃げたら岩にはまってしまったらしい。
「なるほど。それでこんなところに挟まったんっすね」
「『助けてもらってこんなことを頼むのは心苦しいが、助けてもらったのも何かの縁。どうか魔物を倒してはくれないだろうか』だって♪」
アルカナの通訳が終わると、毛玉はヘコヘコと頭を下げた。
毛玉の頼み事がなんであれ、アルカナからのお願いだからやるにはやるんだけど。今の話で気になる事まがある。
ーーとあるエルフって……タンザナイトのことだよね?
すっかり船に忘れてきていたが、たぶんオパールが邪魔だったので島に投げ捨てたんだろう。
タンザナイトが運搬用の動物を探していたと鳥に聞いたと毛玉は言っていた。
おそらく、アマゾナイトのように鳥に乗って島を脱出しようとしていたに違いない!
ぐぬぬ……一人だけ抜け駆けして脱出しようなんてけしからん!!
水の洞窟のセーブポイントを壊して、セレナイト様に褒めてもらうのはこの私だァアッ!!
「わかった。その魔物とやらは私が倒してあげる!」
「ほんと! ヒメル♪」
「もちろん! アルカナのお願いだからね! たとえドラゴンが相手だって倒して見せるわ。……ただ、毛玉にちょっとお願いがあるんだよね〜……」
なんだ? と言わんばかりに毛玉は首を傾げた。
「さっき話に出てきた“とあるエルフ”を絶対……ぜ〜ったいに島から出さないで! 島の主って言うくらいなんだから他の動物にも頼めるでしょ!? 島の動物を総動員してでも島から出るのを妨害して!」
言ったことを理解したようで毛玉は「ブモ!」と一声あげた。
フフ……これでタンザナイトに先を越されることはないだろう。
これでセレナイト様のお褒めのお言葉は私だけのもの……。
フフフ……。考えただけで思わず口元がにやけてしまう。
「本当にやるつもりっすか? なんか嫌な予感しかしないっすけど……」
「大丈夫だって! それに強い魔物が出るなら倒していったほうがギン兄も安心でしょ?」
隊長の故郷が魔物に襲われるかもって話した時、ギン兄も心配そうにしていたし。この島がギン兄の故郷であるなら心配してるに違いない。
って事で魔物退治は手伝ってもらえるに違いない。
…………と、思ったんだが何か様子がおかしい。
ギン兄がいまいち乗り気じゃない。
から笑いをしてどことなーく困った感じだ。
「ん〜……たぶんっすけど、ヒメルが倒しに行かなくてもやばい魔物だったらあの人が倒すと思うっすね……」
「あの人?」
「あ~……アカガネって……この島の猟師っすね。強さで言ったら兄貴と同じくらいか、それ以上っすね」
「キン兄以上!?」
海賊を一人でしれっと返り討ちに出来るキン兄以上とは、なるほどただ者じゃないな。
アカガネ……アカガネかぁ。聞き覚えがないから、ゲームのキャラではないと思うけど、何故だか気になるなぁ……猟師・アカガネ。
……猟師?
「あれっ? そういえばムーンさんの旦那さんが猟師って言ってたような……ってことは……」
じぃぃ~…………。
確信はあるが、黙ってただギン兄に視線を向けた。
しばらく視線をそらして黙っていたギン兄だったが、根負けしたようでため息を一つつくと。
「…………そうっすね。アカガネは、オレたちの父さんっすね……」
お、おおぅ……予想通りだったー。
で、魔物も倒せちゃうギン兄とキン兄のお父さんって、いったいどんな人なんだ?
読んで頂きありがとうございます。
アルカナのニュアンス通訳炸裂です。
でも、あくまでニュアンスなので多少違うかもしれません。ニュアンスなのでww
次回はタンザナイトとおっさんどもの話です。
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