48話:姫路と鳴き声
アルナカの名前を叫びながら森の中を駆け回った。
「アルカナーッ! どこにいるのー!!」
魔物が出ると言われた森で、こんなに叫んでいたら危ないのは重々理解している。
でも、そんなこと気にしていられない。
こうしている間にも、アルカナがひとりぼっちで泣いているかもしれない。もしかしたら、魔物に襲われそうになっているかも……!?
そう考えると、自分の事なんて二の次である。
再び、アルカナの名前を叫びながら森を進む。
「アルカナーッ!!」
「ヒメルッ!!」
すぐ後ろから聞こえた私を呼ぶ声はギン兄だった。慌てて追いかけてくれたのか、着ていたドレスがボロボロだ。
「ゼェ……ゼェ……。病み上がりなのに思ったより走るのが早いっすね……」
「……ムーンさんの家で待っててよかったのに……。アルカナは一人で探すから……」
我ながら可愛げがないことを言ったなと思った。
また、火山での口論した時のようになるかと思ったら、ギン兄はまるで気にしてないようで「そういう訳にもいかないっすね。アルカナもオレの大事な妹分っすからね!」と、どこか誇らしそうに答えた。
「…………置いてきちゃったのに?」
「そ、それはっ! 本当に……申し訳ないっすね……」
ちょっと意地悪く言ってみたら、怒られた子犬のようにしょんぼりとした。
「はは……冗談だよ。でも、本当にムーンさんの家に戻ってもいいよ。もしかしたら、アルカナが来るかもしれないし」
「いや……もうあの家には戻れないっすね」
「戻れないって……なんで?」
私が家を飛び出した後にムーンさんと何かあったのかと尋ねたら。
「正体がバレたからっすね……」
そう言ったギン兄の目がどこか物悲しげだ。
「ええっ! な、なんで……!? おかしいな……?ギン兄の変装は完璧だったハズなのに。あれか! しゃべってた声があまりに裏声だったからとか! やっぱり、外見だけ整えてもダメだったかぁ~……」
などと言っていたら、ツカツカと近付いてきたギン兄がチョップを繰り出した。
「アタッ!」
「やっぱり気づいてなかったすね。ヒメルがさっき、去り際にオレの事を"ギン兄"って呼んだからバレたっすね!」
「………………え、言ってた?」
「はっきり言ったっすね」
──全く覚えていない。呼ばないように気をつけてたけどなぁ~。
でも、アルカナがいなかった事でパニックになってたから言ったかもしれないなぁ。
そうか、私のせいだったかぁ~。
……私の…………。
…………。
「申し訳ございませんでした! お願いなんで、どうか……ど~~~うか! キン兄には私のせいでバレた事は黙ってて下さいっ!!」
自分の過ちに気がつき、崩れ落ちるようにそのまま土下座した。こんな大失態がキン兄にバレたらただじゃ済まされない。私はまだ死にたくないッ!
「オレだってこんな話、兄貴にしたくないっすね!」
「女装した姿で正体バレたとか、キン兄が聞いたら絶対大ウケしそうだよね……って痛い!」
再び額にチョップをくらった。
「そんな訳で、家でアルカナを待つ訳にもいかなくなったっすね」
正直、ギン兄がついて来てくれれば心強くはあるんだけど……せっかく、ムーンさんと再会出来たのにいいのだろうか。
「……今さらなんだけどさ、なんで正体を隠す必要があるの? バレちゃったんなら」
「ダメっすねッ!」
ギン兄が言葉を遮るように大きな声をあげた。
ビックリして思わずそのまま黙っていると、今度は小さく弱々しい声で話し出した。
「ダメなんっすね……。あの人たちの子どもはいないことにしないと……」
それだけ言うとギン兄は黙りこんでしまった。
……な、なんか空気が重たい。
「どうして?」とか「なんで?」とか、とても聞ける感じじゃない!
かといって、じゃあアルカナを探しに行こうとも切り出せない感じなんだが……。
──もういっそう、魔物が襲ってこないかなッ! 空気を変えるためにお願いしますッ!!
むちゃくちゃな事を祈った。
そんな願いが通じたのかわからないが森の奥から突然大きな鳴き声が轟いた。
「ブモォオオオオオオオオオッ!!」
鳴き声に驚いたのか鳥が一斉に羽ばたいた。
「いッ、今の鳴き声って!?」
「向こうの方から聞こえたっすね!」
そう言って向いた方向から何かが飛んでくるのが見えた。小さくて、ぼんやりと光っているあれは……!
「ヒメルぅう!!」
「アルカナ!!」
飛んできたアルカナをしっかり体でキャッチした。
「アルカナぁあ~、無事で……本当に無事でよかったよ~」
見た感じどこにも怪我はしていないようで、ひとまず安心した。
「ヒメルも大丈夫ぅ? 元気になった? もう、さむくない?」
「な、なんて優しい……天使か!」
「人工妖精だよ?」
あまりのアルカナの優しさに目から大量の涙が放出された。
「アルカナ! 無事でよかったっすね、置いてきぼりにして申し訳なかったすね……」
しょんぼりとアルカナに謝っている。
「ブモォオオオオオオオオオ!!」
再びあの鳴き声が響いた。
「なんなの、この鳴き声は!?」
「そうだった! ヒメル、あのね助けて欲しい子がいるの! いそいで来て欲しいの!」
アルカナはそう言いながら、手をぐいぐいと引っ張って鳴き声がしてくる方を指差す。
──つまり、この鳴き声がする方に助けて欲しい人がいると……そういうことですね。
こんな大きな鳴き声なんだから、きっと鳴き声の主は魔物に違いない。それも大きな魔物だろう。
この島がゲームに出てこない場所なので、どんな魔物が出てくるかわからないから対策のたてようがないのだが。
アルカナが不安げな顔でこちらをみている。
私なら絶対助けてくれるという、絶対的な信頼。
この信頼を裏切るわけにはいかない!
たとえこの先に待っているのがどんなに強い魔物でも退くわけにはいかないんだッ!
「わかった、アルカナ案内して!」
「うん♪ こっちだよ!」
アルカナは来た方の森へと進んでいくアルカナを追いかけた。
「まっ、待つっすね! オレも行くっすね!!」
読んで頂きありがとうございます。
アルカナと無事合流できました!
さてさて、鳴き声が聞こえる方に進むヒメルたちですが、いったい何が待っているのかご期待ください。
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24.5.16修正




