45話:姫路と海賊島④
村の方から土を蹴る足音が聞こえてきた。
「奇妙な船が来たと来てみたら、なんだお前さんか……」
少ししゃがれた声をした足音の主は、腰が少し曲がって杖をついて歩くおじいさんだった。
ちょっとボロい和装、頭にはもう何も残っておらず、横の方に薄らと白い髪が生えている。
なんというか、日本昔ばなしに出てきそうな感じのおじいさんだ。
海賊島と聞いていてから、住んでる人間みんな、タンビュラのおっさんやコランダムのような、厳つくて凶悪そうな人間ばかりの島かと思ったが、そうでもないようだ。
実際はどうか知らないが、目の前に現れたおじいさんは人畜無害っぽい感じがする。
「よぉ~ミカゲ。まだ、くたばってなかったようで安心したぜ」
「お前さんより長生きするつもりだよ。それよりも何でこんな島にまた来たんだ?」
「何、ちょっとばかり武器と……まあ他にも色々と物入りでよぉ。それでテメェに貸しがあるのを思い出したんだよ」
タンビュラの言葉を聞いたミカゲと呼ばれたおじいさんは、すでにシワだらけの顔をさらにシワシワにして、心底いやそうに顔をしかめた。
「はぁ〜。……全く海賊の力なんて借りるんじゃなかったよ」
「そんな風にいうもんじゃねーぜ。あの時、俺様たちが助けなかったら、今頃この島の連中はみんな死んでたかもしれないぜぇ?」
と言いながらタンビュラのおっさんがニタニタと笑っている。
──可哀想に。何か弱みを握られているんだろうか……。
思わずミカゲおじいさんに同情してそっと手を合わせてしまう。
側から見れば小さなおじいさん相手に、大男が恐喝しているようにしか見えない。それも、後ろに子分を引き連れて……。
──あ、実際に恐喝なのか。
とはいえ、海賊たちの事情も、おじいさんの事情も私には全くもって関係ない。
私は一刻も早くこの島から脱出して、水の大精霊が眠る水の洞窟に行かなくてはならない。
──そのためにも隙を見て海賊たちから離れなくっちゃ!!
「時間もたっぷりある事だし、ゆっくり話そうぜ」
タンビュラは大きな手でミカゲおじいさんの背を押し、村へと急かした。
はッ!? ミカゲおじいさんに気を取られてる、今が抜け出すチャンスじゃないか!!
島の周りは変な海流のせいで一方通行だって言ってたけど、本当に出れない島にわざわざ来るわけない。絶対、秘密にしてるだけで脱出方法があるハズ。とりあえず、島の周りがどうなってるか確認したいな。
横でげんなりとしているギン兄の袖を引っ張った。
「ん、どうしたっすね?」
「しーっ!」
口元に人差し指をあて、しゃべらないように促した。
ちらっと海賊たちの方に目を向けるも誰もこちらを気にしていないようだ。
安心してギン兄に向き直り、しゃべらず来た方とも村の方とも違う森を『向こうに行こう』的な感じで指差した。
こちらの意図がギン兄にうまく伝わったようで、指で丸を作って返事が返ってきた。
海賊たちに気付かれないように森へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
さすがは水の国。森に入ってしばらくすると流れの緩やかな澄んだ川が流れている。
「ヒャッ!?」
川を越えようと石を踏んだら、苔のぬめりに足を取られて、"バシャーンッ!"と盛大な水音をたてて川へと落ちた。
たいして深くなかったので溺れはしないが、全身ずぶ濡れになってしまった。
「ヒメル! 大丈夫!?」
「大丈夫……。あー、ごめんね。アルカナまでびしょびしょになっちゃったね」
鞄に隠れていたアルカナは私と同じ様にびしょびしょになっていた。
「二人とも大丈夫っすか!? 川の石は苔とかで滑りやすいっすから気をつけないと……」
ギン兄が手を差し伸べてくれた。
「滑る前に教えて欲しかった……ッくしゅん!」
──さ、寒い!
さすがに全身ずぶ濡れで体がブルブルと震える。
アルカナがあわてて風で乾かしてくれるが、すっかり体が冷えてしまった。
川を渡り、島の周りを一望出来そうなところを探していたのだが。
「ぅう……さ、寒い……ッしゅん!」
「さむいの? さむいの? どうしよう……この辺り燃やしてみる?」
「ん~ん、大丈夫大丈夫。こんな木とか葉っぱがいっぱいのところで燃やしたら火事になっちゃうから……くしゅんッ!」
アルカナの提案をやんわりと断った。
なんだか、背中が……体がゾクゾクする。
着ていたコートにくるまるも寒気は一向に治まらなかった。
「だ、ダメだ……」
歩くのも辛くなって思わずその場にしゃがみこんでしまった。
「辛いならどこかで休む……って、ヒメル顔が真っ赤っすね!?」
おでこにギン兄の手が触れる。
「……手、冷たくて……きもちい」
「相当、熱が出てるっすね……。どこか休ませられる場所は…………」
──あぁ……熱があるのか。通りで寒気がする訳だわ。風邪なんてひいたのいつ以来だろう? ダメだ……なんだか頭がぼーっとしてきた。
しゃがんでいることも辛くなって、そのまま近くにいたギン兄にもたれかかった。
「ーーっ~! もう考えてる場合じゃないっすね! ヒメル待ってるっすね! すぐに家に運ぶっすね!」
ギン兄がそう言うと、一瞬体が浮いた様に感じた。
顔のすぐ横にはギン兄の顔があり自分が抱き抱えられてるとわかった。
「暖かい……」
その心地よい暖かさの中でそっと目を閉じた。
読んでいただきありがとうございます。
新キャラ登場です。
ミカゲおじいさんです。
よくよく自分の小説読み返すとタンビュラ含めておじいさん多い。
古着屋のおじいさん、ジルコンじいさん、ミカゲおじいさん……。
そろそろジジコレができそうです。
ブックマーク、評価、感想、お待ちしています。
24.5.15修正




