44話:姫路と海賊島③上陸編
野菜が実った畑、たわわに実った果物、頭を垂れる稲穂……。
点々と見える家は、日本昔ばなしにでも出てくるようなかやぶき屋根の家。
海賊島とは名ばかりで島の中は平和そのものだった。
「崖の穴から入った時は未開の森で不安だったけど、中は案外普通だね……って大丈夫……?」
横にいたギン兄がげんなりとしていた。
「……全然、大丈夫じゃないっすね……」
「それは具合が? それとも……」
ギン兄の格好を見た。
いつもの銀色の髪は黒いミディアムヘアーに。
シャツにパンツ姿の服は、くるぶしまであるヒラヒラとしたワンピースに。
八重歯の似合う好青年の顔には薄らとメイクをしている。
今のギン兄は、どっからどう見ても綺麗系の女の人になっていた。
「大丈夫だって! その姿じゃ誰も男だなんて気づかないから、バレないバレない」
「……バレたら色んな意味で“終わる”っすね」
そう言うとギン兄は深いため息をついた。
なんでギン兄がこんな格好をしてるかって?
それは……。
◇◆◇◆◇
「絶対にオレは降りないっすね!」
流されるままに島へと着いた幽霊船の上でギン兄はテコでも動かないと言わんばかりに座り込んだ。
「あら、困りましたわね。どうしましょう」
オパールの言葉にビクッと体が思わず硬直した。
何故って? そりゃあ、さっきギン兄と同じ様に降りる事を断固拒否して水の洞窟に行きたいと駄々をこねていたら、オパールが目を爛々と輝かせて。
「どうしても行きたいのであれば、海底からなら島から抜けられますけど……どうします?」
『どうします?』って、つまりは連れてく代わりに死にませんかってことですよね?
「え~っと、遠慮します」
「あら残念ですわ」
とにっこり微笑んでいた。
ーーそんな事があったから、ギン兄がこのままじゃ一緒に海底に連れていかれてしまうんじゃないかと危惧しているわけで!
さすがにオパールも本気じゃないと思うよ?
でも、さっき口元は笑ってたけど、目だけは本気だった気もするんだよね〜。
初めて会った時みたいに殺そうとはしてこないけど『良ければ仲間になってくださいね』的な感じは常にあるから、完全に油断は出来ないんだよね……。
いやっ! オパールがそんな事しないって信じてますけどねッ!!
「ギン兄。ここにいてもどうにもならないっぽいし。とりあえず、島に入って一緒に脱出出来る方法を探さない?」
「島には……絶対に戻らないって兄貴とも約束したんっすね。バレたら兄貴に絶対に怒られるし……、島の連中にオレだってバレたら……」
それ以上は何も言わなかったがことの重大さは理解した。
島に入ったとバレたら……キン兄が怒る……と。
ーーそれは! かなり!! マズイッ!!!!
ギン兄がこんな状況に追い込まれてる原因は、99%海賊たちのせいだとしても、残り1%は私が巻き込んでしまったという可能性がある。
つまり私もキン兄に怒られる可能性が十分にあるということだ!
あの日の砂浜での出来事を……怒ったキン兄の笑顔を忘れることなどできようか?
断じて、否であるッ!
それにあの時は“アレ”で済んだが、もしかしたらもっと恐ろしいことになりかねない。
こんな時に限って思い出すのは返り血まみれのキン兄の姿だったりするわけで……。
なッ、なんとかしなければ!!
とは言ってもどうすればいいんだ!?
幽霊船は私たちが降りたらまた海底に戻るようなので置いてはいけないし。
この海流のせいでボートじゃ脱出できないし。
かといって島に一緒に入って島の人たちにバレたらいけないし。
……アレ? どうにもできなくない?
こういうのなんていうんだっけ。……八方塞がり?
っていうよりも……絶対絶命?
「ハハ……」と乾いた笑いしか出てこない。
「いつ出発できるかわかりませんが、船にいてくださっても構いませんわ」
「え! 本当に!!」
天の助けかと思ったが。
「ええ、ヒメルに似合いそうな衣装をたくさん用意しましたの! だからお兄様の用事が済むまで私の部屋で色々来てみてくださいな」
出来たらやりたくない!
でも他にギン兄を島に行かせない方法を考えられないし……。
……出来たらギン兄が代わりに来てくれないかな? なーんて…………ん?
「そっ、それだ!!」
◆◇◆◇◆◇
そんな訳で女の人に変装して上陸した訳である。
「めちゃめちゃ似合ってるよから自信持って!!」
「全然嬉しくないっすね……」
励ましたはずだが、ギン兄はより一層深いため息をついた。
読んでいただきありがとうございます。
上陸編とは名ばかりの女装回になってしまいました。
あと、更新遅かった割にいつもより短いです。
グダグダするし、削ってしまおうかと思ったんですが……書いちゃった♪
次回は新キャラのミカゲ他登場です。
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