43話:姫琉と海賊島②
小さく島陰が見えたと思ったら、あれよあれよという間に船は近づいて行く。
「……なんか船のスピード速くない?」
火の国からたった一日で水の国に着いた事もそうだが、明らかに前に乗った時よりも遥かに速い。
チラッとオパールの方に視線を向けた。
オパールはにっこりと微笑みながら「最近とても調子がいいんですの」とだけ言った。
本当にこの船はなんでもありだよなぁ~……。
深く考えることを止めた。
近づくにつれて島の形がハッキリとしてきた。島の周りは高い崖に覆われていて、パッと見はただの岩山のようである。
「随分と早く着けたな」
「お兄様!」
オパールが駆け寄った(正確には浮き寄っただが)先にはタンビュラが酒瓶片手に下から上がって来たところだった。
「わたくし頑張りましたわ! でも、お兄様あの島の周りなんですけど」
「あぁ、わかってる。何も心配はいらねぇ、このまま船を島に近付けてくれ」
「わかりましたわ!」
二人の会話に不安しかない。
なんだ、島の周りに何があるって言うんだ!
「何かに捕まってた方がいいぜ」
コランダムがそう言った次の瞬間、船が大きく揺れた。「うわっ!?」と言うなんとも情けない声を上げながら、甲板に思いっきりお尻を打ち付けた。
「お尻が……。何なの突然!」
「海流に乗ったんだよ」
「海流?」
「船の周りに流れの速い海流があるんっすね……」
何故か答えたのはギン兄だった。
「なんだ。テメェ知ってんのか」
「……水の国であの島は有名っすからね。……いいんっすか。この海流は一方通行っすね。あの島から出れなくなるっすね」
「んなこと、俺が知ったことじゃねーよ。船長が行くって行ったら行くだけだよ」
一方通行?島から……出られなくなる!?
「じょっ、冗談じゃないッ! ちょっと待ってオパール! せめて私を降ろしてぇえ!」
精霊暴走が起こって、確実にゲームは始まってしまったのに島に閉じ込められる訳にはいかない。
なにより、水の国のセーブポイントも壊してセレナイト様から誉めてもらう私の計画が狂ってしまうじゃないか!
「あら、もう海流に乗ってしまいましたから無理ですわ」
オワタ……。
「セレナイト様が遠退くんですが!?」
悲痛な叫びは波の音に書き消され、私は膝からがくりと崩れ落ちた。
◇◆◇◆◇◆
【火の国・王宮】
タンザナイト他数名が拐われて数日が過ぎた。
風の精霊の力を借りての捜索。
アマゾナイトによる動物たちを使った人海戦術ならぬ、獣海戦術。
火の国の王女による、火の国の威信をかけた捜査網。
使える手段を惜しみ無く使った。
「……すでに海賊たちはあの幽霊船で海に出た所まではわかった。が、何処に向かったかは検討がつかん」
この王宮で一番広い広間に六星夜、火の国の王女、商人を含む人間数名を呼び出して告げた。
「検討がつかんって……神子様は精霊を使って、各地を見れるって言ってませんでしたか?」
商人の質問に、退屈そうにしていたオルゴナイトが笑いだした。
怪訝そうに眉をしかめる商人に、オルゴナイトは自慢気に話し始めた。
「商人はモノを知らないなあ。海には精霊は少ないから海に出ちゃったら、いくら神子様でもわからないんだよね~」
「神子様に対して失礼ですよ!」
「だってホントの事じゃーん」
モアッサナイトが諌めるが、オルゴナイトにはまるで響いていないようだ。
確かにオルゴナイトの言うことは事実だ。
冥界の主である闇の精霊の加護が強い海では、地水火風の精霊は相性が悪いようで殆んど存在しない。
大陸を渡る風の精霊の目を借りても、広い闇の精霊の領域で、ましてや闇の象徴である幽霊船を探すなど、
黒い絵の具の中から黒い砂を探す様な話だ。
「神子様が気にされる必要はありません。タンザナイト・シャルウィはあれでも六星夜。今頃は人間どもを蹴散らして先に水の洞窟に向かっているやもしれません」
「確かに、その可能性はある……か……?」
自分で承諾しつつも一抹の不安を覚える。
不安の原因はわかっている。
あの占い師だ。
いかんせん、やることがさっぱり読めない。
双子たちに聞いた話では私と会う前から私を救いたいと海賊から船を奪い、旅の途中で幽霊船で幽霊と戦い友達になったと言う話だった。
何度説明されても全く理解が出来なかった。
とにかく占い師が絡むと予想外のことが起こると言う事だけは理解した。
現に、占い師がいた土の国では魔物化が起きていない。これも、もしかしたら予想外のことなのだろう。
……タンザナイトの誘拐も予想外のことだが。
「そのエルフが海賊を蹴散らせたかはわかりやせんが、水の国には向かったと思いますぜ」
「何故わかる」
信じがたいが、もしや双子ならではの何かを感じ取ったのかと思い双子の兄の方に聞き返した。すると、なんでもないかのようにこう言った。
「そりゃ、ヒメル嬢が"何をしてでも"水の国のセーブポイントを壊しに行くはずですぜ。神子様に誉められたい一心で」
反論する言葉も浮かばない。
何故だか、容易に想像出来てしまった。
「それより不安なのは、ギンが一緒にいるって事ですぜ……」
「不安?あの占い師より不安なものなどないだろう」
「それがあるんですぜ。何せ、オレも弟も故郷じゃお尋ね者……ですから」
兄の方の衝撃的告白に、これ以上面倒なことを増やさないで欲しいとせつに思った。
読んで頂きありがとうございます。
気がつけば11月が終わりです。
今月、この話入れて4回しか上げられなかった…。来月は頑張ります!
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