42話:姫琉と海賊島①
と、ここまでの出来事を話し終わると、タンザナイトが見下したかのように一笑した。
「やはり、俺には全く持って関係ないじゃないか。いいからこの手枷を外せ!」
「ほう……? 命の恩人に向かってそんな事言うんだ」
「命の恩人? はっ、笑わせるな。こちらは貴様のいざこざに巻き込まれただけだぞ。それぐらいして当然だろ」
「知らないよ。勝手に捕まっただけの癖に」
少なくともセリサイトに気がついた時には、タンザナイトは既に地面に倒れていた。
全く持って預かり知らぬ事である。
が、その返答がお気にめさなかったようで、タンザナイトは激怒した。顔を真っ赤にして怒りにまかせて怒鳴り出した。
「そんな訳ないだろォ! 海賊は貴様を狙ってたんだ! 俺は“貴様を殺そう”と近づいたところをあの海賊に捕まったんだ!! だからッ、全て貴様のせいだぁああああ!!」
あまりの発言に船は一瞬にして静かになった。
甲板でせっせと働いていた骸骨たちでさえ、思わず働く手を止めている。
『しまった』と言わんばかりの顔をしたがもう遅い。タンザナイトの自白は船に響き渡ってしまったのだから。
「…………ヒメルを……殺そうと、ですって?」
鈴が転がるような声が聞こえるとゾクっと寒気がした。タンザナイトの影がゆっくり歪むと影からはオパールが現れた。
……周りに“あの”影を漂わせて。
影がタンザナイトを一瞬で捕らえると、縛り上げ、そのまま船縁に逆さで吊るしてしまった。
――なんでセレナイト様の所にいたタンザナイトが、庭園にいたか不思議だったんだけど、私を殺そうと潜んでいた訳だ。そこを運悪くセリサイトに見つかって、毒で動けなくされてあのざまだったということか。
「自業自得っすね」
「まったくだね」
下の方から罵声が聞こえてくるが、骸骨たちは何もなかったかのように再び働き始めた。
「ところでこの船は何処にむかってるんすかね?」
「ハッ、そういえば……?」
ギン兄が目覚めるまで丸一日、船は休まず動いているが、何処に進んでいるかなんて気にしていなかった。
周りを見ても幽霊船の周りは相変わらず濃い霧が立ち込めていて、何処だかわからないし。
……見てもわからないだろうけど。
わからなければ動かしてる本人に聞けばいいだけの話だ。
「オパール、この船って何処に向かって走ってるの?」
「この船は水の国を目指してますわ」
行き先を聞いて「ちょうどいいじゃん!」と喜んだ私とは打って変わって、ギン兄が酷く動揺していた。
そういえば、前にキン兄が水の国に……故郷には行かないような事言ってたっけ。
「ギン兄たちって水の国には行かないって言ってたよね? その……大丈夫?」
「場所に……よるっすね。周りの交易やってる外島ならまだ大丈夫っすけど、内島は……」
水の国ミズハは756の島々からなる国だ。
その中心にある本島とその周辺にある人が住む島を内島。それより外側にある、無人の島や交易をやる為などの商業用を外島と言う。
ちなみに、私が行きたい水の洞窟はちょうど中間地点くらいの海域にある島だったりする。
……タンビュラのおっさんが何処に行く気か知らないけど、内島に行く気なら途中で降ろしてくれないかな〜。とりあえず、聞いてみるだけ聞いてみようかな?
「ちなみにオパール、私もちょうど水の国に用があるんだけど。ちょうど内島と外島の間あたりで……」とオパールに説明しようとした時だった。
「なんだ。だったら俺たちの目的地と同じじゃねーか」
甲板からコランダムが上がってきたのだ。
「げ……。下で宴会してたハズじゃ?」
幽霊船がオパールの魔力と骸骨たちだけで動かせるとわかるとすぐに宴会を始めていた。
出来たら永遠にそうしていただきたかったが……。
「あんだけ騒いでりゃあ流石に様子ぐらい見にくるだろ」
クソ、タンザナイトのやつめ……。
思わず右手を強く握りしめた。
「……で、結局どこに向かってんの」
「海賊島だよ」
「…………は?」
ちょっとありえない名前を言われたような……。いやいや気のせいでしょ? 疲れてて聞き間違えたのかもしれない。
「ごめん。もう一回言って」
「だから海賊島だよ。ミカゲのじじいがいる」
あー、聞き間違いじゃなかったか〜。
ゲームにそんな名前の島はなかったけどなぁ〜……。
とはいえ水の国って設定上、島がいっぱいあるけど実際に上陸できる島って少ないんだよね。全部の島に上陸できたらシステム作る方も大変だろうし。ってことは、上陸できない島のどこかにあったのかな?
どうでもいいが、そんな物騒な名前の島、絶対に行きたくないけどね!!
ってかミカゲって誰だよ!!
ジジイって事はタンビュラのおっさんの知り合いとかな? あのおっさんの知り合いとか、どうせロクなやつじゃないって。絶対、行きたくなーい。
「ミカゲ……」
コランダムが言った名前に何故かギン兄が反応した。
「ギン兄の知ってる人?」
「まさか……。いや……多分違うっすね。ミカゲって名前は水の国じゃよくある名前っすから……」
そう言ってはいるが、明らかにギン兄の表情が暗い。
――よし! ここは私の頑張りどころだ。
ギン兄をこの船に乗せてしまった責任は私にある。ここは、その知り合いかもしれない人がいる海賊島なんて行かないで、ギン兄と一緒に水の洞窟に行こうではないかッ!!
「海賊島でも山賊島でもいいけど、私たちはそんな物騒そうな名前の島行かないからね! 私は水の精霊が眠る洞窟に用があるの!」
キッパリと言ってやった。
今はアルカナもいるし、オパールが側にいるのでコランダムが襲いかかってきても対処できる自信があるのでちょっぴり強気だったりする。
さらに調子に乗って言葉を続けた。
「海賊の皆さんが何処に行こう勝手にすればいいけど、私たちを巻き込まないでよね! 私たちは先に降ろさせてもらうんだから!」
「ほう、船を降りるって? だったらあのエルフを好きにしていいって事だよなあ?」
「さっきの話聞こえてたでしょ? ご自由にどうぞ。でも、うっかりこの船で死んじゃったら幽霊船の仲間になっちゃうから気を付けてね」
と答えると尽かさず
「あんな方、わたくしの船にはいりませんわ」とオパールが冷たく答えた。
オパールが嫌がる事をしたら、タンビュラのおっさんに怒られるだろうから、これでタンザナイトの命は守られるだろう。
「そんな訳で、途中で下船したいんだけど……ダメ、かな?」
オパールを真っ直ぐ見つめ、両手をぎゅっと握った。
ギン兄のためにも、どうしても海賊島には行けないんだよ~。届いてこの想い!
「あの、その、どうしましょう」
オロオロと困った様子のオパールが視線を下げた。
「大丈夫! ちゃんとオパールの所に戻ってくるし、不安ならタンザナイトを預かっててくれれば」
オパールに預ければコランダムもタンザナイトに手出しはできないでしょ。
なんてナイスなアイディアなんだ! 私ってば、今日はなんか冴えてるぞ!
あとはオパールが『うん』と答えてくれれば。
「ごめんなさい、もう着いてしまうの」
「えっ?」
船の進行方向に目を向けると、霧の向こうに島影が見えた。
「やっぱり……あの島は…………」
ギン兄が力なく呟いた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
タンザナイトが庭園にいた理由をお届け出来て良かったです。セレナイト様にはいつも自分だけを頼って欲しいタンザナイトくんです。ちょっぴりヤンデレ入ってます。
最近、ブックマークが増えて大変嬉しい限りです。
今月あまり更新できてませんが、ぐだぐだイベント走りきって。頑張って執筆したいと思います。
ブックマーク、評価、感想お待ちしています。
21.12.13 加筆・修正




