41話:姫琉と海賊②
よし、うまく騙せた!
無惨に置いていかれたタンザナイトは引きずられた時に頭を打ったのか、顔面擦り傷だらけで見事に気絶していた。
うわ……痛そう……。けどまぁ、バラされずに生きてるんだからそれに比べたら大したことないよね! たぶん!
それはさておき……。
チラリと横目で自分の隣に目を向けた。
……隣からすごい圧を感じるんだが。
さっきから横にいるコランダムが、何か言いたげにこっちを無言で睨んでいるのだ。
さすがに無視できずに思わず声をかけた。
「……あの、なんか用?」
コランダムはしかめた顔をしながら何かをずいっと差し出した。
「…………ほらよ……」
コランダムが渡してきたのはアルカナが入った籠だった。鍵は開けられていて中にいたアルカナが飛び出してきた。
「ヒメルぅ~怖かったよ~!」
「よしよし、怖かったよね~。怪我はない?」
「大丈夫♪」と言う元気な返事が返ってきた。
なーんだ! アルカナを返してくれようとしてたのか。まぁ、アルカナ誘拐して閉じ込めたのもアイツらだからお礼なんて言わないけどね!
「さて、アルカナも無事に帰ってきた事だし、あとはタンザナイトとギン兄を連れてどうやって王宮に帰るか……考える、だけで…………」
……何故だろう、まだコランダムがこっちを無言で睨んでいるんだが……。
あれか、やっぱりお礼を言っとくべきなのか……。もし本当にお礼待ちだったら、とんだマッチポンプ野郎だと思うんだが。でも、とりあえず言っとくか……。
「あ、ありがとう?」
「…………あぁ」
反応薄ッ!!
ってかまだ睨んでくるんですがっ!?
言いたいことがあるならハッキリと言ってくれ!
タンザナイトを連れてくのがまずいのか!? でもさっき運ばないって言ってたじゃん!
用がないなら早く船に行ってくれっ! こっちはコランダムがいると、いつぞやの仕返しにバッサリ、サックリやられるんじゃないかと不安なんだよォオオ!!
「……あの、全員船に行ったけど行かなくていいの……?」
と聞いてはいるが内心では『用がないならとっとと行ってくれ』である。
「お前は、来ねぇのか?」
「来るって、海賊船に? 行かないけど」
このおっさんは一体何を言っているんだろうか。
私が海賊に付いていく理由もメリットも何もない。むしろ、デメリットしか見当たらない。そもそも、なんで来ると思っているのだろうか?
「どうやら船長はお前に恩義を感じてるらしい。連れてくならお前に許可を取れだとよ」
「は、はぁ、そうですか? 絶対行かないけど」
転移魔方陣という移動手段も手にいれたので、幽霊船を海賊に捕られてもあまり問題ない。それに、火の国の港にいけば普通の船だってあるだろう。何も好き好んで海賊船に乗ったわけでもなければ、幽霊船で移動してた訳でもない。単に船がなかっただけの話だ。
「借金まみれだって話じゃねーか。俺たちに付いて来りゃあ借金だって踏み倒せるし、金だっていくらだってくれてやるよ」
「いらない、いらない。欲しくない」
たかがお金の為に、人権も何もない海賊になる気はないし、借金とかあまり気にしてないので。
なにより、お金よりセレナイト様といられる方が私は断然幸せだからねッ!
私の答えが気に食わないのか、眉間に深いシワを寄せながら軽く舌打ちをして「力ずくなら楽なのによ……」と何か不穏な事を呟いた。
しかし、タンビュラのおっさんの言葉をしっかり守っているようで、それ以上何も言っては来ないし何かしてくる様子もない。
――逃げるなら今しかない!
どこまで行けるかわからないが、とりあえずアルカナの精霊術で運べるとこまで運んで、後は川でも昇って首都を目指そう!
あってないような計画だが、ともかく海賊たちから距離を取りたかった。
「じゃあそういう事で! もう二度と会うことはないと思うのけどサヨナラ!」
立ち去ろうとしたその時だった。
「待ちな、嬢ちゃん」
しゃがれた声が呼び止めた。
「……なんでしょうか?」
嫌な予感しかしない。
おずおずと振り返ると船の上からタンビュラのおっさんがニヤニヤとこちらを笑いながら見ていた。
「嬢ちゃんが連れて行こうとしてるそのエルフ。そりゃあセリのヤツが取ってきた獲物だろ? それをだまって持ってくたぁ感心しねーなぁ」
「……て、てっきりいらないんだと」
「いるか、いらないか、と言われりゃいらねーが」
「だったら」
「とはいえ海賊のもんを奪おうとは、いくら恩があるとはいえタダじゃすまねぇよなぁ? どう落とし前つけてくれんだぁ?」
タンビュラがニヤニヤと笑うのにつられて、モジャモジャの髭が愉快そうに動く。
――いったい何を要求されるのだろうか。
お金なんて全然ないし……もしや代わりに私が売られる!? だったらタンザナイトを見捨てて、ギン兄とアルカナだけ連れて逃げよう。
グッバイタンザナイト! アンタのかわりに私がセレナイト様を守ってみせるから安心して成仏してね!
「もうお兄様ったら! そんな風に私の大切なお友だちに意地悪な言い方しないでくださいな」
ポカポカとタンビュラのおっさんを叩くオパールの姿。そんなオパールの姿を嬉しそうに見つめるタンビュラのおっさんの姿を見て気づいてしまった。シスコンのタンビュラのおっさんが"何"を要求するつもりか。
コランダムには、私の許可を取れと言っておきながら!!
「わたくしはただ、行くならヒメルと一緒がいいと申し上げただけですわ」
「ってな訳だ。そのエルフが欲しいってんなら、……なぁ?」
予想は大的中だ。
可愛い妹のお願いだから船に乗れって事だ。
「い、いや~……だったらそのエルフいらないかなぁ~なんて」
逃げようと後ずさると、尽かさずコランダムが肩をがっちり掴んだ。
さらに耳元で
「別にいいんだぜ逃げても。その場合、あのエルフは魚の餌になるだろうがな」
と、楽しそうに話したコランダムが冗談を言っているようには見えなかった。
「……乗らせて、いただきます……」
またセレナイト様から遠くという事実に目から涙が止まらなかった。
読んで頂きありがとうございます。
推しに一歩近づけば、三歩……いや十歩くらい後ろに下げられる主人公です。
以前、感想でタイトルの割に推しが出てこないとご指摘いただいたんですが、それでも推しから遠のくのです。申し訳ない…。
タイトルを変えるなら『ゲームの世界に転生したので推しのために生きたいのに、一歩近づけば十歩下げられます。』とか?(笑)
さて海賊に攫われた姫琉が行き着く先は……次回をお楽しみに!
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