35話:姫路とタンザナイト②
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さすが王宮の庭園広かった。
ゲームの中では火の国アルヴァのフィールドは砂漠で植物が少ない場所だ。
植物はあってもサボテンなどの熱帯植物が主だが、ここの庭園は違っていた。
もちろんサボテンのような多肉植物などの熱帯植物も生えているが、それに混じって普通の花や木も生えていて緑豊かな庭園だった。
「ギン殿はこの先の噴水にいると思うのである」
指差された方向に足を進めつつも、あまりに異様な庭園をキョロキョロと見てしまう。
「ん〜やっぱりこの国っぽくない植物多くない? これとか白樺っぽいけど、なんでこんなところで育つのよ」
すると待ってましたと言わんばかりに語りだす。
「良い所に気がついたのである! この国は火の精霊の加護が強いので、どうしても普通の植物が育ちにくいのである!」
何気なく口からこぼれた疑問にウッドマンさんが嬉々として語る。
「しかし、土の精霊石による大地の活性化。さらに水の精霊石で常に水が保たれた状態になるようにするなど他にも魔方陣を構築する事で一時は火の国での植物の生育は不可能と……」
──いらんスイッチをいれてしまった。
が、後悔しても遅い。もうこうなったら本人が満足するまで誰にも止められないだろう。
早々に諦めた私は適当に相づちを打ちながら足早に庭園を進んだ。
噴水にたどり着くとそこにはポツンと水面を眺めて立つギン兄の姿があった。
声をかけようと近づくと、先に気がついたギン兄がこちらを見て一瞬目を丸くして、眉を少しだけ下げて困ったように笑った。
「ダメっすね。いくら王宮の中でもこんな遅くに女の子一人で外に出ちゃ危ないっすね」
「一人じゃないよ、ウッドマンさんも……あ、あれっ! いない!?」
先程まで上機嫌で語ってたはずのウッドマンさんの姿がどこにもない。
適当に相槌打って話なんて聞いてもいなかったから、一体いつからいなくなってたのやら。
──本当に頼りにならない護衛だったな〜。
「わーい 綺麗なお水だぁ〜♪」
噴水めがけてアルカナが勢い良く飛び込んだ。
「気持ちいいよ、ヒメルも入ろうよ!」
「んー……噴水には入れないかな」
実際には噴水の大きさは入るのには申し分ない大きさだった。
昼間のあの暑さなら迷わず飛び込んだが、今は肌寒く感じるのでせっかくのお誘いだがお断りした。
……というか、アルカナは寒くないんだろうか?
そういえば火山でもアルカナ平気そうだったし、精霊って暑さ寒さを感じないのかな?
そう思って念のため聞いてみる。
「アルカナ寒くない?」
「寒くないよ~♪」
噴水の中をアルカナは楽しそうに泳いでいく。
「ところで、ヒメルはどうして噴水に来たんっすね。何かオレに用っすか?」
おっと一番大事な目的を忘れるとこだった。ギン兄に今日の事謝らなきゃ!!
うん。明日には水の国に出ちゃうし……。
謝らなきゃと思ってもなかなか言葉が出なかった。
…………謝るのってすごく心がしんどい。
正直このまま、謝らずうやむやにしてしまった方が楽な気持ちもする。
「………………はッ!」
自分の中に浮かんだ考えを振り払う様に、勢い良く自分の頬を両手で叩いた。
「気合い注入ッ!」
どうせ、謝らなくてもしんどいんだ! だったら潔く謝ってしまうべきだ!
自分に言い聞かせてギン兄の方に向き直った。
「今日の事……本当にごめんなさいっ!! 心配してくれたのに、酷いこと言って……」
「その事っすか、もういいっすね」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
本当の事を言えばギン兄が許してくれないとは思ってなかったけど、自分の中で胸につかえていたものが取れたようにスッキリした。
晴れやかな気分で明日旅立つ事を話そうとしたら、ギン兄はばつの悪そうな顔で
「…………それに……オレもヒメルに謝らなくちゃいけないことがあるんっすね…………」
と言うのだ……。
【想定外の事態に対応できません】
と、言わんばかりに脳内エラーが起きた。
「えっ! あ、えっ!? きょっ、今日の事ならギン兄悪くないし」
「いや……今日の事だけじゃ」
全くもって心当たりがない!
私が謝る案件なら山ほどありそうだが。
冗談かとも思ったがギン兄がいつになく真剣な表情でいたのですぐに違うとわかった。
「……ずっと、ヒメルの事…………」
「……ずっと!?」
何かギン兄が継続的にしでかした事なんてさらに想像できない。
お人好しで過保護なギン兄がそんな真剣な顔で私に謝らなきゃならないことって…………。
まっ、まさか!
ギン兄がセレナイト様を好きになっちゃったとかッ!?
そ、そそんな事になったらどうしようッ……。
別に同担拒否とかではないけどもッ!
だってこの場合は恋愛的に好きになっちゃったって事でしょっ!
いや……ギン兄が悪い人なんて思わないし、むしろいい人だけども、セレナイト様の伴侶としてふさわしいかと言われると……う~ん。
ここは素直に応援すべき……?
それとも全力で阻止すべき?
ギン兄は何故か言うのをすこしだけ躊躇しているようだったが、私の方に向き直った。
私も何を言われても大丈夫なように自分が謝った時よりも気合いを入れた。
「よしっ! 来るなら来いっ!!」
気合いが入りすぎて思わず口から気合いの入った言葉が出てしまったその時だった。
噴水の近くの茂みから"ザザッ""ドサッ……"っと何かが倒れた音がした。
「ど……どうしてバレちゃったんですかね」
オドオドとした聞き覚えのある声。暗い茂みを見るとそこに立っていたのはセリサイトと何故かセリサイトを足元にはタンザナイトが倒れていた。
読んでいただきありがとうございます。
更新が遅くなり申し訳ありません。
言い訳はしません、FG○しながら絵を描いてました。Twitterに上げたので気になったら見てください(爆)
そういえばこの小説書いて一年が経とうとしてます。初期から読んで下さった方、最近読んだ方色んな方々のお陰でなんだかんだ書け続けています。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
ブックマーク、評価、感想お待ちしてます。
22/2/21 一部誤字訂正




