34話:姫琉とタンザナイト①
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「──って訳で、六星夜のメンバーと水の国に行くことになりました! 今までお世話になりました!!」
そこには大きめのベッドにだらしなく転がってる隊長とソファに腰かけたキン兄、そしてウッドマンさんがいた。
ちなみに、この部屋はインカローズが『街を守ってくれた礼』として王宮に部屋を用意してくれたものだ。
私も隊長たちとは別に部屋を用意されている。
明日の朝には街をたつので、別れる前にお世話になった皆にお礼を言っておこうと尋ねた次第だった。
「ああ、そりゃ良かったな……」
「隊長、ずっとここにいたんですか?」
「ずっとじゃねーよ。さっき商業ギルドから戻って来たところだよ……」
声にいつもの気迫がない。まるで疲れ切った中年サラリーマンのようだった。
話を聞くとアマゾナイトから逃げきった後、ちゃっかり持ってきた精霊石を市場に売りに行ったんだと。そこで商業ギルドの人達にキン兄とギン兄にかけられた海賊の疑いについてついさっきまで取り調べを受けたらしい。
「まぁでも、これでやっとお前とも別れられると思うと清々するなぁ〜!」
その表情は、実に晴れ晴れしている。
……どんだけ私の事嫌ってるんだろうか。
ま、心当たりは山ほどあるけど。
私としては、親切にしてもらったし何だかんだでここまで一緒に旅してきた訳でゲームをやっていた頃よりは隊長の事が好きになった。あ、でもセレナイト様やインカローズに比べれば全然だけども。
それにしても色々あったなぁ……なんて今までの事を思い出してしまう。
馬車で襲われてる所を助けたり、海賊まみれの港で船を奪ったり、幽霊船で本物の幽霊相手に戦ったり、エルフの国に行ったり、そういえばカソッタ村で食べたアンナさんのご飯は美味しかったな。
……そういえばあの時の宿泊費って結局いくらかかったんだろう……。
ハッ!? というか、隊長たちとここでお別れって事は私の借金もここでお別れなのでは!?
そんな無粋な事を考えていると見透かした様にキン兄が……。
「残りの借金は、商業ギルド経由で支払えるように手続きしてるんで、心配しなくて大丈夫ですぜ」
世の中そんなに甘くなかった……。キン兄の笑顔が恐ろしい。
──ところで私の借金って残りはおいくらで?
「あれっ、そういえばギン兄は?」
やや広い部屋の中をぐるっと見渡すが何処にも姿が見当たらない。
ギン兄には、もう一度ちゃんと謝りたかったんだけどな、お礼も言いたかったし。
「ギン殿なら先程、庭の方に出て行ったのである」
「庭?」
庭、と言っても王宮にある庭は大きな公園ほどの広さがある。
既に日の暮れた庭は僅かに明かりが灯ってはいるものの薄暗く、さらに言えば夜になって外は肌寒くとても散策するような雰囲気ではない。
「なんでこんな時間に庭になんて」
「大きめの噴水があるようで水の精霊をそこに連れてったみたいである」
「なるほど」
──やっぱり水の精霊だから水の近くに行きたいってことなのかな? こんなに暗くて肌寒いのにギン兄は偉いな〜。と言うか水まんじゅうと本当に仲良しだよね。
「ヒメルぅ〜、アタシもお水あるとこ行きたーい♪」
ピンっと手をあげて目を輝かせるアルカナに見つめられたらノーと言える訳がない。
「ん〜……ギン兄にも挨拶しておきたいし、アルカナが行きたいならちょうどいいか。じゃあ、ちょっと庭の方に行ってみるね」
「暗いから吾輩も一緒に行くのである」
──ボディーガードとしては些か不安が……。
とか失礼なことを考えつつもウッドマンさんと噴水がある庭へと向かった。
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──所変わって玉座のある広間
「無礼を承知でお尋ねします。何故、あのような怪しい奴を一緒に同行させねばならないのでしょうか」
片膝をついて尋ねるタンザナイトの顔には“不服”と書いてあるかのように顔を顰めていた。
コヤツの言う“怪しい奴”とは“占い師”のことに他ならない。
「なに、私の判断が不服か?」
「い、いえ! ですが、ただでさえオルゴナイトだけでも足手まといなのに……それに加えて、なんの役にも立たない人間なんて」
「なにを~、オレってば足手まといじゃないしー」
反論を返すオルゴナイトをタンザナイトが一睨みすると小さな悲鳴をあげて、蛇に睨まれたカエルのようにオルゴナイトは黙り込んだ。
もちろん、私としてもタンザナイトが言っている事を理解できない訳ではない。
人一倍努力して、全ての属性の魔法を使えるタンザナイトがいれば、そうそう問題など起きはしないだろう。それを充分に理解した上でもう一度言った。
「命令は変えぬ。タンザナイト、オルゴナイト、そして占い師。三名に水の国にあると思われるセーブポイントの破壊を命じる」
「な、なん……ッ! いえ……かしこまりました。失礼します」
タンザナイトは立ち上がると顔を上げずにそのまま広間を足速に出て行った。
「んんッ、ぷはぁ〜!! あ〜こわかったぁ、タンザーマジおこだったじゃん」
「シャルウィは人一倍プライドも高いですから、神子様に信頼されてないんじゃないかと不安になったんですよ」
「奴のプライドの高さは中々厄介だからな。……それより神子様、私からもお伺いしたい。何故、あの様な人間を信頼しているのですか?」
「信頼などしていない。ただ、この事態を解決する上であの占い師は役に立つ、そう思っただけだ」
あの占い師は我々には出来ないことをやってのけた。
世界中で起きた精霊の魔物化、偶然だろうとアヤツがいた土の国だけだが、被害を抑えられたのは事実だ。
──胡散臭く、到底占術が使えるようには見えないがな。
あの間抜け顔を思い出すと想わず鼻で笑った。
「あの占い師が初めて私の目の前に現れた時、聖域は壊され、私は人間に殺されると言ってきたんだ」
「聖域が壊されて、神子様が人間に? フ……くだらない。それがあの者の“占い”ですか」
「そうらしい。それに“私に何を求める”と聞けば『一緒に旅に出てほしい』と抜かしたのだ」
「で、神子様はまんまと聖域を抜け出したと……」
「ま、まぁ……な」
人間どもに誘拐された事にしようとしていたが、セラフィナイトには真相はバレているようだ。さすが六星夜で一番長生きなだけはある。
「……あの占い師は、精霊も人間のエルフもみんなが幸せに暮らせる世界を見てみたいそうだ」
「何それ〜! ちょー面白いんだけど」
「そんな夢物語を信じたんですか……?」
「私も夢物語だと思ってるさ。だけど、どこまでやれるかは見てみたいと思ってな……」
今だってできるなんて思ってはいない。
だけど、あの馬鹿正直で一生懸命なアイツをみてるとどこまでできるかと試してみたくなる。
「なるほど。だから、タンザナイトに同行させると……あの人間嫌いをどうにかしてみろと」
「さあな」
この決断が大きな問題を起こすのは……そう遠くはない。
読んでいただきありがとうございます。
久々の登場のカルサイトですが見せ場なしです。
火山に行ってないのに一番疲れてます。
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24.5.13加筆修正




