31話:姫琉とインカローズ
手が離れたセーブポイントは、錆びた金属のような音を立てながら、地面に描かれた魔法陣へと突き刺さった。その様子はまさに土の国の時と同じだった。
「あ……壊れた」
タンビュラのおっさんの渾身の一撃をもろともしなかったセーブポイントが今まさに壊れた。
何でセーブポイントの精霊石に飲まれそうになったかわからないし、なんで壊れたのかもさっぱりわからない。
けど、これだけはわかっている。
「よっしッ! 私がセーブポイントを壊したぞ〜ッ!!」
大きな声で思わず叫んだ。
これで……これで……セレナイト様に会ってもらえる。
あれ、安心したら涙が……。
「ヒメル……泣いてるの?」
涙を脱ぐって声の先に目を向けるとギン兄の肩からアルカナが顔を覗かせていた。
「な、泣いてないよ! 興奮したら目から汗が出ただけだよ!」
「よかった~…………あ、よっ良くないよ!」
アルカナはギン兄の肩にぴょんと飛び乗るとリスの様に頬をパンパンに膨らませた。
「あたし怒ってるんだよ! 一人で先に行っちゃうんだもん!」
「ご、ごめんね。もうしないよ」
「絶対?」
「うん、絶対」
その言葉に機嫌を直してくれたのかニッコリと笑うと、今度はいつものように私の肩に座った。
「ヒメルちゃ~ん」
少し遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「やっと追い付いたわい、無事だったかの?」
「ギン、ヒメル嬢! 全部終わったんで?」
「あ、ランショウ……とキン兄? なんで一緒に……ってあ、あの人は!?」
ランショウとキン兄と一緒に歩く彼女に目を奪われた。
ボン・キュ・ボンの理想的なスタイル。アラビアンナイトに出てくるような踊り子のドレスを着た健康的な小麦色の肌、あのキリッとした目元……。
間違いない! 彼女こそ私の二推しインカローズ!
足元も覚束ない体で彼女に駆け寄った。
「なっ、なんや!? ってか誰!?」
「はっはじめまして! ヒメルと申します!」
目をぱちくりとさせたインカローズだったが、後ろにいたタンビュラをみるとその目は急に怒りをおびた。
「……あんたもタンビュラの仲間か」
「ちっ、違います!」
「ヒメルはオレたちの仲間っすね」
ギン兄の言葉に心臓がドクンッと音をたてた。
あんな酷い事を言ったのに、ギン兄はまだ"仲間"だと言ってくれた事に嬉しい反面、罪悪感を覚えた。
――――いやっ、でも今はそれよりも!
インカローズの前に右手を差し出した。
「ファンなんですっ!! あ、握手していただけないですかッ!!」
インカローズは戸惑いながらも握手をしてくれた。
あまりの幸せに頬をそっと涙が流れていった。
「今日からこの手を洗わないッ!」
心に誓った。
◇◆◇◆◇◆
で、無事に戻ってきました王宮。
とは言っても海賊たちはいつの間にか全員ちゃっかり何処かに逃げたので、ココにいるのはそれ以外のメンバー+インカローズ!
サラマンダー火山では、タンビュラを逃したことを酷く悔しがっていた。
『あ゛ぁ〜ッ!! あんな口車に乗らずに、あの場でタンビュラを火炙りにしておけばぁあーー!!』などと発狂していたが、街につけばそんな素振りすら見せずキリッと王族らしい立ち振る舞いをしていた。
個人的にインカローズはこのギャップがたまらなくツボである。
素の彼女は明るく元気なパワフルガール。だけど、他の人の前だとデキる王女を演じている。ただし、あんまり長続きしないのでちょくちょく素に戻ってしまう。
ギャップ萌え最高!
先頭を歩く彼女をついつい、にまにまと見てしまう。
――――腰からお尻にかけてのラインがたまらない。
そんな事を考えていたら、インカローズがふと立ち止まった。通路には長い槍を携えた体格のよい男が二人。インカローズに対して敬礼をした。
「インカローズ王女、他お客人。ご無事でなによりでございます。神子様はこの先の広間で皆様をお待ちです」
「はぁ~……あの神子さん我が物顔で王宮つこうてん?」
広間につくとそこにはセレナイト様が立派な椅子に腰かけていた。玉座だと思うがよく似合っている。
「セレナイト様ぁ~無事に壊してきましたよ! この私がッ!! ……って、えっ!?」
セレナイト様の前に誰かいた。
一人はアマゾナイト。そして残りは……
「六星夜!?」
セレナイト様の配下、ゲームの四天王ポジの六星夜がずらりと勢揃いしていた。
久々の更新です。
読んで頂きありがとうございます!
やっと火山を出ました!書いてるだけで暑くって冷たいものばかり取ってたら夏バテしました。
皆様もコロナもですが、夏バテお気をつけください。
次回は六星夜です。
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