26話:ギンとサラマンダー火山②
しばらく歩くと道は岩壁の中へと続いていた。
中はドーム型の空間になっており下にマグマが見えないためか今まで通ってきた道よりはやや涼しいかもしれない。端の方には水もあり、野営をした跡が残っている。
──もしかしたら、兄貴たちは昨晩ここで一晩明かしたのかもしれないっすね。
ドームの中を見渡しても、ヒメルの姿は何処にもなかった。
「……ここにもヒメルはいないっすね」
道は複数に分かれていたから、おそらく別のルートを通ったんだとは思う。
ただ、うっかりマグマに落ちてたら……魔物に襲われてしまっていたら……そう考えると不安で居ても立っても居られなくなる。
少し遅れてドームの奥の道から兄貴とインカローズが現れた。
危ない場所にいるというのに、兄貴はいたっていつも通りだ。それどころか、こんなに暑いのに、汗ひとつかいていないように見えた。
「お〜ギン。お前も神子様に言われて来たんで? ……あれ、なんでアルカナがいるんですぜ? 隊長たちとカソッタ村に行ってたんじゃ……」
「おひさーキンの兄貴♪ ヒメルがね、セレナイト様に呼ばれたから来ちゃったよ」
「ん? 来ちゃったってそんな簡単に行き来できる距離じゃ」
「大丈夫! お母さん特製の転移魔法陣を使ったからね♪」
兄貴は何一つ理解できないと言った様子だったが、今はそんなことより大事なことがある。
「兄貴ッ! ヒメルを見なかったっすか!?」
「ヒメル嬢を? いや、見てないっすけど、彼女も火の国に来てるんで?」
「そうなんっす……けど、この火山に入ったところで言い合いになっちまって……それで……」
先程のことを思い出し、言い淀んでいるとかわりにランショウが言葉を続けた。
「怒ったヒメルちゃんが一人でこの火山の中を降りてしまったんじゃよ」
「ハァ……なんか簡単に想像できますぜ。……で、アンタは誰ですぜ?」
「儂はランショウ、泣く子も笑う風の国の天才発明家じゃ!! アンタがギン君のお兄さんのキン君かの? で、後ろのなんとも色っぽいお嬢さんがこの国の王女様インカローズちゃんかの〜」
兄貴の後ろにいたインカローズに向かってランショウはニコニコと愛想を振りまいていた。
インカローズはといえば、迷惑そうにランショウをあしらっていた。
「ウッドマンさんに引き続き、ヒメル嬢はまた変なモノを拾ったようで……で、ギンは何をそんなに落ち込んでるんですぜ?」
「兄貴、オレ……ヒメルにオレは兄貴じゃないって言われて……」
兄貴に先程起こった事を話し終わると、兄貴は腕を組んだ。
「ま、いつかこうなるとは思ってやしたがね」
「え! な、なんでっすか!!」
「ギンは、ヒメル嬢を過保護にしすぎなんですぜ。あんなの実の兄だとしても鬱陶しくって怒るに決まってますぜ」
「そ、そりゃ兄貴は実の弟を雪の中に埋めたり、飛び込み岩から川に投げたり実の弟を散々に扱って他っすがね、普通の下の子には優しくするもんじゃないっすかね!」
思わず昔されたことを掘り返すが、兄貴は小首を傾げて「そんなことありやしたっけ?」なんてほざいている。
──こういう事って、やった本人はすっかり忘れているんすね。オレは絶対忘れないっすけどね!
「どちらにせよ、この件が片付いたらヒメル嬢もオレ達とは別れるわけですし、ヒメル嬢から兄貴じゃないって言われたならいい機会ですぜ。ヒメル嬢がいう通り街に戻ればいいですぜ」
「……でも! いや……そうっすよね……」
確かに、ヒメルがオレ達と一緒にいたのはエルフの国に連れてってもらう為だった。
船も手にいれて、さらに土の国から火の国にすぐに移動できる手段を手にいれたなら、ヒメルにとってオレ達は必要ないのかもしれない。
「だけど……やっぱり、ヒメルの事が、心配なんっす……それに、オレはこの先も、ずっとヒメルと一緒にいたいっすね……」
やっとの思いで振り絞った言葉に嘘はない。
兄貴は少し困った表情を浮かべ、やれやれと言った具合で小さくため息をついた。
「それは恋じゃろ?」
「うわッ!! ってその顔どうしたんっすか……」
突然、ぬ……と現れたランショウの頬には真っ赤な手形の跡がくっきりとついていた。
「ちょっとのぉ〜」と言葉を濁したが、十中八九インカローズに引っ叩かれたんだろう。少し離れたところからこちらを見る彼女の目が、まるで汚いものでも見るかのように冷たい。
「……それより、今なんて言ったっすか?」
ランショウの顔に思わず気を取られたが、ランショウはとんでもない事を言ったような気がした。
「だ〜か〜ら〜! 恋じゃよ、ギン君のそのヒメルちゃんへの気持ちは恋に違いないの!!」
「こい? ……恋ッ!?」
あまりに突拍子のない発想に思わず声を上げた。
「いや〜若者の恋は、初々しくてええの」
「いやいやいやッ! 何言ってるんっすか!?」
「あー……やっぱり側から見るとそう見えますか? ウチの弟ときたらてんでそう言ったことに疎いんでずぜ」
「いやいやいやッ! 兄貴も何言ってるんっすね!! オレは妹分としてヒメルが心配なだけであって」
「でも、兄貴じゃないって言われたんですぜ? その理屈で言ったらもう心配する必要はないんじゃ?」
「で、でも! ここまで一緒に旅をしてきたんっすね、妹分じゃ無くなっても心配に決まってるじゃないっすね」
「一緒に旅をしたって言うならウッドマンさんやタンビュラのおっさん、神子様やもちろんオレや隊長にも同じことが言えるってことですぜ」
「うッ……」
そう言われると兄貴と隊長とはこれからも一緒にいたいと思うし、多少の心配もするだろうが。
……いや、兄貴は強すぎて心配する事なんてないっすけど。
でも、他のメンバーに同じように言えるかと言ったら、言えない。
特にタンビュラのおっさんには絶対言えないっすね!!
だからと言ってこれを恋と認めることはやっぱりできない。
「ヒメルはまだちいさいっすから! 心配するのは当然じゃないっすか!」
「「ちいさい?」」
二人揃って声を上げた。
「それは……身長のはなしかの? それとも胸」
「む、胸ってっ!! そんな訳ないじゃないっすか! 年齢の話っすね」
「……ちなみにギンは、ヒメル嬢がいくつだと思ってるんで?」
聞かれている意味がわからず戸惑ったが、早く答えろと言わんばかりにひきつった笑顔をこちらに向けてくる。ここはもう正直に答える他、選択肢はない。
「……いくつって、十一、二歳ってところじゃないんっすかね」
その答えを聞くと先程の笑顔のまま、目だけが虚になっていた。
「えっ! な、なんっすかね!! オレなんかおかしな事言ったっすかね!」
「まぁ〜……ヒメルちゃんちっさいからのぉ、胸も身長も……でも流石に十二歳は若すぎるじゃろ? 儂の予想ではまだギリギリ成人していないくらいじゃないかの……おそらく十七歳ってところじゃな!」
「十七ッ!? それじゃオレと三つしか変わらないじゃないっすか!?」
た、確かにヒメル自身に年齢を聞いた事なんてなかったが、小さいし(身長が)、顔もあどけなさが残っている感じがあって……硬貨の使い方も知らなくて、それに……それに小さいし…………。
思わずインカローズの豊満な胸元をちらりと見てしまう。
「あ、兄貴……」
「人の成長はそれぞれ。ヒメル嬢はああ見えて、そんな子どもじゃないと思いますぜ」
兄貴の肯定と取れるその言葉を聞いて、やっと自分が間違っていたらしいと気がついた。
それと同時に、今まで自分が“年頃の女の子”にしてきた行動を振りかえると、恥ずかしさのあまり顔が熱くなってくる。
今までヒメルに言っていた言葉に嘘なんかないし、子どもじゃなかったからと言って心配する気持ちも、一緒にいたいと思う気持ちにも変わりなんてない。
ただ……。
ただ、この気持ちをなんと呼ぶのかはまだわからない。
いつも読んでいただきありがとうございます。
そういえば、姫琉の本当の年齢を知ってるのはオパールしかいないと気づきました。
ま、実際社会に出ると年齢不詳の人なんていっぱいいますよ。
年下だと思ってたら年上だったとか、逆も然り。
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以前あげた話の修正作業を行なっています。
具体的には数字の統一。
姫琉の地の文のカルサイトを隊長にしたり、誤字修正したりしてます。
ご了承ください。
21.7.26 最後の部分を消しました。
24.5.12修正




