24話:姫琉とサラマンダー火山③
「あ……後は、これで首とか、太い血管を冷やしておけば……よくなるかと……」
セリサイトから手渡された水を含んだタオルを首にあてながら、ぐびぐびと乾いた喉に水を一気に流し込んだ。
「いやぁ〜生き返ったわ〜! まさか人生において海賊に助けられる日が来るなんて、夢にも思ってなかったけど」
「失礼極まりない女だな。ってか、タダで助けたと思ってんのかよ、もちろん有り金全部置いてけよ!」
「ははは~ダイアスに助けられた記憶はないけど、ご生憎でしたー。借金はあってもお金なんて小銅貨一枚だって持ってないですよーだ!」
「自信満々に言うことでもねーけどなっ!」
幻惑の森で謎解きの邪魔をしたことを根に持っているのか、ダイアスがやたら敵意剥き出しにして突っかかってきた。だが、無い袖はふれないので「変わりに……」とウッドマンさんから貰ったアロエキャンディーをそっと手渡したすと、無言ですごく微妙な表情をしていた。
「つか、なんで嬢ちゃんはこんなとこに一人でいるんだ? 隊長さんと、あの双子のにぃちゃんにそれにいつもの精霊は一緒じゃねぇのか?」
「それにランショウもな」
「……それは…………ちょっと、カッとなって………………みんなを置いて来ちゃった……あと隊長は端から来てない」
タンビュラのおっさんとコランダムに聞かれて思わず正直に答えてしまった。だってこのふたり並ぶと本当に冗談抜きで怖い。ダイアスとセリサイトはさておき、アルカナもいないこの状況じゃ大人しくしておくのがいいと判断した。とりあえず、今の所は!
「で、水も持たずにこんな中を飛び出したってか? 嬢ちゃんは死ぬつもりだったのかそれともよっぽどのバカだな」
笑いながら言うタンビュラのおっさんに返す言葉も出ない。
「ま、具合がよくなったら帰んな。その変な装置を俺様がぶっ壊せばいいんだろ?」
「それはヤダッ!」
「あ゛?」
──や……やってしまった。
大人しくしようと決めた矢先に思わず反論してしまった。でもここで大人しく引き返したら何の為に飛び出してきたかわからなくなる。ここは正直に先程あったことを話すことにした。
話終わった第一声はコランダムの「バカだろ?」だった。
「どんな宝だって命あっての物種だろ? そんな事もわかんねぇのかよ」
とダイアスが正論を突き付けくる。
「欲しいものなんてなぁ奪えばいいんだよ! それが人だろうと物だろうとな」
最後のコランダムの言葉に「うわ、野蛮……」とは思ったがグッと思った言葉を飲み込んだ。
たぶん私の気持ちは誰にも理解されないんだろう。
そう思った時だった。
「まあいいんじゃねぇか? 自分の命の使い所なんて自分で決めりゃあいいんだよ。やらなくて後悔するよりも死んで満足することもあるだろうよ」
意外にも肯定的な言葉を口に出したのはタンビュラだった。
「……否定しないんですね」
「俺様にだってなあ、後悔のひとつやふたつはあるんだよ。やらなかった事を後悔して生きる人生の苦痛もよく知ってるからよ」
「そう……ですか」
そう話したタンビュラの顔つきがいつになく真剣でそれがどんな事だったかなんて聞けなかった。
「だがよ、あのにぃちゃんが言うこともわかるぜ。大事な妹が危ないところに行くのを心配するのは当然だろ? 今も先に進んじまった嬢ちゃんを心配してるんじゃねぇか」
「ギン兄は兄貴分なだけで本当の兄妹じゃないですよ。それに兄貴じゃないって、啖呵きって来ちゃいましたからね! ギン兄が心配してるのは可愛い妹分であって、きっと可愛げのないワガママな小娘に愛想尽かして帰っちゃいましたよー」
言ってから拗ねた子どもみたいだなと思った。
「そりゃ妹分じゃなくなっても心配されたいってことか?」
ニタニタと不快な髭だらけの口元が笑っている。
「違いますーっ!!」
「何が違うって言うんだ? 嬢ちゃんの今の言い方だと妹分って肩書きがなくなっても心配されたいって言ってるようなもんじゃねーのか?」
「……そ、そんなんじゃない。…………たぶん」
言っていて自分がギン兄に本当は心配されたいって思っていたのかと自問自答してみるも答えは出ない。少なくとも私は自分の大好きな人に……セレナイト様に必要とされれば他に何もいらないと思っている。思っているはずだ……。
「わ、私はセレナイト様に心配されたいんです!!」
「無理だろ? あのエルフの嬢ちゃん、嬢ちゃんのこと相当避けてるじゃねーか」
「ぎゃふんっ!!」
一番セレナイト様と交流がないタンビュラの目から見てもやっぱりそう見えるのか。
その事実を突きつけられて気分が一気に沈んだ。
「ま、何でもいいが、俺様も"あの王女様"より早くその装置をぶっ壊さねぇといけねえからな。先に進むが嬢ちゃんはどうするよ?」
「行く! 行きます!! それでセレナイト様の信用をえます!!」
タンビュラのおっさんは少しだけ困ったように眉を下げて笑った。
「オイ、コランダム……」
ダンビュラのおっさんがコランダムに何か指示を出した。何かなと思った次の瞬間だった。
近づいてきたコランダムが私をひょいっと持ち上げ小脇に抱えた。
汗をかいている肌がぴたりとくっついて気持ちが悪い。
「自分で歩ける、歩けるからっ!! は、離してーーーッ! 肌がくっついて気持ち悪い!! 汗臭いーーッ!!」
思わず離れようとジタバタと暴れてみるもびくともしない。それどころか
「あんまりジタバタするなよ。うっかりマグマに落としちまうかもしれねぇぞ」
そう言ったコランダムの顔は笑っていた。
──あ……これは本当にやりかねない顔だ。
自分をマグマに向かって投げ込むコランダムが容易に想像できてしまい、顔から一気に血の気が引いた。
「具合の悪い嬢ちゃんに合わせてたら進むスピードが落ちちまうからな。ま、妹の友達を悪いようにはしねーからよぉ、大人しくしといてくれよ」
こうして海賊に連れられて最下層を目指すことになった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
普段より更新が遅くなり申し訳ありません。
ちょっと背骨を悪くしまして座ってるのも辛い日々を送っておりました。
医者から「腹筋ないと腰悪くなるよ」と言われてコアトレーニングなるもので絶賛筋トレ中です。
さて、今回の話でタンビュラが随分と丸くなった〜と思っております。
ただ、ヒメルに突っ掛からなくなったのはオパールに嫌われたくないからです。
ただ単にシスコンなのです。ヒメルがこの先万が一オパールと友達じゃなくなったらどうなるかわかりません。
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24.5.12修正




