20話:姫琉と地下牢
着いた先は先程と同じ様な機械がごちゃごちゃとある小さな部屋だった。
壁は岩、床は煉瓦で出来ていて、そのせいなのか少しだけ空気がひんやりしていた。
まだ自分以外に誰も来ていなかったが、構わず出入りだと思われる扉を開けてみる。扉の先は人がひとり通れる位の細い階段になっていて、照明がないのでどれくらい続いているのかわからなかった。
人気のない暗闇、先の見えない階段、ひんやりとした空気……その薄気味悪い階段を見て思わず息をのんだ。
──はっきり言おう、恐くて上がりたくない!
「何立ち止まってんだ」
「うひゃああ!! な、なんだ隊長か……いきなり後ろから声かけないでくださいよっ! 心臓止まるとこでしたよっ!!」
驚きのあまりにびくんっと跳ねた心臓がバクバクと鳴っている。涙目で部屋の中をみれば、ぞろぞろと皆が転移魔法陣から現れて、気がつけば小さな部屋が少し窮屈そうになっていた。
「心臓に毛がはえてそうな奴が何抜かしてやがる。いいからとっとと上がれ、狭いんだよここ」
そう言いながら背中を押されしぶしぶと階段を登るハメに。まだ落ち着かない鼓動を整えようと大きく深呼吸をし、ランプを片手に一段、また一段と暗い階段を上がっていく。
「遅い。お前はなんだカメか」
「うっさいな、そんなこと言うなら隊長が先に登ってくださいよ」
「嫌なこった。もし、罠でもあったら大変だろうが」
「私は生贄かっ!! 最低だ! このひとでなし!!」
「ったりめーじゃねーか! お前が言い出したルートなんだからよ」
「……どうでもいいから二人とも早く上がってくれんかの?」
ランショウの言葉に下を見れば狭い道に皆んなが詰まっていた。そりゃ、みっちりと……。
「あたしが先に進んであげるよ、ヒメル♪」
後ろの方にいたアルカナがピョンと列の先頭に飛び出した。
──アルカナは本当にいいこ!
アルカナが先頭を飛んでくれたおかげで先が随分と明るくなり、先程よりも少しだけ早く進んでいく。しばらくすると魔法陣の描かれた扉が現れた。
躊躇ったところでそれ以外に道はなく扉を開ける他なかった。
そして扉の先は。
「牢屋……?」
扉を開けた先は、壁が岩で出来たいかにもRPGっぽい牢屋がずらりと並んでいた。
中にはまばらにタンビュラのおっさんやコランダムに負けずな厳つい顔の人達が収監されていて、こちらを見て何やら騒いでいる。
「なんだアイツら?」
「いきなり壁から人が出てきたぞ!!」
「あの金髪のねーちゃんエルフじゃねーか?」
「あんたら、ココ開けてくんねーか? 出してくれたら礼はたっぷりするからよ〜……ゲヘヘ」
「聞こえてんだろ!! スカしてんじゃねーぞアマッ!? ここ開けねぇと──」
初めは驚いた声を上げていたが、段々と聞くに耐えないゲスな発言が聞こえて思わず耳を塞いだ。
「ハンッ! 牢屋に閉じ込められるなんてゴメンだが、こうやって牢屋に惨めに閉じ込められた奴らを見るのは気分がいいなぁ……生かすも殺すも外にいるヤツの自由だもんなぁ? オイッ!!」
コランダムが鉄格子を思い切り足蹴りすると鉄格子が鈍い音と共にひしゃげていた。
そのせいなのか、それとも睨みつけたコランダムの人相があまりに凶悪だったからか、牢屋に閉じ込められていた人が一斉に大人しくなった。
静かになったところで今度は、バタバタと足音が聞こえてきた。
「お前らッ! 何を騒いでるんだッ!!」
通路の先から看守と思われる褐色肌の男が慌ててやってくるや、私たちを……というかコランダムを見てみるみる顔色を悪くし、腰に携えた剣を向けてきた。
──ま、どっからどう見ても脱獄した人にしか見えないしね!
恐怖のあまりか看守が構えた剣先が小さく震えている。それに気づいたのは勿論私だけじゃない。……コランダムの口元がわずかに上がった。
コランダムがゆっくり、ゆっくりと剣を向けた看守に近づく。
「オイ止まれっ! 近づくんじゃない……く、来るなぁあ!!」
恐怖のあまりに振り回された剣をコランダムは拳で横から殴ると刀身が折れて壁へと突き刺さった。
看守は折れた自分の剣を見て尻もちをついた、それから目の前で拳を握ったままのコランダムを見上げて小さく悲鳴をもらす。
コランダムは無言のまま、握られた拳を振り下ろそうとした。
「やめるんじゃ……気を失っておる」
後ろからランショウに言われ拳を止める。口から泡を吐き白目を向いた看守を蔑むように見ると軽く舌打ちをした。殴る代わりに気を失った看守のベルトから牢の鍵と思われる鍵の束を奪い取る。
奪い取った鍵を見て静かだった牢の中から歓喜の声が上がった。
……出してもらえるとか考えているんだろうな。
しかし、コランダムがそんなに優しい訳がない。
奪った鍵を紙を丸める様に鍵の束をあっさりと鉄の塊に変えるとそのまま何処かへと投げ捨てた。
「「何すんだぁああ!」」
全部の牢からツッコミの声が響くも、コランダムが低い声で凄むと一斉に静まり返った。
あのコランダムが助けるとか絶対あり得ないから! 期待するだけ無駄だったから……ってか丸めた鍵って金属ですよね? あのおっさん本当に恐い……。
何事もなかったかのように牢を歩いていくと、さらに上へと上がる階段があり登りきった先はアラビアンナイトっぽい世界観が漂う街並みだった。
「何処かと思ったらここ火の国の首都じゃねーか」
「そ、そうなの」
辺りを見て隊長は即答したが、正直私にはわからない。なんでって? ゲームで火の国に来た時には首都はファイアドラゴンに滅ぼされちゃってるからね。
「神子様。城デ待ッテる……早ク行ク」
アマゾナイトが指差す先には、これまたアラビアンナイトの世界観そのままの城があった。
私たちは城へと向かった。
◆◇◆◇◆◇
城の門に着くと警備の人間が私たちを見るなり、応接室っぽい所に案内された。
そこには麗しのセレナイト様の姿があった。
「思ったより早かったな」
「セレナイトさまぁあああ!」
優雅に椅子に腰掛け、紅茶を口にするセレナイト様に思わず飛び付こうとすると目の前に突然現れた土壁に激突した。
「なんだ占い師。思ったより元気そうではないか? アマゾナイトの洗礼は受けなかったのか……?」
何故だか少し残念そうにセレナイト様が眉を下げた。
「えっ? あぁ……アマゾナイトさんにやられたのは隊長だけですから! 私はいたって元気です……ってアレ?」
目に暖かい何かが垂れて来て触ると赤い血がベッタリとついた。
「ヒッ、ヒメル殿! 頭から血がっ……」
血相を変えたウッドマンさんが見えたところで意識が遠退いた。
読んでくださりありがとうございます!
さて、ついに到着火の国アルヴァ!
久々の登場セレナイト様!!
そして熱烈な愛の拒絶で気を失った姫琉。
次回はいったいどうなるかっ!?
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24.5.12修正




