18話:姫琉とダイアスと謎解き
思いもよらない人物からの問いに思わず「どうだったかな……」と曖昧な返事を返した。
だいたい、攻略本の手順に従って作業の様にこなした謎解きをぶっちゃけあまり良く覚えていない。
生憎とゲーム、特にストーリーを楽しむRPGやシュミレーションゲームにおいて、謎解きは然して重要視していないのだ……残念ながら。
ダイアスはそんな曖昧な返事に対して
「石灯籠、全部に火をつける訳ねーよな!」
と今度は断言的な物言いをしてきた。
──……答えをイエスしか求めていない問いなら、いっそう聞かないで欲しい。
「多分ね! 全部に火を付けなかった気がするけど、いくつ付けたかなんて覚えてないよー」
朧げな記憶ではあるが、確かに全部に火はつけなかった気がする。詳しくいくつとは覚えていないけど多分半分くらいだったと伝えるとダイアスは「やっぱりそうか」とひとり呟くと今度は声を押し殺しながら笑っている。
──ハッキリ言おう。マジで不気味!
「え……何、アイツ突然どうしたの……? ちょっと……いや、かなり不気味なんだけど」
「あ゛? いつもあんなもんだぞ、アイツは」
「うひゃぁあああ!! コ、コランダムのおっさん!!」
「んだよ、そのビビリ様は。幽霊だとでも思ったのかよ」
──幽霊なんかよりアンタの方がよっぽど怖いんだよっ!!!!
いつの間にか、横に立っていたコランダムから距離を取りつつ、気づかれないように会話を続けた。
「いつもって言われても……ダイアスって普段あんま喋らないし、主張しないし」
他二人の海賊があまりにキャラが濃すぎて印象が薄いんだよね。
「アイツはな……金の亡者なんだ」
「………………………………は、はぁ?」
これまた思いもよらない単語に、今度は返す言葉も出てこなかった。
「俺たちは海賊だからな、略奪に強奪なんて日常茶飯事なんだがよ、それでも時々宝探しの真似事なんかもすんだよ。隠された秘宝とか……」
「は……はあ」
いやだからなんだって言うんだろ。
何も言わないでおくけど……怖いから。
「うちの海賊団は戦利品の取り分は貢献度で割り振られんだよ。ダイアスは戦えない訳じゃねーが大して強くもねーからよ、ああ言った謎解きなんかで点数稼いでんだよ」
「そ……そうなんだ」
再びダイアスに目を向けると、石灯籠を舐める様にジロジロと上から下にと見ていた。
「学者。石板に書いてある文字で読める単語はないか」
「単語でいいのであれば、いくつか読めるのである。“光の精霊”、“境界”、それから地水火風の精霊と書かれているのである。でも、これだけじゃ」
「ふん、いいや充分さ。そこの石碑に書かれているのは創世神話だ。エルフはどいつもこいつも精霊の話が好きだからな、バカの一つ覚えの様にどの遺跡も精霊になぞられたもんばっかりだ」
自慢げに答えるダイアスの様子にウッドマンさんが珍しく反論する。
「い、いやこの単語だけで創世神話と決めつけるのは時期早々だと思うのである。この単語だけなら精霊樹誕生の話かもしれないのである!」
「あんた本当に学者なのかよ。光の精霊についての記述があるのは創世神話だけだよ。精霊樹を生み出した時には光と闇の精霊はとっくに消えちまってるんだ。だ・か・ら光の精霊の文言がある、それだけでその石板に書かれてることが創世神話だって言い切れるだろ」
ダイアスが言った事が正しかったのか、ウッドマンさんはうな垂れた。
「で、でもそれだけじゃ火を付ける順番はわからないのである」
もはやウッドマンさんの負け惜しみとも言える言葉に、ダイアスは鼻で笑って、これまた自信満々に「わかってるに決まってんだろ」と言い切った。
ダイアスは石燈籠に付いた苔なんかを手で取り除くと、そこを指さした。
「この石灯籠、よく見るとここに光の精霊の紋様が彫られている」
そこまで言われて自分の脳裏にフラッシュバックのようにゲームをプレイした時のことが蘇った。
「ああーー! そうだ。光、地、火、水、風の順番だ」
──あ〜思い出してスッキリした。
思い出したことに大満足したが、周りの空気がちょっとおかしい事に気づいた。
それもそうだ。例えるなら名探偵が犯人の名前を言い切る直前で、犯人の名前を言ってしまった様なもんだ。
この場での名探偵に当たるダイアスが手をなわなわと震えさせていた。
「いや〜今のはヒメルちゃんが悪いかの〜……」
「空気読んで黙ってろとか無理だろ。このちんちくりんは思った事を考えずに口に出す」
ランショウと隊長が呆れた顔を向けてくる。
「えっと……ダイアス、ごめん……ね?」
「……やってみろよ」
「え……?」
「思い出したんだろ? だったらその順番で火、付けてみろよ」
睨みながら近づいてきたダイアスに腕を引っ張られ石灯籠の前に連れてこられた。
自分の身長ほどの苔がみっしりと生えた石灯籠。中には蝋燭があらかじめ備え付けられていた。
後ろを振り返ると、ダイアスが鋭い視線でこちらを睨みつけている。
──これは……やらないと許してくれないやつだな。
渋々とランプの火を光の精霊の紋様が彫られた石灯籠に火を付けた。
次に地の精霊の紋様の石灯籠を探そうと、隣の石灯籠の精霊の紋様があった場所の苔を払う。
「あ、あれ……紋様が、ない!?」
紋様があるはずの場所が欠けていてわからなくなっていた。他の石灯籠の同じ場所を見るが欠落していたりデタラメな紋様が彫られていてわからない。
「どうしたよ? ほら、わかったんだろ。早く順番に付けてくれよ、なぁ?」
ダイアスがこれでもか、と言うぐらい煽ってくる。
いっそ正直に謝ってしまおうかとも考えたが、謝ったところでここまで機嫌を損ねてしまったら素直にやってくれるとも思わない。
──ここは自力で解くしかない!
決心して再び石灯籠に向き直った。
「最初はこの石灯籠であってるとして……あそこ三つのデタラメな紋様が彫られたやつは、多分違うから……残りはこの六つでしょ。あと火を付けるのは四つだから、どれか二つが偽物か」
「ほらほら、わかったんだろ? 早くしてくれよ」
「うっさいなぁ! 今思い出してるんだから黙っててよ!! これ試しに全部のパターンをやったら何通りあるだろう」
片っ端から試していけばいつかは正解に辿り着くかもしれないそんな甘い考えをした。
「ヒメル殿、全部のパターンを試したら中の蝋燭が先に無くなってしまいそうである」
「えっ、あっ本当だ。この四つだけ妙に蝋燭が短い…………あれ? ってことは、この四つはよく火を付けるってことだよね? じゃあこの短い蝋燭が入ってる石灯籠が正しい石灯籠なんじゃない!?」
ウッドマンさんに言われて確認した蝋燭の長さは、デタラメな紋様が彫られていた石灯籠より圧倒的に短いものが四つあった。
「ふ、ふん! どうだかな。も、もしかしたら、よく使うから蝋燭を取り替えたばかりかもしれないだろ」
ダイアスに明らかな動揺が見える。
──……この推理はあっているに違いない!!
そう確信した私は、とりあえず短い蝋燭が入った石灯籠に火を付けた。
こういう順番に何かをする謎解きって、ぐちゃぐちゃになってる事が多いから多分こんな感じだよね?
光の紋様の入った石灯籠が手前側だったので次は奥側の反対側、手前に戻ってきてまた奥に、と言った具合で適当に付けてみる。
最後のひとつに火を付けると辺りをまばゆい光が覆った。
「うわっ! 眩しい!!」
今までランプの淡い光だけを見ていたので、その明るさに一瞬目がくらんだ。
光が収まり恐る恐る目を開けると、先ほどまで立ち込めていた白い霧が薄くなり進行方向に道がひらけていた。
「やった!! 私もしかして一発で正解出しちゃった」
「ヒメルやったね! スゴイスゴイ♪」
「いやいや、そんな事あるけどー」
そんなちょっと調子に乗った私にアルカナの小さな拍手をした。
そして、ダイアスは歯をギリギリと噛み締めながらすごく悔しそうな顔をしていた。
──あ、これ以上調子に乗るのはやめておこう。
自分の中のあってないような危機管理能力が「これ以上調子乗ると刺されますよ?」と危険信号を出した気がしたので話を変えた。
「さ、さーて先に進みますか。アルカナ先導お願いねー」
「うん♪ 任せておいて!!」
アルカナに続いて私たちは再び森を歩き出した。
いつも読んでいただきありがとうございます!
ダイアスの初登場からどれくらい経ったか。
今回の話で初めてしっかり喋ったのではないでしょうか?
登場人物の設定はノートにざっくり書いてあるんですが、他の海賊に比べてダイアスの設定は短いんです。
抜粋すると
「左頬に火傷のあるヒョロっとした細身の男。お金が好きだけど使うわけじゃない貯めるのが好き」
こんなもんしか書いてない!!
分量で言ったらジルコン爺さんの設定と同じくらいしかない!!
そんな彼が輝ける出番を姫琉が奪ってしまって申し訳ないと思ってしまう訳で……。
今後も彼の活躍に期待です!!(あるかなー?)
次回はアルカナの家に到着です。
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お待ちしていますー!!
22.9.18 修正
24.5.12修正




