17話:姫琉と幻惑の森
「幻惑の森だって? それだってここから馬で一週間はかかるぞ」
確かにこのカソッタ村は大陸のほぼ中央に位置している。そして幻惑の森はずっと北の方にある。それに間には山もあったはずだ。陸路で行けばそれくらいかかるには違いないが。
「で、でもジェットに往復して貰えばそこは」
「シナイ。神子様の命令ジャない。無駄」
ちらっとアマゾナイトに視線を向けると間髪入れずに断られた。
――うぐぅ……。いやでもこんなの想定内だし!
「聞いて下さいアマゾナイトさん。セレナイト様が私たちを呼んだのは火の国の精霊暴走を止める為ですよ。それに火山に行くには絶対に人数は多い方がいい! ここにいる人間を連れて行くことは結果、セレナイト様の為になるんです!」
「神子様の……タメ?」
「そうです!! セレナイト様の為です!!!!」
いつになく真剣にアマゾナイトに訴えた。
セレナイト様が精霊の為に生きてるように、六星夜は神子様の為に生きている。
こう言ったら多分断らない……ハズ!!
お願い! お願い! 断らないでぇええーー!!
しばらくの沈黙の後
「…………ワカッタ。幻惑の森マデオマエら全員連レテく」
心の叫びが届いたのかアマゾナイトが了承し、軽く準備をして飛び立った。
◆◇◆◇◆◇
ジェットが全員を幻惑の森に運び終わるのに三往復するも一時間もかからなかった。
そして今、三往復の間ずっとジェットの口にいたウッドマンさんが散々噛んだ後のガムの様に吐き出されたところだった。
幻惑の森。
立ち込める霧のせいで星明かりも届かず、見渡す限りのだたっ広い高原には街灯りさえも見えない。ここが冥界に繋がる入口ではないかと思わせる暗い暗い森が目の前に広がっていた。
その森の異様な不気味さにここにいた全員が言葉を失っていた。
ただ一人を除いて。
“ガサガサ……ゴソゴソ……”
「あれぇ〜? この辺りじゃなかったっけ?」
草をかき分けながら必死に地面を見ていく。
確かに幻惑の森はゴーストは出るし、武装したスケルトンも出る。最初にこの森で目が覚めた時に見た赤い鎧を着た骸骨を、あの時感じた恐怖を忘れているわけじゃない。
しかし、幽霊船で生活をする今はあの時よりもホラー耐性がついたので、こうして一人空気を読まずに探し物をしている。
「ヒメル、なに探してるの?」
ふわふわと飛んできたアルカナがぼんやりと光っているので地面がよく見えたがやっぱり探し物は見つからない。
「最初にこの森を出た時の魔法陣を探してるんだよ。そしたらあそこまですぐに行けるんじゃないかなって……」
アルカナの家から森を抜ける際に使った転移魔法陣。あれを使えば面倒な謎解きも危険な魔物にも遭わずにパッと移動ができると考えた訳だけど……一向に見当たらない。
「森の入口付近に出た気がするから……この辺りだと思うんだけどな」
再び、今度はアルカナの光を頼りに四つん這いになりながら別の場所を探してみる。
「何やってんだ」
呆れた声が聞こえて探す手を止めて顔を上げる。
するとそこにはいつものように眉間に皺を寄せた隊長が見下ろしていた。
「魔法陣を探してるんですよ。アルカナの家に行ける転移魔法陣」
「つーか転移魔法陣なんて本当にあるのかよ? そんなもの聞いた事もねぇよ」
「あるんですー! 私はそれでここの森を抜けたんですから!! ね、アルカナ」
そう言ってアルカナに目を向けると、アルカナが両手で顔を隠していた。さらに泣き出しそうな声でこう言った。
「ごめんね、ごめんねヒメルぅ……ここの転移魔法陣は一方通行なの……」
「えっ! そ、そう。そうなんだぁ! じゃあ森を突っ切るしかないね!!」
ひたすらに謝るアルカナをなだめて、自分の膝についた土を払った。
あったらいいなって思っただけだし!
無くても全然平気だし!
ちょっと謎解きあるけど、大丈夫でしょう!!
自分に散々言い聞かせると何事もなかったように入口に立つ他のメンバーの先頭へと進んだ。
「よし! じゃあ行こうか!!」
「オイ待て。お前またノープランだろっ!!」
「大丈夫! 一回はクリアした場所だし!!」
――攻略本見ながらだけど。
と心の中でそっと付け加えた。
「占い師。ジェット大キスぎてコノ森通レない。このまま火の国に向カワせる」
確かに鬱蒼とした森を行くにはジェットは大きすぎた。森を進もうなら木に激突するのは明らかだった。
その事を承諾するとジェットは大きな翼を羽ばたかせ空へと消えた。
「……アマゾナイトさんは一緒に行かなくてよかったんですか……?」
ジェットに手を振るアマゾナイト。てっきり一緒に行くのかと思ったけど。
「逃ゲルかもシレない、商人」
そう言われて隊長が肩をびくりと震わせた。
納得、つまりは監視役という訳だ。
かくして再び幻惑の森へと足を踏み入れることになった。
◇◆◇◆◇
森の中はやはり霧が立ち込めていて、ランプの光で前に進むも視界がとても悪い。
なんとなく目的の場所がわかるアルカナと私を先頭に一列になって森を進んで行く。幸いにも魔物もスケルトンもゴーストにも遭遇せずに見覚えのある石碑の前で足を止めた。
「なんじゃヒメルちゃん。ここが目的地なのかの」
「違うけど、アルカナ。アルカナの家はこの先でいいの?」
「うん♪ もう少し先だと思うよ」
「ってことは……」
周りをぐるりとランプで照らした。
向かい合うように並ぶ真ん中に穴の空いた石灯籠が十個。
一番端に文字の書かれた石板が一個。
ゲームでは、石板に書かれた文字を解いて順番に石灯籠に火を灯す。
じゃないとこのまま先に進んでも入口付近に戻されて、延々と同じところを開くかされる羽目になる。
「先に進まんのなら儂が先に進んじゃうぞ」
「別にいいけど、またここに戻ってくるだけだよ。この石灯籠に順番に火をつけないと先に進めないんだよ」
そう説明してるのにランショウは嬉しそうに
「なんじゃそれは!! それはぜひやってみた、じゃなかった。やってみないとわからんじゃろ? ちょっと儂行ってみるからの」
そういうと先に一人進んで行った。
が、しばらくすると最初に来た方向からランショウが満足げに戻ってきた。
「本当じゃ! 戻ってくるのぉ!!」
ケタケタと笑っているランショウを見てウッドマンさんが納得したように頷いた。
「なるほど。これは結界魔法であるか」
「結界魔法?」
「そうである。とても古いエルフの魔法で空間認識を曖昧にして先に進めないようにしてるのである。とすれば、おそらくこの石灯籠はその空間認識を正しくするための鍵としての役割を持っているはずなのである!」
「へ、へぇ〜そうなんだ」
適当に相槌を返す。
ウッドマンさんは文字の書かれた石板に向かった。
私もなんとなく石板をみるが書かれている文字はさっぱりわからない。
「この文字は古代エルフ語である。吾輩もあまり詳しくはないのであるが……ココ殿は読めるであるか?」
「……読ンダり、書イタり苦手」
淡い期待を早々に打ち砕かれた。確かにそんな感じはひしひしとしてはいたが。
「面倒くせーな。こんなん全部一気に燃やしちまえばいいじゃねーか」
「そ、それじゃ火事になっちゃいますよ」
イライラし出したコランダムにそう答えたセリサイトがまた蹴られていた。
ここまで大人しくしていたが、多分強い魔物とも戦えず、こんなところに連れてこられてコランダムのストレスは相当溜まっているんだろう。
そう思った瞬間、背筋に寒気が走った。
だってこの状況を作ったのは私ですから!
次にやられるとしたら私ですから!!
硬い石壁を蹴り壊したコランダムを思い出すと早急にどうにかしなければと焦ってしまう。ただ焦れば焦るほどゲームでの謎解きのことなんて何も思い出せない。頭が真っ白になった。
「女。ひとつ聞くがこの石灯籠は全部火を付けなきゃいけないのか?」
この濃いメンツで一番影が薄いバンダナの男は石灯籠をじっと見ながら私に尋ねてきた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次週は一番地味になりつつあるダイアスが活躍する予定です!
あくまで予定です!!
最近気が付いたんですが、この小説に出てくる男性陣は口が悪い奴が多すぎませんかね?
評価・ブックマーク・感想お待ちしています!
21.6.14加筆




