16話:姫琉と連れてく人間
致命傷の隊長をウッドマンさんが治療している間に話しはサクサクと進んだ。
「神子様に頼マレた。商人、占い師……火の国に連レテく」
セレナイト様に言われればたとえ火の中、水の中、草の中、森の中。あの娘のスカートの中にだって行くことは厭わないが……要はその手段が問題だ。
「連れてくって、あの鳥に乗って行くってことですよね?」
そう言ってジェットを指さした。
オオハリオアマツバメはとにかく速いらしいって事はわかった。
おそらく昼前に火の国を出て、現在土の国にいる。
私たちが一ヶ月以上かけてきた道のりが一日かからないって事は相当速いって事はわかる……わかるけども。
鳥の背に乗って飛ぶって、簡単に言うなら飛行機のオープンカー仕様みたいなものでしょ? 普通に考えて死ぬって!!
「そう、ジェット……。全力で飛ベバ明日の朝には神子様のトコ着ク……ハズ。」
「こ、この子に乗るって……その、背中に乗って飛んだら私、吹っ飛びませんか?」
「大丈夫。背に乗る、アブナイから私シカ乗ラナい。二人は足に掴マセる……一番安全」
足に掴ませる? えっ、何ひとつ安全な所が見当たらないけど?
鳥が魚を捕まえるみたいに掴まれるって事ですよねっ! もう気分は餌じゃん!?
「学者は、咥エる。ジェット、喜ブ……」
それを聞いてしまったウッドマンさんが小さく悲鳴をもらした。
ウッドマンさんは完璧に餌扱いですね。いや、食べないからガムとかそんな感じかな? どちらにせよ鳥にモテモテですね。ご飯的な意味で。
というか、捕まれたまま何時間も移動するとか、もはや拷問ではないでしょうか? 耐えられるかな……。
いやっ! でもっ! セレナイト様が呼んでいるなら、どんなに嫌でも行くしかないが……。
……海賊たちをどうしたらいいんだろ。
ちらっとコランダムを見ると目があった。
「で、俺たちの事はどうするんだよ」
「ねぇ~どうしたらいいんだろうね。ハハ……」
「そ、そうです! タンビュラ船長の所に連れてってくれるって報酬だったじゃないですか! それとも、嘘だったって言うんですか……だったらぼ、僕は」
復活してたセリサイトのその手にはナイフが握られていた。
「ストップ! 約束は守るからそのナイフはしまって! じゃないと本当に置いて行くからね」
「絶対、絶対にですからね!!」
セリサイトはナイフを納めたが、その目はマジだった。
あっ置いていったらコレ、絶対刺されるな。
私としてもここまで連れてきて約束を反故にする気はない。約束を守らない人は最低だと瑠璃ちゃんが言っていたから約束を破りたくないし、そんなことで恨まれてグッサリなんて本当に笑えない。ただ……どうやって守るか思い浮かばないだけで。
一応、アマゾナイトに全員を運べないかと相談するも『重くて飛べない』と返されてしまった。
「だったら俺が残ってやるからその海賊を代わりに連れてってやればいいだろ?」
胡散臭い笑みを浮かべてそう提案したのは隊長だった。
「まだここに魔物が出ないとも限らないしな」となんとも責めにくい言い訳まで添えてくる。
「ぐぬぬ……自分だけ逃げるなんて卑怯ですよ!」
「知るか。それに俺があのエルフの嬢ちゃんの言うことを聞く義理はねぇだろ」
全くもってその通りではあるが、だがここで問題がある。
空いた枠は一人分。
コランダムを連れて行くか、セリサイトを連れて行くか。ダイアスはなんかいないから残ってもらおう。
「はーい! 儂も一緒に火の国に行きたいんじゃが!」
「却下」
考える間も無く返事を返した。
「なんでじゃー! チュールのやつも火の国に行くなら親友である儂も一緒に連れて行くべきじゃと思うぞ!」
「知るかー! そもそもランショウには火の国に連れてく約束なんてしてないし!! ただでさえコランダムかセリサイトどっちかしか連れて行くないのに話をややこしくするなー!!」
「いやじゃー!! 儂も空を飛んでみたいんじゃ!」
「本音はそっちか!! サイコパスフォックス!」
「オイオイ、嬢ちゃんまさか俺との約束を破るわけじゃねーよな」
「や、やっぱり僕を置いて行くつもりなんじゃないですか!! ひ、ひどい……こうなったらもう」
駄々をこねるランショウに、拳をバキバキと鳴らしながら詰め寄るコランダム、再びナイフを握ったセリサイト……。
こ、こここ恐いわッ!! アホー!!!!
とりあえずランショウは置いて行くとして、コランダムとセリサイトはコレはどっちを選んでも私死ぬんじゃない?
あ! 別に彼らは急ぐわけじゃないんだし、いっそう隊長に馬車を出してもらえれば。
そんな妙案を思いついた次の瞬間。
「火の国運ブ、占い師と商人と学者ダケ。神子様の命令にナイ人間は運バナイ……」
一瞬で論破される……。
「オイッ! 俺はいかねぇぞ!!」と隊長が叫んだが、聞き入れてはもらえないだろう。
どうやらセレナイト様に頼まれた人間以外は連れて行かないらしい。
そうですよね。六星夜はセレナイト様の命令は絶対ですもんね……。
はて、どうしたもんかと考えていると心配そうな顔をしてアルカナが声をかけてきた。
「ヒメル、みんなどうして怒ってるの?」
「あのね、みんな火の国に行きたいんだけどあの鳥でみんなは運べないんだって。でも、海賊たちは私が火の国に連れて行くって約束したから、一緒に連れて行けって怒ってるんだよー」
うんうん、と頷きながら話を聞くアルカナは本当に可愛い。
もう何も考えずにただただアルカナを愛でていたい、そんな事を考えていると
「なんだー♪ だったらお母さんの家に行けばみんなで火の国に行けるよ!」
「!!!? え……お母さんの家ってアルカナと最初にあった?」
「うん! 転移魔法陣で行けるよ」
アルカナと初めてあった幻惑の森にある趣味の悪いピンクの家。
確かに森を出るために転移魔法陣を使った記憶があるけども。
「あれって森の入口までじゃないの?」
「横にある装置で切り替えられるよ。火の国と〜水の国と〜風の国と〜光の国に行けるよ♪」
――初耳です。
「最初に光の国へそれで移動してたら、エルフの国に近かったんじゃないかな?」と考えたが過ぎた事を気にしても仕方ない。私は考えるのをやめた。
そして両手を大きく叩いて注目を集めた。みんなバラバラに何か言っていたが喋るのをやめ、私に視線が集まった。
「はい注目! みんなで効率的に火の国に行くために今からアルカナの家に行きます!!」
「突然どうしたんじゃヒメルちゃん?」
「アルカナの家には火の国に行く転移魔法陣があるらしいので、それで」
「て、転移魔法陣であるか!! それは未だ研究がされているものであるが、実在するのであるか!? それにアルカナ殿の家ということはもしや人工精霊の研究資料なんかも置いてるのでは……? 吾輩行きたいである!!」
突然早口で話はじめたウッドマンさんに一瞬唖然としたが、ランショウとウッドマンさんはこの案に乗り気のようだ。
で、問題の海賊たちは……。
「転移魔法陣だぁ? 聞いたことねぇが、それしか方法がねぇって言うなら行くしかねぇよな」
「ぼっぼぼ、僕も! タンビュラ船長に早く会えるならなんでもいいです!! タンビュラ船長に会えるなら!!」
こちらも意外にも乗り気だった。
「俺は行かねーぞ!!」
「だったら隊長だけジェットに運んで貰えばいいんじゃないですか? どちらにしろ私と隊長は火の国に連れて行かれるのは決定事項ですよ。ですよね? アマゾナイトさん」
「ソウ。占い師、商人、学者を連レテク。コレ絶対」
淡々と答えるアマゾナイトを見て隊長はぐうの音もでないと言った感じだった。
抵抗しようにも明らかにぶが悪いからね!!
すると隊長が諦めたようにこちらを見て
「で、その家ってのはどこにあるんだよ」と投げやりに聞いてきた。
「幻惑の森だよ」
「ハァアア? 幻惑の森だと!」
いつも読んでいただきありがとうございます。
ウッドマンさんが動物にご飯的に大人気って設定は当初からありました。
なので名前が「チュール」なのです。
そうです。猫ちゃんが好きなあのおやつからお名前を拝借してます。
さて次回は幻惑の森に向かいますよー。
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