14話:姫琉と原因と……
「ブラボー!!」
抑えきれない感動で拍手と共に思わず叫んだ。
セレナイト様が理由はどうあれ、人間と協力して魔物を倒したと言う事実に喜ばずにはいられない。しかし、出来たらそのポジションには自分がいたかったと切に思ってしまうが、あれっ? 涙が止まらないな……。なぜだか止まらない涙ひっそりと拭った。
ちなみに、感動している私の横でセリサイトは何やら呪詛の様なモノを唱えていたが、追いついたコランダムが来るなりサッカーボールのように豪快に蹴り飛ばした。多分、鬱陶しかったんだろう……。
まあ、呪ってる相手がギン兄とインカローズとセレナイト様だったんで、コランダムが蹴らなかったら私が蹴り飛ばしていたけどね!
「そういう訳で世界中を確認したが、全ての国で大なり小なりはあれど、火の国と同じ様に精霊の魔物化が起こっている……貴様らがいる土の国を除いてな」
「そう言われても心あたりがないんですよね~」
セレナイト様の期待に応えたいがやはり何も浮かばない。
「あっ、でも」
「なんだ。何か思い出したのか? 言ってみろ」
「いやぁ、でも間違ってるかもしれないし」
「かまわん。とにかく今はどんな小さな事でも、原因を紐解くきっかけになるやもしれん」
「でもでもぉ~」
くねりくねりと体をくねらせながら言い淀んでいると「えぇいっ!! いいから言えッ!」とセレナイト様が痺れを切らして怒鳴りあげた。
それを聞いて思わず嬉しそうに声を弾ませ「はいっ」と返事を返すと、何故かセレナイト様はぐったりと疲れているようだった。
「私たちは事前に大精霊が眠る場所まで視察に行きました! 特に何をした訳でもないですが」
「……なるほど。しかし、事前に行ったからと行って精霊の変質を抑える何かが起こるだろうか? それに、事の前に行くことが条件なら事が起こってしまった今となってはもう……いや…………」
ブツブツと呟きながらセレナイト様は視線を落とし考えに浸っていた。
わあっ! セレナイト様まつ毛ながいなぁ〜。はぁ〜これはいつまでも見ていたいわ。
「おお、そうじゃ! 原因あれじゃないか? ヒメルちゃんが壊してしもうた……せーぶきゅうじょう?」
「えっ、西武球場……? ……それってセーブポイントの事?」
「おお、それじゃそれ! あれ、ヒメルちゃんが触ったら動かなくなったじゃろ? もしかしてあれが原因なんじゃないか?」
自分にとって都合の悪い事だったのですっかり忘れていたが、確かに壊しました。
ってかランショウの世界観ぶち壊しのボケがわかりにくいっ! 偶然かっ偶然なのか!?
「ところでヒメルちゃん。さっきの……」
「オイ……そのセーブポイントとはなんのことだ」
ランショウが何かを言いかけたが、セレナイト様の質問にかき消された。
聞き返しても良かったが、ランショウの話よりセレナイト様の話の方が大事に決まっているのでそのまま聞こえなかった事にした。
セレナイト様の質問に、自分の中の持てる表現を駆使し身ぶり手振りも交えつつ説明するも、誰1人として理解できず、諦めた私は最終的に「お祈りすれば死んでもやり直せる魔導具」と言う具合にまとめると、眉間に皺を寄せつつも理解したと言った具合だ。
「我ながらこの説明は天才じゃないだろうか」
思わず頷きながら自画自賛をしていると、水面の向こうにセレナイト様が消えていて、ギン兄だけがそこに立っていた。
「あれ、セレナイト様は何処へ?」
「あー、神子様は向こうでちょっと別のやつと話してるっすね」
「別の人って……?」
キン兄、おっさん、インカローズがいないのに一体誰と話しているんだろう? お城の人かな。
そんな事を考えていると服の裾を誰かが引っ張ってきたので、目を向けるとランショウが上目使いに私を見ていた。
「……何」
「そっけないのお。それよりさっきの話で出てきたウッド」
「オイ、占い師」
「はい、なんでしょうか!!」
またしてもランショウの話はセレナイト様によって遮られた。さすがにタイミングの悪さに少しだけ同情してしまう。
が!!
セレナイト様が私をご指名であれば優先すべきはセレナイト様との会話に決まっている。そんな訳でランショウから水面に移るセレナイト様に視線を移した。
「貴様にひとつ仕事を任そうと思う」
「はいッ! なんなりとお申し付けくださいッ!!」
まさかのセレナイト様からの直々の頼み事に疲れなんてどこかに飛んでいき、今の私は未だかつてないほどのやる気に溢れていた、のだが……。
「儂の……儂の話も聞いて欲しいんじゃがっ!!!!」
ついに痺れを切らしたランショウが声を上げ、そのままめそめそと泣き真似までし出した。
「みんな、みんな儂のことなんてどうでもいいんじゃな! そんなに邪険にすると流石の儂でも傷ついちゃうんじゃからな!」
「もぅ、面倒くさいなぁ……何?」
ぶっきらぼうに聞けば、唇をつんと前に尖らせながら話だした。
「さっきのせれないと様のありがたーいお話に出てきたウッドマンって、もしかしてチュール・ヴァーダイト・ウッドマンの事かの? 光の国で精霊の研究をしておった」
「? 多分……そうだけど……」
ウッドマンさんのフルネームなんて覚えてないので曖昧に答えると、なぜだかランショウは満面の笑みを浮かべた。
「そうだ、ちょうどいい。その学者のことなんだがな今そちらに向かわせている」
「……? すみません。なんとおっしゃいましたか?」
セレナイト様の突然の突拍子もない発言に思わず聞き返してしまう。
「件の学者だが、土の国に向かっている」
もう1度言い直されてもやっぱりセレナイト様はウッドマンさんがこっちに向かっていると言っている。
「そもそも朝まで行方不明だったウッドマンさんがどうしてこっちに向かっているんです!?」
「話すと長くなるから割愛するが、私の行方を捜索していた部下が、砂漠で偶然にも学者を保護していてな」
「え、そんな偶然あるの」
火の国の砂漠エリアって、相当広いはずなんだけどな。ウッドマンさんって以外に強運?
「連絡を取って今そちらに向かわせている。先程確認したがもう間も無くそちらに着くだろう」
「セレナイト様の……部下。それに、もう着くって……」
火の国からここまでは相当離れている。普通の船を使ったら軽く何ヶ月もかかってしまう。なのに、もうすぐ着くって事は……嫌な予感がする。
「占い師、貴様はやつと合流してすぐに火の国まで来い。そのセーブポイントとやらを壊してみせよ」
「は、はい。それは全くもって問題ないのですが……ないんだけど」
セレナイト様からの初めての頼み事。心底嬉しくて飛び回って喜びを表現したいが自分の背筋がゾクゾクとしだした。
「セレナイト様の部下……って事は」
「ああ、言い忘れておったが、私が聖域を離れた事は全て貴様と商人に拐かされた事になっている。殺すなとは伝えてあるが、骨の2、3本は覚悟しておけよ」
ニッコリ微笑んだセレナイト様はそのまま水伝鏡の通信を切った。
次の瞬間私たちのいた頭上から突風が吹き荒れる。
「クッソ……なんだってんだ!?」
静観を決め込んでいた隊長が突風で吹き飛んだ屋根を見て思わずぼやいた。
だがしかし、正直屋根の1枚や2枚で済むなら御の字だと思う。
すっかり暗くなった空を見上げると木の間から見えた満月を背に、巨大な黒い鳥が降り立った。
そして、鳥の背から褐色のエルフの女性が1人私たちの前に現れた。
「占い師……商人……ドコ?」
少しカタコトで話す彼女を私はよく知っていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
お話が久々ヒメルちゃんに戻ってきて悪戦苦闘しながら書いています。
次回は新キャラエルフのお話です(予定)
そういえばブックマークが増えていて大変嬉しいです!
ありがとうございます!
引き続き、ブックマーク・評価・感想お待ちしています!
21.06.26 誤字修正・加筆




