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声の神に顔はいらない  作者: 上松
97/403

97 命のピースは誰の声?

「それじゃあまたね~、ハロハロ~」


 私の目の前にはモニターに映った少女が手を振ってる。その動きはとてもなめらかで、そして仕草とか所作とか、本当にそこに彼女がいるみたいに感じる。昔はCGで作ったキャラなんてなんかカクカクしてみえた物だけど今や、本当にそこにいて、自然とかわいいって思えるんだらかすごい。


 まあ私の声がなくなったら、いきなり魂抜けたみたいにみえるんだけど……一応三十分くらいかけて台本にある台詞は読み終わった。台詞と呼べない感じの、ため息とか、吐息とかそんなものもあったりしたけど、そこら辺を表現するのも声優には必要な技術だ。


「ふう」


 私が肩の力を抜くと、パチパチと拍手の音が聞こえた。それは社長さんが私を称えて手をたたいてくれてる音だ。私は気恥ずかしくてペコリと頭を下げるしか出来ない。


「やっぱ声だけは最高だな」

「生は、久々ですよね。成長してますから」


 マネージャーがそんな激励なのか、失礼なのか分かりにくいことを言ってきた。まあマネージャー的には褒めてるんだと思う。てか、私が褒められるのはこれだけだし、実際私を拾ってくれたのは彼である。声だけの私を事務所に入れてくれたのはマネージャーだ。


 イベントや顔出しとかNGな私は今の声優業界に沿ってない。だから、いくら声がよくても……って感じだったらしい。本当なら私は声優にもなれなかった。けどマネージャーが熱く説得してくれたとかなんとか。何故にそんな事を私が知ってるかというと、事務所の他の人に聞いたからだ。


 結構有名な話らしい。マネージャーは私がそのことを知ってるなんて知らないだろう。言う気も無い。だって言う必要なんて無いのだ。私は彼の期待に、彼の目に間違いは無かったと、この声で証明すればいいだけだから。


「なるほど、これは……」


 そう言ってるのは堺さんだ。彼は口を押さえて、私をすごい凝視してる。そんな風に見られることには慣れてないから私は顔をそらした。元からこの部屋にいた人は、何やらパソコンを見てる。私の台詞聞いてくれてたのだろうか? 


「社長、いいですか?」

「おう」


 社長さんはパソコンをいじってる人のところに行って何やら話してる。うまくやれたのだろうか? はっきり言って、このCGのキャラのことを、何も把握してないから外見のイメージだけでやってみたけど……まあ社長さんは拍手してくれたし、あながち間違ってはなかったと思うけど……


「すまない匙川くん。ちょっと声のトーンを変えたバージョンとかもききたいんだが?」

「ええ、はい。もっと設定を教えてくだされば、それに沿いますけど?」


 台本には台詞しかないし、その台詞もいろんなキャラの台詞を持ってきてる感じで、この目の前の子って感じじゃないんだよね。最初のは元気溌剌な感じでやったから、もうちょっと落ち着かせよう。そう思って何回か、同じ台詞を違う声でやってみる。


 そんな事をさらに三十分位してると、ドアがいきなり開いた。使用してるのにノックもないとか……もしかして田無さんが例の脚本家さんを見つけて慌てて報告しにきたとか? そう思ったけど、違った。


「社長~、キャラ固めてきたから聞いてくださいよ~」

「こら勝手に――」


 いきなりドアを開けて現れたのはふわふわな髪を栗色に染めてサイドにリボンをつけたかわいい感じの女と、その女に振り回されてそうな男の人だった。

 そして私たちの事を見て、モニターとか見て、そして社長さんを見て彼女の顔から、感情が消えた。


「え? なんで?」


 その声がとても恐ろしくて身震いしたよ。

次回は17時に予約投稿してます。

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