59 美しいことはそれだけで罪であり、幸という矛盾をはらんでる
夜が来た。今夜もバルクさんが大物をよんでクルーザーで立食パーティーである。クルーザーはこれを個人で持ってるの? というくらいに大きい。もうこれフェリーじゃん。いや、それだと安っぽい? 豪華客船……ってまでは言えないくらいの大きさだが、たぶん個人が持ってる船では最大サイズだと思う。そしてそれは側だけではない。中身も凄く豪華だ。実際自分が豪華客船に乗ったことがないからわからないが、テレビとかで放送とかされたのを見たことはある。だから少しは比べる事は位は出来る。自分たちは実は夜になる前にこのクルーザーまで来てた。
それは色々とホストとしての準備とか、着飾ったり、そしてこの内装の準備具合とかをバルクさんが確かめるためでもあった。なんか市場? というかバイヤー? みたいな人の所に行ったときに、なんかとても良いものが仕入れられたなんて言われたらバルクさんは直ぐに買う。値段なんて言わせない勢いで買ってた。
真の富豪は値段なんて気にしないのだ。なぜなら、買えないものなんてないと思ってるからだ! もう意識が違う。考えるときはどうオリジナリティを出すときだけだ。市場で買えるものなんか値段なんてあってないようなものなんだ。
だからこのクルーザーもそうだ。きっとこれってオーダーメイドってやつだと思う。中は豪華な家具とか内装で飾れてて、とても快適な空間がある。立食パーティーと言ったが、中の方は座れるようにも実はなってるし。なんか上品な音楽が生演奏されてる。オーケストラ……とまではいかないが、場所さえ用意できればバルクさんはオーケストラさえ呼ぶと思う。まあ今回はクルーザーという場所だから流石にオーケストラは無理だったみたいだ。けど、きっと演奏してる人達は実は凄い人達なんだろう。パーティーのわき役としてささやかに音楽を奏でてるが、ずっと聞いてる人もいる。
自分には音楽の知識なんてない。いや、ある程度は勉強したが、それは知識であって感性じゃないんだ。だからあの人たちの演奏が良いとは思うが、それは生で聞いてるからって事だと思う。なんだって生なら凄いと感じるあるあるである。有名人は画面越しよりも直接見た方が得した気になるし、料理だって作り立てか一番だ。冷凍も最近はとてもレベル高いが、やはり気持ち的には作り立ての生感覚がいいだろう。そっちの方がなんかやっぱりいいことの様に思えるんだ。
だから凄いな……とか思うが、技術的はまったくだ。料理も凄い、テーブルがいくつかあってそのテーブルごとに様々な国の料理がならべられてる。中央に大きな皿で派手で大きなものがドン!! っとあってその周りにはつまんで食べれるものがある。小皿に小分けされてて、一口で食べられるように配慮されてた。だからか、こんなパーティーの割には料理は減ってる。まあけどなくなる事はない。なぜなら別の料理が補充されてくるからだ。
実際なくなってもいいと思うが、そこはバルクさんの立場的にダメなんだろう。
「セーンセイ」
甘ったるい片言の日本語が聞こえた。そして片側の肩にかけられる体重。同時にちょっときつい香水の匂いが鼻をつく。明るい金髪がさわさわと首筋をくすぐってきて、その体の柔らかさと対照的に、こっちの体は一気にこわばった。一部分が……じゃない。全身がぴきって感じになった。
「オーレライ……」
何やら彼女は言ってるが、翻訳機を通さないとなんと言ってるかはわからない。けどそんなのは彼女はお構いなしだ。蠱惑的な瞳をむけてこちらに顔を近づけてくる。不思議だ。彼女に攻められると体が動かなくなる。絶対にキスしようとしてる。この前のパーティーでも彼女はそうだった。「挨拶だから」といってやたらキスやハグをしたがる。自分が狙われてるのはわかってる。けど、それなのに彼女『オーレライ・アンサー』に掛かるといとも容易く絡めとられてしまう。これがハリウッド新進気鋭の女優の力か。彼女か狙ってるのは自分ではなく、自分の作品の役だ。けどそれを取るためにはなんだってやってやるという野心が燃え滾ってる。
だからこそ、女の武器を使う事に試らないなんてない。日本では芸能界の枕問題かとよく聞くけど、やっぱりハリウッドもそう変わらなそうだ。オープンな分、こっちのが積極的にやってる? 取り合えずそんな百戦錬磨なオーレライにそんなに経験なんて自分では相手にもならない。
蛇に巻き付かれたかの様にして、自分の唇は再びこの女に……
「やめください!」
そう言って自分とオーレライの間に入ってくるのは深いブルーのドレスを着た黒髪の女性。いや、それは自分が贈ったドレスだ。結った髪を止めてる大粒の宝石をあしらった髪留めとかはバルクさんだが、やっぱり深い青を選んだのは間違いじゃなかった。知的な此花さんには似合うと思ったんだ。此花さんはこのクルーザーで全身を磨かれてまさにハリウッド女優にも一歩も劣らない見た目となって表れた。美人になるとは思ってだが、これは想像以上。自分だけじゃなく、この場の男性たちの視線が此花さんに吸い寄せられていってた。
次回は22時に予約投稿します。




