04 進め
それから夜にはまたあいつが来たが、中に入れることなく、洗濯物だけ渡して追い返した。売れっ子作家は売れっ子声優並みに忙しいのだ。実際どっちが大変かは知らないが、忙しいのは本当だ。次回作の構想に、既存の作品のメディアミックスの監修とかやる事は山ほどある。未だにネット小説も投稿してるのだ。義務なんてないが、最初がそれだったから今だに続けてる。
「ふう……」
俺は飲み物を置いて伸びをする。今書いてる原稿は仕事とは関係ない。だがネットに投稿してる奴でもない。けど、実は一番力を入れてたりする。けどこれをどうにか世に出したいとは思うけど、ためらいもあるのだ。一度自分がこれを世に出そうとすればそれは案外あっさり出来るだろう。けどその瞬間に俺の手から離れてしまう。色んな事が動き出してしまうだろう。それはちょっと……贅沢な悩みなのはわかってるが、この作品のキャラは特に愛がある。
だから自分の手から離したくはない。けど……
「世に出したい気持ちはあるんだよな~」
映像化したのを見てみたくはあるんだ。実写とかはこの作品の場合、言語道断だが、アニメは歓迎だ。だがそれにも問題はある。それは時代だ。今の時代、アニメになると沢山の人が関わる。そうなると俺の思惑だけでことは運べない。制作側はアニメの制作費を回収して更に設ける為に色んなことをやる物だ。それは悪くない。普通だ。当たり前の事。けどそうなるとキャラは汚されるのだ。無駄に肌を晒したり、サービスシーンが入ったり、人気の声優にごり押しされたり。
作者だからってなんでも希望が通るわけじゃない。俺は基本、今まではそこまでメディアミックスに干渉しない作者として通ってる。勿論最低限、作品の質という部分は無視できないから、ある程度は意見を言うが、それは制作が大きく動き出す前までだ。動き出したら、後はその道のプロに任せた方がいいと思ってる。そんなこれまでのスタンスをいきなり替えると周囲が戸惑うだろう。沢山の人が関わるからこそ、落としどころを見つけて進めていくのが仕事という物なんだ。
「どうしたものかな……」
とりあえず俺は此花さんに頼まれた今日打ち合わせの作品に取り掛かった。そして数日後、新たなアニメの為の声優オーディションがあるとかで参加を打診された。こういうのには行くようにしてる。だって声優は大事だ。キャラに命を吹き込んでくれるからな。誰よりも作者である俺がキャラを愛してるのだから、その声に妥協なんて出来ない。なので勿論『行きます』と返しておいた。
次回は正午に予約投稿してます。