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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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398 運命の日 33

「ウイングイメージ所属、『匙川ととの』です。お願いします!!」


 私は普段は絶対に出さないようなハッキリとした声をだす。なにせオーデションだ。しかもただのオーデションではない。私の声優生命がかかったオーデションである。いつものようにモゴモゴと話していい場所じゃない。

 いつもオーデションには気合を入れていくが、今回は更にその気合度が違う。私は絶対にこのアニメで役を勝ち取らないと行けない。そうしないと、私は一生静川秋華の変わり身で終わるだろう。

 きっとクアンテッドの大室社長に取り込まれる事になる。だって、大体のオーデションでクアンテッドの圧力があるのだ。私にそれに抗えるだけの人気があればよかったが、いくつかのアニメに出てそこそこの人気とかいうか、なんかそのなのができたと思ったが、実際私の人気に実態はない。


 そこそこネットで凄い声優がいる――と話題になったくらいだ。私自身がなにかのイベントでどれだけ集客した……なんてデータはない。だから結局はアニメが終わり、ラジオも終わり……私という存在は忘れられていってる。

 たくさんいる声優でずっとその名前が覚えられる……なんてのは本当に一握りの人だけなんだ。私はまだそこには達してなんかない。

 だからどこも大手の圧力に屈する。本当に私を起用して利益が出るのなら、はねのけてだって起用してくれる所があってもおかしくないんだ。でもわかってる。私についてるファンなんていないと。


 それに単純に私の実力不足でもある。私は今の声優の誰よりも技術があるって思ってるが、ソレだけを制作側は求めてるわけじゃない。今の時代、様々な物を求められてる。だから高い技術だけじゃ……ソレだけじゃ需要にはなりえないのだ。


 他になにもない私に必要なのは圧倒的……そう、圧倒的な声。他を圧倒できるほどの技術力。他に変わりを用意できる……なんて程度では、私には需要なんてない。だって可愛くて若い声優は次々と現れる。

 それはどうしようもないことなんだ。


 正面には長テーブルに審査員である人達が腰掛けてる。なんかパトカーの上で天灯してる様な物があるけど……なにあれ? 


(いや、そんなのに気を取られるな私)

「それではこれが光ったら、セリフをいってください」

(それって、合図の為のものなのね)


 なぜにソレを選んだのかはわからないけど、どうでも良いことだろう。オーデションにだけ集中するべきだ。皆さん、別段私を見たりはしないね。まあありがたい。いや、多分入って来たときには見たと思う。でもきっと前の静川秋華と比べられてる。

 それで見なくてもいいと判断されたんだろう。だって静川秋華ならずっと見てるはずだ。でもそれでもいい。


(視線がない方がありがたいしね)


 いつものちゃんとしたブースなら、審査員の人達はそこまで目に入らない。でも今回は目の前だ。ここまであからさまに見えると、どうしても審査員の反応が気になる。気になってしまう。だから見ないでくれるなら、それでいい。


(ただ私の声を聞いてくれれば、それでいい)


 私はなにも持たずに、ランプが光ると同時に、セリフを口にした。


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