389 運命の日 24
「まったくお前らは」
「すみません! すみません! すみません!」
私は必死にそういいながら何回も頭を下げた。なにせ一回引っ込ませた監督を再びこの場に戻してしまったんだ。運動不足なのか、再びここまで来ただけでゼーハー言ってる監督。監督とわかると、この格好も……うん、やっぱりずれてるとは思う。なんでそんな白で決めてるの? しかもオールバックでサングラスだし……怖いよ。
まあ中に来てる服はサイズがあってないのか、一応白であわせてるが、腹が出てる。ポコっとね。この人の不節制ぶりが出てるようだ。
「先生も、いるんなら止めてくれよ」
「いや、これはて貴方が悪いと思いますよ」
「俺が?」
そういって自分を指差す監督。私たちそれぞれに顔を向けるが、正直サングラスでどこを見てるかはわからない。まあ誰もそれち反応しなかったんだけど……多分先生の言葉への同意を求めてたんだろうが、私たち的にはどうしたらいいか……
「そうですよ。なんですかその格好? 気合の入り方が斜上してますよ」
「俺の一張羅なんだが……流石にいつもの感じで声優さん達を会社に招けないだろうが。これは俺のなかで最高の服なんだよ」
そう言ってバサッと羽織ったコートを広げてる。それが一張羅なんだ……とは思ったけど、和紙は何もいわないよ。でも……
「それは単に悪趣味ですね」
「悪趣味……」
ちょっと、何監督を凹ませてるのよ。もちろんそういったのは静川秋華だ。流石は今や女性声優頂点に君臨してる奴。怖いものなしか。私だって思ってても言えないよ。だってオーデションが始まる前から悪印象になるじゃん。
「そうですね〰、ちょっとそれは〰でも監督さんなんですか。それならまあ、人とは違うってことでいいのかも? あっ、私は浅野芽依です。よろしくお願いします」
そう言って別のグループとおしゃべりしてた筈の浅野芽依が戻ってきた。こいつ……いちおう自分の意見もいいつつ、フォローもいれるという高等テクニックを使ってきてる。しかも名前までだして、自己紹介までバッチリか。
さらには悪い印象は多分静川秋華の方へといくだろう。浅野芽依の今の言い方なら、普通にフォローされたっておもえるし。自分への感情を計算しつつ、危険性が高いディスりも交えて自分自身を売り込む――浅野芽依、なんて恐ろしい奴だ。
静川秋華という頂点にいる声優さえも自分の踏み台にする……その心意気は本当にこいつは凄い。
「監督ならオーケーなのか?」
「監督さんは皆さん個性的ですからね」
「まあ個性は大事だからな。まあだが、怖がらせてる気はなかったんだ。目一杯くつろいで、そしてオーデションに挑んでくれ。皆の百%……いやソレ以上の演技を期待してるぞ!!」
そんな発破をかけて監督は「がはは」と笑いながら今度こそ戻って言った。




