383 運命の日 18
「そうなんだ、田中さんは受かったんですね」
「多分、あの班で受かってないのは匙川さんだけ……あっとごめん」
「いえ、大丈夫です。わ、わかってます」
実際心にぐさっと来たけどね。でもここでせっかくの雰囲気を壊したくはない。それに自分ではよく出来たと思っても、落ちる事なんてのはよくあることだ。それは自分がオーディションの主催者側に魅力的に映らなかった……って事で、演技意外にも色々とそういうのは絡んでくる。
まあ私はその色々って部分を演技でぶん殴れる――そんな声優になりたいわけだけど……あの時のオーディションではそれが出来なかったってだけだ。だから別に田中さんが気にする事ではない。まああの時の班の私以外って部分はちょっと気になるところでは有るけどね。
でもそう……そういう事も無いわけじゃないだろう。だって、皆さんとてもいい演技をしてたと思うし……それをたとえ私が引っ張り上げてたと思ってたとしても、それは私の勝手だし……うん。
「でも、私達があのオーディションに受かったのは匙川さんのおかげだと思ってます。あのとき……私達は貴方に引っ張られて、いつも以上の演技が出来てたんです」
「そんな……それは皆さんの実力ですよ」
ですよねー。うんうん、そうだと思う〰――とか内心では思ってる。だってあの時、明らかにわたしが引っ張ってた感あったもん。私はそれを感じてた。でも私だけの意見ではそれはただの主観だし……気の所為……というか自惚れ……もあると思ってた。でも今まさに第三者の意見が聞けたことでそれは私の自惚れなんかじゃなかったと証明出来たんじゃないだろうか？
「いや、私達はみんなでそんな話をしてたんです。私達は受かったのは匙川さんのおかげだって」
「そんな買いかぶり過ぎです……よ」
ヤバい……頬がピクピクするのが押さえられない。だってこんなに褒められたことなんか私の人生において初だし……私のこれまで使ってなかった、表情筋では耐えきれなくなって当然だろう。
「いつかお礼をいいたいと思ってました。本当にありがとう」
そう言って田中さんは私に手を差し出してくる。いままでバイキンとか汚物とか言われてきて、他者からそんな手を差し出されるなんて経験がない私はとりあえずいっぱいゴシゴシと自分の手を服でこすって綺麗にしておいた。そして田中さんに聞いた。
「えっと私が握って大丈夫ですか？ 汚い……とか」
「此の通り大丈夫ですよ」
そう言って彼女は自分から私の手を取ってくれた。彼女の手はお世辞にも温かい……とは言えないちょっとヒンヤリとした手だった。田中さんはスレンダーだし、なんかふわふわ系ではなく格好いい系の女性なので、そんなものかなって思った。
ても心無しか大きい。でも彼女が躊躇わずに握ってくれて、とても嬉しい。どうやら此の人もいい人のようだ。爽やかな長身スレンダー女性で格好いい系だからなんか女の子にモテそうだなって思った。
