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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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366 運命の日

 オーディションの日が……運命の日がやってきた。その日は雪が降っていた。春先に入りそうで、ちょっとだけ暖かくなってきた……とか思ってた時に季節帰りを起こして、冬が戻ってきた――そんな感じの日。


 ワンルームの部屋からコートを羽織って出ると、冷たい空気が肺に刺さってきた。白く濁る息。扉を締める為にノブを引くと、パチっと静電気がきた。うう……私はなぜか静電気が起きやすい体質なんだよね。

 多分末端が乾燥してるんだろう。すぐに唇とか指先とかカサカサになるからね。


「むむ……」


 私は警戒しながら、再びドアノブに手を伸ばす。そして今度こそ――ガチャ――と鍵を掛けた。体温を奪っていく鍵をかばんにしまって、一度はぁーと手に息をかける。そしてカタンカタンと足音を響かせつつ心もとない通路を歩き、むき出しの階段を降りる。その時も油断してはならない。

 古びた感じの階段は濡れただけでとても滑りやすくなってる。雪はまだ積もってないが、それでも濡れてはいる。ここで転んで怪我して、病院行き……なんて事になってオーディションへと行けないなんて事になると後悔してもしきれない。かなり時間に余裕を見て出てるんだ。


 色々な最悪……それを私は想定してる。だから私は階段もゆっくりと降りる。


「きゃはははは」


 そんな声が聞こえる。どうやら近所の子供が雪に興奮してるようだ。もしかしたらはしゃいだ子供が目の前でトラックに引かれそうに成ったりするかもしれない。そうなっても助けないぞ! と思ってはいる。


 実際、そういうときに動ける人なんて何人くらいか……私のこの心意気は冷たいなんて事はなく、普通だ。非難されるいわれはない。でも実際、その瞬間に立ち会うと、実際自分がどんな行動を取るかなんてわかんない。

 私は内気だし、運動神経だって感滅的だ。でももしかしたら、そういう場面に出くわしたら、もしかしたらそんな事頭から抜けて走り出すからもしれない。だから私はそそくさとアパートから離れる。勿論道路でも警戒は怠らない。


 何が起きるか分からないのが人生だ。いきなり車に突っ込まれるかもしれない。駅へと向かってるが、こういう日くらいはタクシーを使ってもいいかもとか思う。

 電車だって何が起きるかわからない。日本の電車は世界一安全だと信じてるけど、外的要因は避けられないからね。どっかの誰かが、線路に飛び出して電車を止めるかもしれない。とりあえずスマホを見ても順調にうごいてるから大丈夫そう。

 電車で都内の方へとおもむき、改札を出た所で私に声を掛けてくる声があった。


「おはようございます、ととのさん」


 それは制服姿が眩しい篠塚宮ちゃんだ。女子高生声優としてプチブレイクしてる彼女も、今回のオーディションに参加するって事だったので、一緒に行くことになったのだ。

 まあ仲間というよりはライバルな訳だけど……険悪なわけじゃない。むしろ一番仲いいしね。けどだからってオーディションで手を抜くなんてことはありえない。なにせ私はこのオーディションに賭けてるのだから。

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