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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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349 皆が誰かの道を作ってる

 なんて胸が苦しんだろう。でも私はそれでも言い出すなんて選択肢はなかった。だって……そんな事したって意味なんてない。また争いになるだけだ。それに私はこれを覚悟してた。私にはこれしかないから……たとえ後ろ指を刺されたって……私にはこれで生きていくって選択肢しかない。声優以外に、私は出来ることなんて本当に何もない。だってどんくさいし、何かしらのミスとかするし……きっと私はこの仕事をできなくなったら、数年で死ぬだろう。そんな自信がある。

 だから譲るなんことはできない。どれだけ苦しくたって私はこのオーディションに行って、役を勝ち取るんだ。


「もう先輩達〰、それは勘違いですよ〰。私はちゃんと礼儀ってやつを知ってます。私は皆さんにちゃんと感謝してます〰」

「そうは見えないわよ?」

「いえいえ、本当ですよ〰。みなさんが開拓してくれたから、私は楽出来る訳ですし〰」


 そんな事をこともなげに言える浅野芽依。すると横から浅野芽依の頭にチョップが落ちる。とうとう北大路さんが手を出したか? と思ったら登園さんだった。


「こら、それは皆一緒ですよ。貴女の歩んだ道も後輩の為になるんです。だから、舗装しておいてください。何なら私たちのためにも」

「むぐ……私はそんなつもりは……」

「つもりも何も、そうなるんですよ。わかってるでしょ?」


 流石は元祖って程ではないが、アイドル声優というのを世に広めた人だ。年を取ったとはいえ、十分その容姿は魅力的で、ドキッとさせられる仕草っやつをわかってる。それにふざけてた浅野芽依も登園さんのその返しにはなんと返したらいいものか……って悩んでる。実際、誰もが通ることになる。浅野芽依にはそんなつもりはないのは確かだけど、そんなの関係ない。なにせ私たちだって、北大路さんが、そして登園さんが作った道を浅野芽依が言ったように通ってるんだ。だから浅野芽依にだって拒否権なんてない。


「でも貴女は私たちに通るのが嫌だからって手を抜いたり出来ないですよね? たってそれじゃあ上にいけませんし」

「勿論……私は上に行きます!」

「偉い偉い。私は貴女も応援してますよ」


 登園さん……なんて恐ろしい人だ。あの浅野芽依を子猫の様に扱ってるよ。なんにでも噛み付いたり、餌があったら媚びたりしてくるいけ好かない野良猫みたいなやつなのに……浅野芽依のやつ、頭を撫でられておとなしくなってる。私もああやって扱えれば……と思うけど、私には浅野芽依の頭を撫でるとか無理だ。でも私はこの罪悪感を軽くする術を、登園さんの言葉でわかった。

 だからちゃんと言っておく。それがズルをした私のせめてもの二人への敬意だ。


「わたし……も! お二人の為にも道を……作ります!!」

「――――うん。頑張って」


 そう言って登園さんは私にもナデナデしてくれた。ああ……なんだろう、安心する。なるほどこれは浅野芽依もおとなしくなるわけだ。私も道を残せれば、きっと皆のためになる。そんな小賢しい考え。でも私は更に決意を強くする。絶対にオーディションに受かってみせる!

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