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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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344 私、賄賂送ってた

「えっと……そんな事をして大丈夫なんですか? いえ、とってもありがたいんですけど……ありがたいんですけど……」


 私は思わず不安になってそんなことを聞いた。ここで豪胆なやつなら、きっと『ありがとうございます!!』とか言えるんだと思う。だって最高だしね。社長権限だよ? それに反対できる奴がいるだろうか? 実際私の心象は最悪になるだろう。発表されるかなんてわからないが、もしも社長権限で誰かが枠を勝ち取ったと言われる……有無も言わせないと宣言されたらどう思うだろうか? 確実に『枕』やったなって思う。

 枕というのは芸能界でまことしやかに噂されてる女性が仕事を取る手段だ。まあつまりはやらしいことをして気にいられると事で仕事を回してもらうって言うね。私も長年、声優という芸能界の端っこにいるわけだけど……私はそんな話を聞いた事はない。いや、噂はよく入ってくる。特に売れっ子になり始めるとそういう話がどこからともなく出てくるものだ。まあ有名税みたいな感じで。


 浅野芽依に聞いたけど、彼女もしもそんな話がきたら受けるとか言ってた。まあつまりは来てないんだろう。浅野芽依に来てないのなら、実はないんでは? と思う。なにせ今は昔と違ってどこからその事実が流出するかわからない。リスクが昔と違って大きいよね。でも浅野芽依の奴はやる気満々。今か今かと待ってる状態で来てないから、ないんでは? と思うわけだけどね。それに浅野芽依くらいの人気が実際、そういう枕とか誘うには丁度いい感じだと思う。全く人気も露出もなかったら、そもそもそんな誘いに乗るか……まあ藁にもすがる思いってあるから、そっちもあるだろうけど私にはなかったしな。


 それに浅野芽依くらいの中途半端というと語弊があるが、つまりは酸いも甘いも知ってるくらいが、必死じゃん。私も必死だけど、私は自分が参考にならないと知ってる。だって芸能界の人たちはきっと色々と肥えてらっしゃるはずだ。美女を食い飽きた……ならわかるけどね。それでも私ほどのところにはこないと思う。でも浅野芽依はある意味色々と丁度いい。だから彼女に何もないと言うことは、もうそんな文化は廃れたのかも? とか思うわけだけど、それは私が長年この業界にしがみついてたからわかるわけだ。


 それに人は嫌な事は悪い方へと考えるものだし、真実を言っても、それを信じるかはそれぞれ次第。だからいまでも枕なんて言葉があるんだし……ね。私の不安を感じてくれた社長は言ってくれる。


「大丈夫だよ。ちゃんとクジで選ばれたようにするよ。そこにちょっとした不正をするだけさ」

「リスク……高くないですか?」

「これは千載一遇の好機だよ。君に取ってね。クアンテッドの力はあの先生には届かない。公平に判断してもらえる。このオーディション以外に、君が望めるものはない」


 残酷と希望が入り混じったような事を社長はいう。まあ間違ってはないけど。私が公平に判断してもらえるオーディションはこれしかなくて、そしてこれを逃せは他はない。まさに希望と絶望だ。


「でも社長には……そこまでやる……動機が……」

「いや、動機はある。君は忘れたのかい?」

「?」


 何を言われてるのかわからなくて、私は下を向く。だって私が首をコテンとかしても殺意が湧くだけだとしってる。だから下を向く。そんな私に社長はいうよ。


「君が融通してくれた一千万で会社は助かったんだよ」

「一千万……あぁ」


 一瞬何その大金? とか思ったが、そういえばクアンテッドの大室社長からそんな大金をわたされたんだ。そして怖かったから、マネージャーに渡して……そういえばまだ返してもらってなかった。なんか破れたりしたから、代わりに銀行の方にいってそれから振り込んでもらうとか……そんな予定だったが、そういえば一向に振り込まれてない。まあ大金過ぎて頭から追い出してたよね。


「会社が助かった……というのは?」

「この会社も順風ではないんだよ。でも君のおかげで乗り越えられた。本当に感謝してるんだ」


 そう言って社長は深く頭を下げる。そんな……私はこの事務所にひろってもらわなかったら、この業界に入ることもできなかっただろう。だから感謝してる。まあだからって一千万をそのまま持ってかれても困るんだけどね。だってあれはそのうち大室社長に叩き返すのがかっこいいかなって思ってた。最悪声優でいられなくなったときのための貯金だけど。


「君へのお礼をしたい。勿論一千万は返す。だがお金だけでは……ね。だからこのオーディションだ。その権利を与えるわがままくらいは皆ゆるしてくれるさ」

「それってつまり……私は賄賂を渡してたっことですよね……」

「旗からみれば……だが、これは感謝の気持ちだ。いやかい?」


 私は考える。でも答えは一瞬だった。だって、私は賄賂としてたわけじゃない。一千万は棚からぼたもち……ならこれも棚からぼたもちなのだ!


「受けます! 私をオーディションに行かせてください!!」

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